召喚魔法
「なぁ? ライオン……やっぱりあれ何とかならねーか?」
俺は走りながら隣にいるライオンに話しかける。
「うむ、無理だ。 俺の剣では刃が通らん」
「そっか~……やっぱそーだよな」
(かといってリリは……)
ライオンに背負われているリリに目を向けるが、彼女はまだ目を閉じて気絶しているようだ。
そして全速力で走る俺達の背後から、巨大なサソリが猛スピードで追いかけてくる。
「ルル、どうする? 俺が試そうか?」
ウィルが俺を頼れと言わんばかりに言ってくるが、
「だ、だめよ! あんな化け物にかなうわけないでしょ! 大体ウィルの剣だって通用するか分からないし」
並走するノエルが慌てて止めに走る。
後ろから迫りくる大サソリ……野獣ではなく、魔獣に当たる生き物とのことだが、見た目的には普通のサソリを大きくしたように見える。
ただ……大きさが30mほどありそうだが……。
「お、おい。 依頼主サンよ! なんとか出来ねぇのかよ? 俺は自慢じゃないが体力があまりねーんだよ!」
疲れて来たのか息を荒くしたユーナが話しかけて来た。
いつもの偉そうな態度が少しだけ抑えられている。
「ほんと自慢じゃねーなそれ! ちなみにお前魔術師だろ? なんとか出来ねーのか?」
「く、くそ! できるこたぁできる! だが、少し時間が欲しい」
今までのユーナからすると弱々しく珍しい態度だ。
「クックッ! 日頃からそんだけ大人しけりゃな!」
俺の言葉に悔しそうに目を逸らすユーナ。
ふっふっふ……どうやら体力は俺の方が全然上のようだな?
それはともかく時間稼ぎか……だったら!
「ライオン! お前の剣を強化する! 時間稼ぎ頼む」
「ふむ、それなら行けるかもしれんが……」
俺はライオンの剣を受け取ると『ガード』の魔法を付与する。
これぐらいなら走りながらでも掛けれるからな。
「よし! 頼んだぜ?」
「ああ、リリを頼む!」
そう言って剣とリリをトレードする。
ライオンは剣を受け取るなり踵を反しサソリに向かう。
サソリも急に向かって来たライオンに素早く反応し、その大きなハサミで掴みかかってきた!
それを跳躍で躱すと、ライオンの剣が閃きサソリの甲殻に傷を付ける!
っていうか、強化したのに傷だけかよ!!
「やっぱ思っていたより堅そうだな?」
「ああ、しかし剣は折れずに済みそうだ。 このまま引き付けよう!」
「私も援護する」
マリアがそう言うなり杖をかざすと、
『ケージ』
その言葉と共にサソリの真下に黒い闇が円形上に現れ、その闇の中からいくつもの鎖が伸びてサソリの体を拘束していく!!
「捉えた」
「フン!よくやった! 暫く頼むぜ?」
ユーナがそう言うなり詠唱を始める。
自身も言っていたが、少し時間が掛かるようだ。
その間はライオンがひきつけ、マリアが拘束を維持する。
「待たせたな。 出でよ!『ケルベロス』」
ユーナのすぐ前の地面に赤い魔法陣が浮き出たと思うと、その中から三つ首の大きな黒犬が現れた!!
サソリよりは少し小さいが、それでも20mほどはあるように見える。
「へぇ~……召喚魔法。 しかもかなり高位」
アリスが感心したように目を細める。
「あれってすごいのか?」
俺が尋ねると、
「召喚魔法自体珍しいわ。 それに呼び出される個体が大きければ大きい程魔力も大量に使用する。 あれだけの大きな個体ならかなり使うわね。 どうやらあの魔術師口だけではないみたい」
「なるほどな! まぁ口はともかく心強いな」
「おい、そこ! 聞こえてるぞ? 口はともかくってなんだ!?」
ユーナが憮然としたように言うが、すぐに気を取り戻し、
「ケルベロス! あのサソリを食い殺せ!!」
ユーナの号令でケルベロスが拘束されているサソリに噛みついた!!
それぞれの首が、両手のハサミと胴体に噛みつく!!
「あ、あぶねぇ!!」
俺は思わず声を上げる!
サソリの尾……その先に見える毒針がケルベロスに襲い掛かったのだ!
しかし、見えていたようでケルベロスは素早く身を翻してそれを躱すと再び噛みついた!!
何度かケルベロスが噛みついて首を振る。
その度にサソリの体が引き裂かれていく。
「ふむ、あの堅い甲殻をいともたやすく裂くとは」
いつの間に来たのかライオンが俺の隣に立っている。
「ライオン、助かったぜ。 怪我はないか?」
「引付役だったし、回避に専念していたのでな。 大丈夫だ」
「なら良かったが……」
「それよりもリリの方は?」
「ああ、今『ヒール』掛けた。 問題はなさそうだな」
旅を続けていた俺達だが、そんな俺達をあのサソリが急襲してきた。
リリは地面から現れたサソリの不意を喰らい、あのハサミで叩きつけられ気絶してしまったのだ。
そこから俺達は大急ぎで走って逃げだし……サソリがずっと追いかけて来ていた。
ズズゥゥン という地響きと共に大サソリがその巨体を地面に落とす。
その衝撃で砂埃が舞い、思わず顔を袖で覆った。
埃が晴れると、そこには大サソリが無残な姿を晒していた。
両方のハサミはちぎられ胴体にも噛み跡がいくつもついている。
そしてサソリは動かなくなっていた。
「よし、『リターン』」
ユーナの言葉と同時にケルベロスの姿が薄れ掻き消えていく。
(ん?)
なんか消える前にケルベロスが俺の方を見たような?
ケルベロスを還したユーナは振り返ってこちらを見るなり、
「どうだ? 俺の実力が分かっただろう? 他の奴らとは天と地ほども差があるのさ」
決まったとばかりにポーズを取るユーナ。
実力はあるけど……、
(このウザサがなければ言う事ないんだがなぁ)
と、心の中で突っ込んでいく。
ふと見るとゴンズが大サソリの体を解体していた。
素材になるとのことで色々貰っていくようだ。
その横をマリアがトコトコ通っていく。
折角なので話しかけてみるか。
「よぉ、さっきは援護ありがとうな。 助かったぜ」
「……別に、仕事だし」
淡々と言うと、
「それより依頼主様は何も出来ないの? まだノエルの方が何倍も活躍していると思うんだけど」
「あ、ああ。 そうだな?」
なんでいきなりノエルの話!?
しかもいつも小声なのに少し声が大きいし、なんかチラチラとウィルとノエルの方を見ている……。
「依頼主様よりノエルの方が強くてかっこよくて素晴らしいと思うけど?」
「いや、それを俺に言ってもらっても……」
一体何なんだ?
何で比較されてるんだ俺?
「じゃあ。そう言う事だから……」
一仕事終えた~みたいな表情でマリアが戻って行く。
それを俺は茫然と見送る。
(い、一体何なんだ?)
ねぎらおうとしたはずが、訳の分からない話で終わってしまった。
『甘味美味』のパーティメンバーって……意味不明な奴らばかりだなぁ。




