視線を受けて
階段を駆けのぼり冒険者ギルドのロビーに出た俺だが、
(シエラの奴、どこ行きやがった!?)
ロビーにシエラの姿はなく、倒れているゾンビと冒険者の死体しかない。
シエラがいた部屋なども探してみたが、どこにも見当たらない。
(チッ! 外に行きやがったか!)
俺は壊れた窓から外に出る。
ギルドの前はT字路になっており、前方と左右に道が続く。
ちなみに俺達は前方から来た形になる。
そしてどの道もゾンビや冒険者、そして街の住人が無残な身体となって倒れていた。
(どこ行きやがった! 早く見つけねーと!)
パッと見る限り動いている人影は遠くの方にいてまばらだが、そのほとんどが彷徨う様に歩いているゾンビだ。
(シエラ! シエラどこだ!!)
声を出すことが出来ない為、目を配り耳を傾けて探す。
と、俺の耳にボソボソとした声が聞こえた。
そちらに目を向けるとシエラが倒れている死体に縋って何事かブツブツ呟いている。
(良かった! まだ無事だな?)
幸い辺りにゾンビ達はおらず気付かれていない。
シエラの発見時、彼女の叫び声で集まった周辺のゾンビをライオンが一層した甲斐もあるのだろう。
俺はシエラの側に駆け寄ると、
「シエラ! シエラ!! ここで何してる? ここは危険だ、地下に戻るぞ!」
「……の……だ……よ」
シエラは青年の死体、その頭を太ももに乗せボソボソ何事か呟いている。
(膝枕……か。 もしかしてこの青年は……)
シエラの想い人だったのかもしれない。
だから地下を抜け出してここまで……。
「分かったシエラ。 そいつも連れていこう。 だから地下に戻るんだ。 ここは危ない」
俺が声を掛けるも全く聞こえていない様だ。
(どうするか? 力づくも止む無しかもしれないけど……)
考えている俺の目の前でシエラがすくっと立ち上がった。
膝から青年の頭が落ちてゴロっと音を立てる。
「お、おい? シエ……ラ?」
「……だよ。 こんな所にメロ君がいるはずない。 これはきっと別人……」
「お前何を……」
「そうだよ!! このメロ君は偽物! だってこんなに冷たくないよ! そうだ、お家だ!」
「ま、待て!!」
嫌な予感にかられた俺が手を伸ばすも、その手はシエラを捉えきれない!
シエラが叫びながら道を走り始めた!!
「嘘だろ……おい」
呻くように呟いた俺だが慌ててシエラを追いかける!!
「あはは! 待っててメロ君!! 今行くよーー!!」
大声で叫びながら走るシエラ。
道に倒れている人々を器用に避けて全速力で走っている。
は、早いが……俺の脚力を舐めるなよぉ!!
こうなったら自棄だ! 俺は全速力でシエラを追いかけ始める!
そしてもちろん走る音に気付いたゾンビ達も集まり俺達を追いかけ始めた!
(だよな!? そーなるよな! 分かってた! 何となくわかってた!!)
これぞフラグって奴だろう。
シエラを迎えに……の時点で何となくわかってた。
チラッと後ろを見ると……うがぁ! 何人来てんだよ!? 来過ぎだろ!
道一杯に広がって猛スピードで追いかけてくるゾンビ達。
折れた足や腕に引っ掛かり団子状態に転がったりもするが、直ぐに道を埋め尽くす!
皮がめくれ、血が飛び散り、目玉が落ちて……もう無理すんなって言いたい。
しかしそれでもゾンビ達は俺達目掛けて追いかけてくる!
「じょ、冗談じゃねー!!」
走る俺とシエラの間にゾンビが二体現れる!
横道から出て来たそれを走りながらバットの様に杖でぶん殴った!!
ゾンビの頭がグルンと一回転して地面に転がる!
(っていうか、シエラどこまで行くんだよ!)
前を走るシエラは正気をなくして大笑いしながら走る。
それを追いかける俺。
その後ろから大多数のゾンビ達。
つーか、マジであり得ん!!
俺は走りざま地面から冒険者達の剣や盾、避難しようとした人の鞄、傘やら何やらを拾っては後ろに投げつける!
ゾンビ達には躱すという知能はない。
それらを食らい次々と倒れる。
先頭が倒れれば後ろも数珠つなぎに倒れていく。
そうして数を減らそうと狙うも……。
(全然へらねー! さ、さすがにこのままじゃやばいぜ)
と、シエラがとある家の前で足を止めた。
「メロ君!! 迎えに来たよ!! そこにいるんだよね?」
そう言って家に入ろうとする。
(くそっ! この状況で家に入れば間違いなくゾンビ達にやられる……こうなったら!!)
家に入ろうとしたシエラに追いつくとその手を引っ掴み走り出した!!
引きずられる様に走り出すシエラが、
「ちょ、ちょっと! 何するのよ!? 私はメロ君に……」
「あ~メロ君な? あんまり可愛いから俺が頂いちまった! すまんな!」
「は? そ、そんなのある訳……」
「メロ君って冒険者のだろ? 今日は青い上着に茶色のズボンだっけ? 銀の鎧がカッコいいよな?」
「あ、貴方どうしてメロ君の格好を知って……まさか! 本当に!?」
「ああ、この先で俺と待ち合わせてるんだぜ? 何なら確かめに来るか?」
先程の膝枕の青年……やはりメロ君とやらだったようだ。
シエラは信じられないと言った表情をしていたが……、
「ほ、本当なの?」
余程メロ君とやらを信じているようだな?
メロ君とやらの名誉には悪いがシエラを救うためだ。すまん!
「ああ、俺とおそろいの茶色の髪。 緑がかった瞳。 サイドを刈り上げた短めの髪だ。 まだ信じられないか?」
「……分かった。 貴方についていく、そしてメロ君に直接確かめる!」
メロ君とやらの特徴を上げると、シエラは怒りの目を俺に向け俺に追走を始めた。
くっそ! シエラの為なのに何で俺がこんな事を!
走りながらシエラが呟く。
「もし本当だったら……貴方を……すから」
「あ? 何だって?」
「煩い黙れ。 この泥棒猫が! さっさと向かえ!!」
怒鳴られた。
俺は背後に、シエラからの憎しみの視線とゾンビ達の獲物を見る視線の両方を受けて街中を走る。
(おおおお!!! 俺が何をしたっていうんだよぉーー!!!)
安全な場所を探して、そしてゾンビ達を振り切る様に俺は走り続けたのだった。




