そして横穴へ
巨大蜘蛛は黒い身体に黄色の縞々が入った模様で、顔には黒い目が複数ついている。
崖ではあるが、糸を出しながら安定した形で降りてきていた。
「マジかよ! 横穴まで逃げきれそうか?」
「流石に無理だな。 下手に急げばすれば崖を落ちてしまうし……」
俺とライオンが話をしている最中、
「デュプルホークが1匹増えたわ!!」
「くそっ! あの鳥ども交互に襲ってきやがるぜ」
アリスが叫び、オルダンが忌々しそうに弓を射る。
しかしやはり牽制にしかなっていない。
「弓どっちか蜘蛛に放てるか?」
「ちょっと待ってね」
いつものんびりしているアリスもあんまり余裕がない様だ。
デュプルホークに弓を放つとすぐに矢をつがえ蜘蛛に射る!
狙いもそこそこで撃った割には的確に蜘蛛に飛んで行く!
しかし、蜘蛛は口から糸を吐くと矢を絡めとった!
「えぇ~!」
命中すると思っていたアリスから残念そうな声が上がる。
絡められた矢は糸を漂わせながら崖下に落ちていった……
「アイツ腹かも口からも糸出せるのかよ!? そんなのありか?」
「魔物に変化しているからな……常識には当てはまらん。 それより……どうするか」
足幅30cmの場所じゃ剣なんて使えねーし……矢は無理だし。
「しょーがないッスね。 ルルを守るのが私の使命ッスから」
リリが上から迫る蜘蛛を見ながら呟いた。
しかしその声は震えている……。
「リリ待て、お前何をする気だ?」
「決まってるッス。 崖を駆け上ってあいつに蹴り叩き込んでくるッス!」
どう見ても自殺行為にしか思えん。
「却下だ、却下!」
「でも、このままじゃみんなやられちゃうッスよ! 私はこれでも王国騎士団ッス! みんなを守るのが役目ッスよ!」
「じゃあ、ここを切り抜けた後、誰が俺を守ってくれるんだ?」
「そ、それは他の皆さんが……」
「お前の使命は俺を守る事なんだろ? だったら旅の最後まで守れ」
「で、でもッス……」
う……そんな泣きそうな顔を向けるな。
俺だっていい方法があれば……
「……あ」
そうだ……あいつは崖沿いだ……だったら!
アリスから飛来する矢を次々糸で絡めとる蜘蛛。
それにより蜘蛛は俺達に近寄れず足止めされていた。
デュプルホーク二匹はオルダンが牽制しているが、一人になった為矢を射るのに必死になっている。
「は、早くして~矢が尽きちゃうよ」
蜘蛛に矢を射続けているアリスが困り顔で悲鳴を上げた。
その時だった……蜘蛛のいる崖の側面に円形上の闇が現れる。
そして闇が水の波紋のように波打つと……中から蠢く触手の様な物が何本も現れ蜘蛛を捉えた!!
『シャドウイーター』……マリアの魔法で対象を闇に捕食する恐るべき魔法だ。
触手は蜘蛛の体中に巻き付くと……ズブリと闇に引きずり込み始めた。
そして1分も経たずに蜘蛛はその姿を……命を失ったのだった。
「すげぇな、マリア……」
俺が頼んでおいてなんだが……なかなかエグイ魔法だな。
「ルル、他に伝達することはないか? もっと言ってくれ、お前の言葉なら何でも伝えよう」
マリアに魔法で倒すようウィル経由で伝えて貰ったんだが……もっとと言われてもな。
「え? い、いや、特には……まぁ、蜘蛛が居なくなったんだ。 デュプルホークに気を付けながらさっさと横穴まで逃げちまおうぜ」
「そうか……。 ああ、そうだな。 そっちの方が落ち着いて話せる」
話をするとは特に言ってないんだが……。
「もぉーー! 貴方達こんな状況でイチャイチャしないでよね!!」
高所に震えるノエルが、ウィルの腰にしがみ付きながら膨れて怒る。
いや、どっちかーつーと見た目的にはそっちのがイチャイチャしているように見えるんだが……。
「おいおい、早く行こうぜ。 俺も矢が尽きそうだ」
オルダンが俺達を急かし、その言葉で俺達は再度崖を進み始めたのだった。
「ったーー!! き、きつかったぜ」
横穴に入るなり俺は地べたに腰を降ろした。
あんな場所じゃ座れねーし、緊張しまくりだし、魔物は来るし……全く! 誰だあんな道選んだのは!!
……俺だったわ。
俺同様全員が腰を降ろして一息ついている。
デュプルホークは俺達が横穴に入るとどこかへ飛び去ってしまった。
腰を降ろし水筒を開けていると……。
ゴンズがマリアに話しかけている……なんか珍しい絵面だな。
「しかし嬢ちゃんの魔法は凄かったな。 俺なんざあんな場所じゃ斧は振るえんし、こんな体型だから壁に張り付くので必死でな」
「確かに……その体形じゃ」
「こ、こら! マリア。 そんな事。言ったら……」
「はっはっはっ! いいんだよ、嬢ちゃんの言う様に俺は少し小太りだからな!」
慌てるアリスにゴンズは腹をポンポン叩く。
まぁ確かに腹は出ているが……胸は厚く筋肉の盛り上がりも凄い。
使っている戦斧を見りゃ……かなり鍛えないとあれは使えないだろう。
「そうそう、こいつこんな体型だしおっさんだろ? 喋るなら俺と喋ろうぜ?」
オルダンがマリアに明るく話しかけるが。
「爪楊枝は無理。 それにタイプじゃない」
「つ、つまようじ!?」
「だっはっはっ!! ナンパ失敗だな、オルダン」
マリアの言葉に唖然としたオルダンをゴンズが大笑いしている。
そんな仲間達のやり取りを見ていると……。
「ルル、さっきは大変だったな」
ウィルが俺の隣に来て腰を降ろした。
「いや、大変な思いしたのは周りだからな……特にオルダン、アリス、マリア辺りには魔物に対応してもらったし……」
「すまない……俺の剣が数十メートルぐらい伸びれば役に立てたんだが……」
「いや、その考えはおかしいだろ!?」
「そう……なのか?」
ウィルのやつ……今のはボケじゃなくて真面目に言ってやがんのか?
コイツもある意味天然だな。
「俺も弓を習うべきか……」
ブツブツ呟いているウィル。
そこへ穴の先へ偵察に行っていたリリが戻って来る。
「お、リリ。 おかえり」
「ただいまッス」
「すまねぇな、疲れている所偵察なんて……」
「ッス? 疲れてはいないッスよ?」
確かに……言うだけあってリリは元気そうだ。
体力は人並以上にありそうだしなぁ……。
「それでどうだった?」
「この穴を抜けた先は山の中腹で下り坂が続いていたッスけど」
「けど?」
「下り坂のずっと先、麓の方に村みたいのが見えたッスよ!」
「村があるのか……」
地図で確認するも何も記載はない。
小さすぎるから載ってないのか、最近できた村なのか……。
(まぁ山を下ったらその村で一休みと行こうか)
そう考えて水筒を傾けるのだった。




