襲来
ムスタンブルグへの道は、今俺達がいる森を離れ、荒野を北に向かい、その後国境沿いの山脈を西に迂回して向かうルートとなる。
基本的には道がなく、引き続き荒れ地を進むような感じだった。
そしてムスタングルグへ向かう途中、何か所かで戦闘の後を見つけた。
中には倒された者達……魔族の遺体もいくつかあった。
「またッスね……」
リリが荒野に残された魔族の遺体を見つめる。
今までの魔族も基本的には殴り倒されており、斬撃の跡などはない……恐らく師匠だろうと俺は思った。
しゃがんで地面を調べていたライオンが立ち上がりつつ、
「結構な数に襲われているな……しかしどれも撃退しているようだ……」
師匠の進行方向に残る度重なる戦闘の跡、やはり狙われているのは師匠だったようだ。
師匠……やっぱり俺を逃がした時の魔族も、狙いは俺じゃなくて師匠だったのか。
あの時……たまたま俺が外にいたから俺を狙って来た?
つまり師匠が俺を逃がしたのは……この戦いに巻き込まない為……。
全く! 俺なんかの為に無茶しやがって!!
(絶対会ったらボディーに一発入れてやる!)
密かに師匠への仕返しを誓っていると……。
「ん? なんだありゃ?」
背の高い盗賊のオルダンが額に手を当て遠くを見ている。
俺もそちらに目を向けると……青い空に黒い点がポツポツ見えた。
やがて黒い点は徐々に大きくなり……、
「全員、戦闘隊形! 魔族だ!!」
ライオンの一言で全員が武器を抜刀する!
俺達の上空にきた黒い点……今となってははっきりわかる、魔族達。
全部で五体程度いるようだ。
魔族達は俺達から少し離れた所に着地すると、こちらに対して一斉に光線を放ってきた!!
俺達は全員それを躱すと、
「ふん!!」
「だりゃーッス!!」
ライオンとリリが風のように駆け抜け魔族に肉薄し一瞬で殴りつけ切り裂いた。
カマキリ型魔族は頭が凹んだ上、胴体を切断され地に倒れる。
「ふっ!」
「やぁ!!」
ウィルとノエルのコンビも素早く魔族に斬りかかると、そいつの両手両足が切り落とされ……残った首にアリスの矢がドスドスっと突き刺さる!
(みんなつえぇな)
さすがにララが確認しただけはある。
実力は折り紙付きの様だ。
蒼月斜光のケインとゴンズのコンビも危なげなく三体目の魔族を屠り、残りは二体となった。
しかし残りの二体は動揺することなく腕を軽く振ると……カマキリと同じく鎌があったようで、それが腕から飛び出した!
そしてそれぞれがケインとウィルに襲い掛かる!
「ルルの邪魔をするな!」
ウィルが鎌を際どく躱すと、懐に入り込みがら空きの首に刃を食い込ませる!!
そしてそのまま剣を捻ると魔族の首が容易に捥げた。
「はっ!」
ケインの方も盾で右の鎌を防ぐと、左の鎌に剣を叩きつける!
魔族の左腕が切り裂かれて地面に落ちる!
「どうだっ! 俺も……」
ドヤ顔のケイン!
しかしその顔に横一文字の筋が入り……顔の上下がずるりとズレた!!
顔の断面から血が噴水のように高々と吹き上がる!!
ケインの持つ盾も同様に横半分に切断されガランと地面に落ちた!
「ケイン!!!」
同じパーティのゴンズが叫びをあげる!
「気を付けろ!! こいつらの光線は至近距離だと剣や盾ぐらい貫通するようだ!!」
ライオンが全員に叫ぶ!
先程ケインの命を奪ったのはその光線だった。
ただし今までの様な一直線ではなく、鎌状になった腕から放たれた為、三日月の形状で放たれていた!
つまり点の光線から線の光線になっている。
「ケインをよくも!!」
ケインの命を奪った魔族を背後に回り込んだゴンズが大斧で一刀両断し、残りの一体はリリの蹴撃とオルダンの弓で沈黙する。
こうして……王都を出て初めての襲来は、一人の犠牲を出しつつも撃退したのだった。
ケインの遺体を埋葬し、『蒼月斜光』としてどうするか尋ねたが、
「リーダーのケインが死んじまったが……依頼は継続する。 それが『蒼月斜光』だしな」
リーダーの後を継いだゴンズがそう告げ、旅は継続となった。
正直ここで依頼放棄されてもこちらも困るし……あちらも依頼の達成がなければお金が入らないだろう。
つまるところ、そう言う事だ。
その後も荒野を進む俺達。
そして二日目の夜になった。
その日は朝から激しく雨が降っていた。
とっくに森は過ぎ去り、今は荒野のど真ん中にいる俺達。
雨宿りできる場所もなく焚き火も出来ない為、この日の晩は各パーティテントで過ごすこととなった。
それでも見張りは必要だ。
暗い夜の中、俺は合羽を着て冷たい雨に打たれながら見張りをしていた。
灯りもなく視界はほとんどゼロで、雨も激しく音もあまり聞こえない。
それでもいつ何が来るか分からない為、備える必要はある。
(寒ぃし、冷てぇし、眠ぃし……早く時間にならねぇかなぁ?)
そんなことを考えながら見張りをしていると、
「ねぇ、ちょっと」
呼ばれた様な気がして振り返ると……ノエルという少女が立っていた。
俺と同じように合羽を身に付けている。 今から見張りだろうか?
「なんだ?」
「ちょっとあなたに聞きたいことがあるの!」
大雨の所為か、声を大きくして話しかけてくる。
「ウィルの事なんだけど」
「ああ? ウィルがどうした?」
「あなたどう思う?」
「は?」
どう思うって……どういうことだ?
「どう思うって言われても……何なんだ?」
「だから『頼りがいありそう』とか『カッコいい』とか……」
この話はこんな雨の中じゃないといけないだろうか?
話す機会はいくらでもあったはずだが……
「いや、別にそう言うのは……」
「え? そうなの?」
「あ、ああ」
なんだぁ? 一瞬嬉しそうな顔したが……悲しそうな顔もするし。
「『ちょっと良いな~』とかもないの?」
「何が良いんだ?」
「な、何がってそりゃあ色々あるでしょ? ウィル強いし、落ち着いているし、大人びてるし……」
「ん? ……まぁそうだな」
確かにノエルの言う通りの面はあると思う。
しかしそう答えると焦ったような表情を浮かべて、
「え!? じゃ、じゃあやっぱり好きなの!?」
「は? なんでそうなるんだよ?」
「じゃあ、嫌いなの?」
「お前の世界では好きと嫌いの二択しかねーのかよ!」
俺の言葉にノエルは複雑そうな顔をしていたが、
「まぁ良いわ……なにか変化があったら私に教えて!」
それだけ言うとクルリと背を向け歩いて行ってしまった。
(何なんだ一体? なにか変化がって……何があるんだ?)
激しい雨の中、意味の分からんノエルに首を傾げる俺だった。




