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月夜の考え事


「わ、悪かったわよ! でも仕方ないでしょ!?」


シエラが顔を赤らめつつ怒ったように返す。

ちなみに目はまだ少し赤く腫れている。

まぁ結構長いこと泣いてたからそれは仕方ないが……


俺は自分の服……主に胸の場所を見た。

そこは涙でぐっしょりと濡れている。


「いや、別に涙で濡れるのは仕方ないぜ? 俺も別にそれぐらい気にしない」

「だったら、それも許容しなさいよ!」


シエラが言うのはぐっしょり濡れた服についている白い跡。

まぁ有り体にいえば『鼻水』だ。

涙が止まらない状態だからこうなるのは分かるけど……。



徐々に泣き止んだシエラが俺の服から顔を離し……こいつの鼻と俺の服に粘っこい橋が掛かっていれば、俺も何て言うか……複雑な表情になるの分かるだろ?

なのに俺が怒られてるっておかしくないか?


「はぁ……まぁいい。 それより……ちったぁ落ち着いたか?」

「ふ、フン! 少しはね! さっきよりマシ程度って感じよ……か、感謝してあげるわ!」


何で今度はツンデレなんだ!?

コイツの性格が全然分からん!!


(とにかく……なんとかゾンビの中に突っ込むようなことはなさそうだな)



街の中からは何かが暴れる様な音や唸り声が聞こえる。

ゾンビは寝ることが無い。 夜でも元気に動き回っている事だろう。


(さて、これからどうするべきか……)


本来ならコイツを連れ戻す筈だったが……今から街中に入るのは自殺志望もいいところだ。

とりあえず夜動くのは得策じゃないしな。



「仕方ねぇ、とりあえず火を起こして明日の朝を待とう」

「そうね。 それがいいかも」


ここは素直に賛同するシエラ。


「あ、じゃあ私が木の枝とか集めてくるッスよ!」


元気よく手を挙げるリリ。

やっぱりコイツ犬系だな。


「おう、じゃあ頼むぞ犬!」

「犬?」


おっと! つい口に出ちまった。


「いや、間違いだ。 頼むぞリリ」

「任せるッス!」


言うなりダダダダダッと土煙を上げて走っていく。

それを見送ると、シエラがジト目で見ているのに気付いた。


「貴方……命を助けてくれた相手に『犬』って……」

「いや、あれだ。 イメージ的な話だ」

「どちらにしろ、それはどうなのよ?」

「むぅ~、わーったよ! 戻って来たら謝る!」


まー今のは確かに悪かったしな。


俺はそう思いつつ火を起こす準備などを始めた。





パチパチと木の枝が爆ぜる音がする。


街から少し離れた拓けている場所で、俺達は焚き火を囲んでいた。


「すぅ……すぅ……」

街中の全速力や泣きつかれたこともあったのか、シエラは横になるとすぐに寝息を立て始めた。


「呑気な奴だぜ。 まぁ騒がれるよりは全然いいけどな」

「ルルは寝なくていいんスか? 私が見張りしますし」

「ああ? まぁ……何て言うか気持ちが昂ってな。 少々落ち着かねーんだ……」


俺はそう言うとすくっと立ち上がる。


「あれ? どうしたんスか?」

「いや、ちょっと……な」

「あ、トイレっスか? それならあそこに茂みが……」

「違うわ! ……ちょっとそこら辺を散歩してくるだけだ」

「遠くには行っちゃ駄目ッスよ?」

「分かってるよ」


俺は焚き火を背にゆっくりと歩きだす。


焚き火から離れると少し肌寒く感じる。

灯りからも離れ辺りが暗くなるが、幸い月が出ており全く見えない程でもない。




ある程度歩いた所で足を止めて振り返る。

少し離れた所に焚き火の灯りと、それに照らされて座っているリリと寝ているシエラの姿が見える。


(ここらでいいか……)


あんまり離れると心配をかけてしまうしな。

俺は立ちすくんだまま魔族との事を思い返していた。


それはトドメをさせなかった事。


自分の掌を見る。

力が無いわけではなかったし、相手は魔族。 手加減する必要もなかった。

それなのに俺の体は凍り付いたように動かなかった。


魔族自体が怖いなら杖で殴ったり蹴りを入れたりなんてできないだろう。

それにゾンビにはトドメをさせていた。



(じゃあ……やっぱり……)


魔族にトドメをさそうとした時の『死』のイメージ。

命を奪う行為。

それが頭をよぎって……そうして俺は動けなくなった。


うぅ~ん? 村にいた時は野生の獲物とか狩っていたよな? 

命を奪うにしても何か違うのだろうか?



目を空に向けて暗闇の中考え込むが……、


「だーーーー!! わっかんねー!!」


頭をわしゃわしゃ搔きむしる!



何となくだが自分では答えが出そうにない。

いや、頭が悪いからとかじゃないぞ?


……そ、それもちょっとはあるかもしれないけどさ。



(仕方ねぇ、色々人に相談するのも手だぜ。 セレスとか年の功で知っているかもしれねーし)


考えることを諦めて俺は焚き火の方に戻ろうとクルリとそちらの方に向く。



「だわわぁ!」


いきなり目の前にリリが立っていた為、思わず声が漏れた!


「な、なにしてんだよ!? びっくりするじゃねーか!」

「え、えっといきなりルルが叫んだのが聞こえて……それで走ってきたんスよ」

「うん? ……あ」


確かに叫んでたわ。

それで何かあったと思って走ってきたのか……にしては足音もなく来るってどんだけだよ。


「あー……すまん。 ちょっと独り言っていうか、発散というかそんな感じだ」

「発散……何か溜まってるッスか?」

「まぁ色々あんだよ。 そんな事より戻るぞ! シエラを一人にするのはあぶねーからな」


そう言ってリリに先立ち歩き出す。

リリがトトトッと俺の横に並ぶ。


何て言うか……忠犬みたいだ。

って思うと失礼にあたるようだが……そう思わせるんだよなぁ。 コイツの動きは。


俺達が揃って焚き火に戻ると、シエラは変わらず眠っていた。

それを見て……散歩したことで昂ぶりが引いたのか、知らずのうち欠伸が出る。


「あ、ルル眠いッスか?」

「あ~……少し眠くなってきたかもな」

「じゃあ、寝ると良いッス! 私がしっかり見張るッスよ!」


誇らしげに胸を張るリリ。

やる気満々なその様子に、俺は甘えることにした。


「じゃあ、すまないが少し寝るぜ。 朝になったら起こしてくれ」

「はいッス! お任せ下さいッスよ!」


元気よく答えるリリに「おやすみ」と告げて横になる。

そうするとすぐに睡魔が襲い掛かってきた。


(まぁ俺も子供達を相手にしたり、街中走り回って魔族と戦って……疲れるよな……そりゃ)


そう考えながら……暗闇に落ちる浮遊感に包まれていった。


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