フラグ建設人
「おっとぉ!」
いきなり風が吹いてグラリと体が揺れる。
慌てて俺は出っ張った岩にしがみついた!
「ルル、大丈夫か?」
すかさず俺の後ろにいるウィルが心配そうに尋ねて来る。
「あ、ああ大丈夫。 それよりも……」
俺は足元から少し横の空間……底の見えない崖下をのぞき込む。
「みんな、すまん……まさかこんな道になるとは……」
「だ、大丈夫ッスよ! こんなのだけど一応道ではあるッスから!」
「ありがとうリリ」
ん? お礼言ったけど今のってフォローでいいんだよな?
登山道から入り、山脈の中腹を進んでいた俺達は、断崖絶壁に設置された道幅30cm程度の道……これ道って言うよりでっぱりじゃね? を、壁に掴まりつつ進んでいた。
柵やロープなどもなく、少しでもバランスを崩せば底の見えない崖下に一直線だ。
山間部特有なのか、時たま強い強風が崖下から吹き上げ、その都度崖にしがみ付く。
(しかしこの道意地が悪いぜ……)
俺は心の中で愚痴る。
最初はこんな道じゃなかった……なだらかな傾斜を抜け、次に崖沿いを上へ上へと続く道。
その時の道は幅2m程度はあったのだ。
それが気付けばどんどん細くなり……引く返すのも億劫になった時はこの幅になっていた。
「ウ、ウィル? あ、あんまり先に行かないでね?」
震える声を出しつつノエルがウィルの服を掴んでいる。
「ああ、大丈夫だ。 ルルがすぐ前にいるからな」
「あ、ありがとう……」
お礼を言うノエルだが、俺がここにいなければウィルはどんどん進むってことじゃね?
まぁ本人は怖がっていてそれに気付くどころではない様だが……。
「でもあれッスね?」
俺の前を進むリリが唐突に話し出した。
リリは先程から何かしら喋りかけてくる。
何か喋らないと暇なんだろう……いや、本当は暇とかいう状況ではないんだが。
「こんな状況で魔族とか来たらヤバイッスね」
「……」
この状況でこいつは何て事を言い出すんだ!
そーいうのはフラグってやつなんだぞ?
これ以上のフラグ建設を阻止するため俺は返事をせずに黙り込んだ……が。
「はっはっは! リリ、そう言うのはフラグっていうんだぞ?」
ライオンがご丁寧にフラグが折れない様に補強してきた。
だからなのか?
アリスが「なんか来るね~?」と間延びした声で警告した。
崖沿いにいる俺達の方へ向かって飛来する影。
「ん~? ありゃ鷹だな?」
オルダンが大丈夫だと言わんばかりにのんびり答えるが、
「違うよ~。 あの鷹少しおかしいかも~」
「おかしいってどこがだ?」
どちらも弓を射るだけあって目が良いらしく、飛来する鳥を目で追っている。
「ん~? げ! マジだ! ありゃ魔物だ」
じーっとみていたオルダンが顔をしかめる。
「でしょ~? 頭二つあるもんね。 さしずめ『デュプルホーク』ってとこかな?」
えぇ! マジか!?
言われても俺もじーーっと見ていたが……あ、ほんとだ。
双頭の鷹なんて普通の野生動物じゃねぇな。
「ふむ、とか言ってる場合ではないようだな?」
デュプルホークは俺達の姿に気付いたようで、急旋回するとこちらに向かって滑空してきた!!
「アリス!」
「オルダン!」
ウィルとゴンズが名前を呼んだ時には二人から矢が放たれていた!
鋭い風切り音と共に矢がデュプルホークに襲い掛かる!
しかしそれを軽く躱すと、再び上昇し旋回し始めた!
「やっぱり難しいか……牽制程度にしかならねぇ!」
飛んでいる上こちらを警戒しているので当てるのが難しそうだ。
何か手は……と考える俺に光明が差し込む!
離れた所にいるマリアに大声で叫んだ。
「マリア! 魔法でどうにか出来ないか?」
魔法なら届くかもしれない。
「無理」
俺の光明はあっさりと帰ってきた返事でかき消された。
「距離があるからか?」
「ううん、私の魔法は地面から出てくるものばかり」
そーいや、サソリの時も地面から鎖が出たんだっけ?
飛んでいるものには無理って事か……。
「ユーナの方はどうだ?」
ライオンの前を進むユーナに尋ねると、
「出来ると言えばできる。 が、出来れば魔力を節約したい」
言い方から察するに魔法を使いたくない様だ。
召喚魔法は思っているより魔力を使うのかもしれない。
まぁ、俺もわかるが魔力がなくなると立ち眩みみたいになるし、下手すりゃ気絶しちまうからな。
こんな場所でそんな状態は勘弁してほしい。
「ひとまず弓で牽制しつつ、早くこの崖を抜けた方がいいな」
やむなく出した結論で全員が再び進み始めた。
時折隙を見てはデュプルホークが急降下してくるが、オルダンとアリスが的確に追い払う。
そうやって進んでいると、
「どうやらゴールが見えて来たな」
一行の一番前を進むゴンズの言葉に俺達も前方に目を向ける。
細道の終わり、その場所に横穴が見える。
つまりこの道から横穴のトンネルに入ることになるようだ。
「しめたぜ! トンネルに入っちまえばデュプルホークも俺達を追って来れないぜ!」
やっとこの道が終わると思うと、みんなもホッとしたようで進み足が少し早くなる。
しかしそれでも慎重に行かなくては危険は危険だ。
慌てず急がす速やかに!!
どこかで聞いたようなフレーズが頭に浮かぶ……これ火事の時のフレーズじゃなかったか?
しかし、そんな俺達にさらなる障害が現れた!!
「上!! 何かが崖を降りてくるわ!」
たまたまなのか、いち早く気付いたノエルの叫びで俺達は上を見上げる。
すると……崖を這うように降りてくる影。
それは2mほどの大きさの蜘蛛だった。




