探すべきもの
「どこらへんだ? ルル」
ライオンが俺に向かって尋ねる。
え~っと……どこだっけな?
俺達の前には森林が広がっており、後ろには今通ってきた荒野が広がっている。
森林と荒野の境目には来たものの……正確な場所が分からん。
「すまん……わかんねー。 森林と荒野の境目であることは間違いねぇんだが……」
言い淀む俺に、
「おいおい、大丈夫なのかよ? しっかりしてくれよな、依頼主様」
魔術師のユーナが軽蔑したような視線を向けてくる。
「ええと……」
思い出そうとする俺だが……どこも似たような景色だし、走って逃げる時も細かい場所なんて見ていなかった。
はっきりした場所は全然分からない。
「何かヒントになるようなものないッスか?」
「ヒント……ヒントねぇ~…………あ!?」
そうだ思い出した。
野営をしたし焚き火を起こしたはず。
「焚き火をしたんだ……どこかにその跡があるかもしれねぇ」
「焚き火の後ね。 とりあえずそれらしきものを探すとしましょうか!」
ノエルがパンパンと場の空気を払しょくするように軽く手を叩く。
それに従い俺達は散会して俺と師匠の野営跡を探し始めた。
しばらくして、
「おぉ~い!! ちょっと来てくれ!」
『蒼月斜光』の盗賊オルダンの声だ。
少し入った森の中から声がする。
俺達がその声の方にゾロゾロ向かうと……、
「こりゃあ一体……」
「えぇ! 何これ……」
その場を見たメンバー達から声が上がる。
草木が生い茂る森の中、オルダンが立つ前の様相は辺りと一変していた。
いくつもの木が倒れ、木の幹には穴が開き、そこだけ局所的に嵐があったようだ。
生い茂る草も、その一角だけは刈り取られたかのようになくなっている。
「あそこ~……あれなんだろ~?」
目ざといアリスが何か見つけたようで、奥の方を指さしていく。
釣られて俺はそちらに視線を向けた……。
「!!?」
それを見た瞬間俺は駆け出していた!!
倒れた木を飛び越え、草や蔦に足を取られつつ転げるようにそれに向かって駆け寄る!!
「!?」
(師匠!! ……じゃ……ない)
俺の目の前にあるのは白い法衣。
師匠が身に付けていた神官服……その残骸。
全てではなく引きちぎられた半分であり、その中でも一部分は赤黒く変色して茶色になっている。
しかし師匠の神官服が此処に在るって事は!
俺は弾かれた様に辺りに目を向ける!
この辺りに何かあるのか!?
地面に這いつくばり、草をかき分け、服や手足が汚れるのも構わず探していく。
もしかしたら……万が一……不安がよぎるが探すのをやめられない!
見つけたい思いと見つかってほしくない思いがせめぎ合う!
(師匠……師匠……師匠!!)
俺の様子から察したのか、他のメンバーも辺りを探し始めた……。
しかしそれから数時間探しても他には何も見つけることが出来ず、そのまま夜を迎えることになった。
遠くで獣の鳴き声が聞こえる。
俺の手元は暗く良く見えない。
暗闇に慣れた目を必死に見開き探していく……。
ザッザッ……と足音がしたかと思うと、背後から声が掛けられた。
どうやらライオンが見に来たようだ。
「ルル……もう夜だ。 一旦探すのはここまでにしよう」
「……」
生い茂る草をかき分ける。 地面に足跡がないか探す。 木の洞を除く。
俺はモクモクと探し続ける。
見つけたくない……でも探さないと……
「ルル」
ライオンが声を掛けるが俺はそれどころじゃなかった。
俺の手は土や草の所為で汚れたり切り傷だらけだ。
それでも手を止めない。
「ルル、今日はもう暗い。 探すのは明日に……」
「師匠が……」
ライオンの言葉に被せる。
「師匠が待ってるかもしれねーんだ! 生きてるって信じたい! でも、じゃあ俺は何を探してるんだ?」
苛立ちが……不安が……悲しみが……焦りが……俺の心はずっとかき乱されている。
「ルル。 お前の師匠ならきっと大丈夫だ。 確かに服はあったが、この辺り一帯に……血の跡やそれらしきものはなかった」
「……」
俺は無言で手を……目を動かして探し続ける。
「ルル、明日またみんなで探そう。 明るくなければ見つかるものも見つからん」
「……」
倒れている木の下を確認する。
潰されているかもしれねーだろ……師匠が潰される? そんなことあってたまるか!!
血の跡がないか探す……そんなもの見つけたくない。
でも師匠に……師匠を……シショウガ……
「ルル!」
少し大きめの声を出し、ライオンが俺の肩を掴む。
「!?」
俺はビクッと体を震わせて動きを止めた。
オ……レハ……?
俺をのぞき込むライオンに……焦点が合わさる。
「ルル……深呼吸しろ。 ゆっくりだ……そう……大丈夫そう……だな? ひとまず今日のところはゆっくり休め。 明日みんなでまた手がかりを探そう」
ライオンが優しくそう言ってくれるが……。
「わりぃ……お願いだ。 探させてくれ……」
「ルル……」
ライオンの手を軽く振り払う。
「俺も……分かってはいるんだ。 こんなに暗くなっているし、此処に師匠がいるはずもない」
俺は地面に目を落とす……足元は暗く草に覆われている。
「なぁ? ライオン……教えてくれ。 こうまでして俺は何を探してるんだ? 師匠がいつまでもいるはずないのに、何を探している? 見つけたくないんだ……でも探さなきゃいけないんだ……俺はどうしたら……」
足元の草が揺れる。
俺の目から雫が垂れ足元の草に跳ね消えて行く……
「体は探すのをやめないし……心はぐちゃぐちゃで……もうわけわかんねーんだ」
俺は顔を上げるとライオンを見つめた。
涙の所為で歪んで顔がよく見えない。
「俺はどうしたらいい? ライオン……お願い……助けて……」
絞り出すように言葉を出した。
自分でもどうしていいか分からない。
ただ苦しかった……苦しくて苦しくて……
ぽんっ
ライオンが俺の頭に軽く手を置いた……大きな手だ。
そして優しく話始める。
「その答えは……悪いが俺にも分からん」
「っ!」
「……だけど、お前をここまで育てた師匠だ。 早々簡単にはやられないんだろ?」
こくり
「それに、こんなに想われている師匠とやらがお前の事を考えない訳がない。 ルルが戻ってきた時の事を考えて……手紙でも合図でも残してるんじゃないか?」
「!!」
そ、そうだ……きっと師匠なら……。
「だから、今日は休んで明日みんなで探そう。 じゃないと見逃すかもしれんからな」
ライオンの言葉で……俺は心がスッと軽くなるのを感じる。
そうだ……探すと言っても絶望をじゃない。 希望をさがさねーと!!
俺は袖でゴシゴシと目を擦ると、
「……へ、へへっ! あ、ありがとな! そうだな……あの師匠の事だ、きっと何かあるはずだよな!」
「ああ。 探すのは明日にして、ひとまず戻って飯にしようじゃないか。 リリがさっきから『ルルが戻るまでご飯待つッス』とか言ってずっとお預けの犬状態だからな?」
「あ、ああ。 何となく想像できたぜ」
ライオンとキャンプ地に戻り始める……一度だけ振り返るとそこま真っ暗な闇の森。
(師匠の……手がかりを見つけてやるぜ。 師匠待ってろよ!!)
俺は「お腹すいたッス~」などリリの叫びが響くキャンプ地に向かって歩き出すのだった。




