王子と姫様……ぽい
フッと締め付けが弱くなったと思うと同時に俺は尻餅をついた。
俺の頭や首の部分を魔族の手が掴んだままだが……力が弱くなった事で目を開けて状況を確認すると、
(!?)
俺を絞め殺そうとしていた魔族は六本の腕全てを切断されていた!
そのショックからかヨロヨロと後ずさる。
そして、
「ふむ。 間に合ったが……遅くなってすまない」
俺と魔族共の間に割り込んだブーメランパンツ男。
俺は腕だけになった手を引き剥がして地面に投げ捨てる。
「ゴホッゴホッ! っつ……はぁはぁ」
咳き込んで言葉が出なかったが、新鮮な空気を肺に取り込み一息つくと、
「た、助かったぜ、ライオン」
「ああ、ルルの合図に気付いたんだが……街の奥に居てな。 遅くなった」
「いや、気付いてくれただけでもな……」
明確な合図では無かったが……よくあの合図で気付けたものだ。
他に手が無かったとはいえ……おかげで助かったぜ。
俺のいる丘の上で、強烈な光が輝けば気付いてくれるかもと思ったが……自信は無かったからな。
いきなり現れたライオンに、腕の無事な魔族が光線を放つ!
ライオンはそれを軽々と躱すと、一瞬にして間合いを詰めた!
「!?」
逃げる間も躱す間も与えずライオンは魔族を斬り捨てる!
魔族の両断された上半身が斜めにズレて地面にドサッと落ちた。
それを見たもう一体の魔族は、慌てて翼を広げると上空へ逃げだした。
「リリ」
「はいッス!」
いつの間に来たのか俺の横にいたララの肩を踏み台に、リリが高々と跳躍すると、
「でやッス!」
空中に逃げた魔族を掛け声と共に蹴りで叩き落とす!
そして落ちて来た魔族をララの大剣が横一閃に両断した!
腕に引き続き胴体まで切断された魔族は、地面に倒れると二度と動かなくなった。
「ルル~大丈夫?」
心配そうに……でもおっとりした口調でララが尻もちをついたままの俺の側にしゃがむ。
「あ、ああ。 ありがとう、ララ、リリ。 お前達も来てくれたんだな」
差し出された手を掴んで立ち上がる。
「ごめんね~魔族は全部倒したと思ったんだけど……一部逃げちゃっったみたいで」
「いや、来るかも知れねーとは思っていたしな……」
(予想外だったのは護衛の兵士がさ足手まといだったって事だ……)
「それより街の方は?」
「うん~大丈夫。 もうほとんど制圧したし、今は生存者の探索や救助を始めているよ」
「そっか、じゃあ俺も行くぜ。 回復してやらねーと」
「うん~お願いしたいけどその前に……」
ララが俺をじっと見てくる。
(な、なんだ?)
とたじろいでいると、
「ルルは自身の傷を回復してからが良いかも」
「え?」
俺は自分の体を見るが……どこも怪我とか……してないよな?
ツンツンとつつかれ、振り返るとリリが自身の首と頭を指している。
「ん? 首と頭?」
自分の首と頭を触るが……いまいちよくわからん。
あ、そだ。
「ライオン、ちょっと剣見せてくれ」
ライオンの剣は両刃の片手剣だが幅広で、手入れも行き届いているおかげで鏡のように……は言い過ぎだけど、うっすらと反射して映る。
それを鏡代わりにして見ると……うげ! 首の周りとおでこ周辺にくっきりと締め付けられた跡がついていた。
特に頭の方は裂けて血が流れている。
(確かにこれは……見たやつが心配するというか、不安がるな)
そのまま回復魔法を掛けると傷と跡が消え失せた。
魔力も……まぁある程度回復した感じか?
「これでいいか?」
「うん~大丈夫だね」
ララはそう言うとニタ~と笑う。
(な、なんか嫌な予感が……)
「じゃあ、街に行こう。 抱っこでね~」
「ぶっ! な、お、おま……」
「約束……したよねぇ~?」
のんびりした口調だけど……意地悪そうに口をニヤリとする。
(こ、こいつ見た目と違っていい性格してやがる!)
俺は必死に考えを張り巡らせ……そうだ!!
(クックック……良い返しを思いついたぜ)
「そうだな。 確かにララに抱っこしてもらう約束したしな」
「でしょ~? だから……」
「だけど今じゃない!!」
ビシッとララに指を向けてポーズを決める!
「え……」
唖然とするララに俺は勝ち誇った顔で、
「『いつ』とは約束してないからな? 今じゃなくてもいいはずだ!」
俺はドヤ顔をララに向けた。
……勝ったと思ったのに。
ララにお姫様抱っこされたまま街に連れられる俺。
恥ずかしくて顔をローブの袖で隠したままだ。
(言い負かしたのに……この馬鹿力め!)
そう……勝ったと思った俺をこいつは無理矢理抱っこしやがったんだ!
しかもいくらもがこうともビクともしない!
抱っこの何がララをここまで掻き立てるんだ!?
街に凱旋するララ達に兵士達から声が上がる。
「ララ団長が小さいお姫様を連れて来た!」
「小柄で可愛い~王子様とお姫様みたい!」
「おお~凄い似合うな! ララ団長!!」
「似合ってるぜ純白姫!」
街を救った兵士達から色々な歓声が上がるが、俺は顔を隠して見ない様に……というか、寧ろ顔を見せない様にする。
って言うか、最後の声バーンズの野郎だな? 畜生、後で覚えてやがれ!!
それ以降も次々と歓声が上がる中、俺は抱っこされたまま街中を進む。
(は、恥ずかしすぎる! 何だこの拷問!!)
助かったのに助かった気がしないのは何故だろうな……。
さっさと怪我人達がいる場所に連れていってほしいぜ。
急にララが足を止めた。
(なんだ? どうして……)
そう思った俺の耳に、もう一人の聞き覚えのある声が届く。
「ララ? や~っと帰ってきたわね。 それにそれって……まさかルル?」
袖をずらしてチラリと見ると……小柄な銀色の髪の少女で特徴的な丸眼鏡。
両手を腰に当て母親が子供を怒るような立ち姿だ。
確かめるように俺の方へ視線を向けている。
(やっぱりロロか)
俺に気付いたロロの怒りに震える声が聞こえた。
「ルル~? 分かっているわよね? 黙っていなくなった事……お仕置きの始まりって」
ロロの丸眼鏡がきらりと光った。




