ギルド内の鍛錬場
「相変わらず馬鹿力だな」
「何を言う? 俺は馬鹿ではないぞ?」
「そうじゃねーよ! 馬鹿力だなって言ったんだよ!」
「ふむ?」
駄目だ、コイツわかってねーわ。
俺はライオンを放置し破壊された扉を潜る。
ここは冒険者ギルド内にあったもうひとつの扉の方だ。
鍵が掛かっていたが、既に過去形。
その扉は残骸と化していた。
「なるほどな、どうやら冒険者ギルド内の鍛練場に続いているらしいな」
「ふむ、冒険者ギルドには初心者冒険者を鍛える施設があるからそれであろう」
冒険者か……魔獣や宝探しや遺跡調査を生業にしているんだったかな?
時には魔族とも戦ったりするらしいが……まぁいいや。
扉の先は地下に続く階段と、その手前に小さなカウンターがある。
カウンターの奥には棚があり、薬やファイルなどが散らかっている。
本来であれば、ここで受付や対応などをして鍛練場に進むのだろうが、今や廃墟のような有り様だ。
ライオンは階段を覗き込みつつ、
「俺が先に行くぞ?」
「ああ、俺は今これだからな?」
背負っている女性を見せる。
女性は未だ気絶したままだ。
ライオンを先頭に地下へと階段を降りていくと、
「また扉だな」
ライオンの言葉に俺も前を覗き込む。
確かに扉があるが、金属製で今までの扉よりかなり頑丈そうだ。
「取り敢えず壊すか?」
「いや、まずノックしろよ。 前提おかしいだろ」
俺が突っ込むと、そうだったと言う風にノックし始める。
すると、
ガチャリ……ギギギ
鍵が開くような音がして、続けて扉がゆっくりと開かれる。
どう見てもゾンビの仕業ではないだろう。
そして開いた扉の向こうからすすり泣く声や人の喋る声、雑音などが聞こえてきた。
ライオンに続いて俺も扉をくぐる。
そこはかなり広めの地下だった。
冒険者達が鍛練する為広く作られているのだろうが、床は土が敷かれ天井は高く、地下なのにそこまで圧迫感はない。
そしてその広い鍛錬場には大勢の人達が避難していた。
子供達も多くおり、家族にだろうか? 縋って泣いている姿も見られる。
俺とライオンが扉をくぐった所で立ち竦んでいると、
「あの……貴方達は?」
避難していた人達の中から一人の老婆が話しかけてきた。
髪は全て白く、しわを蓄えて入るが、掛けている眼鏡の双眸はしっかりしており、聡明さを伺わせる。
落ち着いたシックなスカートとシャツを身に着け、上からカーディガンを羽織っている。
話しかけられた俺達は一瞬互いに顔を見合わせたが、
「この街がゾンビに襲われたって聞いてな。 助ける為と疫病を治すために来た」
疫病とは呪いの事だが、一般的に『呪い』という名称で伝わっているかは怪しい。
なので通常は疫病や流行病として確認をとっていた。
老婆は俺の話を聞くと嬉しそうに、
「これは……何というありがたい事。 いつまで避難すればよいか連絡も来ず、避難している人達の中には熱が出始めた人達もいて困っていた所でした」
「な! 熱が出たのはどいつだ?」
呪いで死ぬとゾンビになってしまう。
一刻も早く治さなくては!
老婆は俺の勢いに圧されつつ、「こちらです」と俺を案内し始めた。
人混みを縫って案内しつつ、
「申し遅れました、私はこの近くの学園で校長をしているセレスティーヌ=ビヨンネと言います。 セレスで構いません」
「俺はルル=ホリィ。 こっちはライオンだ」
「よろしく」
ライオンがセレスに軽く会釈する。
「ルルさんとライオンさんですね。」
セレスが確認する様に言うと、
「失礼ですが……ルルさん達は冒険者の方ですか?」
「あー冒険者っつーか、ただの旅人だ。 ここにはたまたま話を聞いてな、馳せ参じたって訳だ」
「そうでしたか……ところで」
セレスが声を落とす、
「上に冒険者の方達が居たのですがご存知ありませんか?」
「あ、ああ。 居たには居たが……残念な事に」
「そう……でしたか」
連絡等がない時点である程度予想はしていたのであろう。
セレスは特に驚く事なく力なく言葉を返す。
「こちらの人達です」
セレスが案内してくれたのは鍛錬場の端で、簡易的な仕切りがされている場所だった。
疫病と言う事で他の人達から距離を置いてあるのだろう。
「じゃあ俺は治してくる。 コイツを頼む」
俺は背負っている女性をライオンに任せると、仕切りの中へ入って行った。
仕切りの中では地面にシーツが敷かれ、数名の人達が寝かせられている。
パッと見た感じ重体者は居ないようだ。
俺はその人達に寄り添うと、『アンチカーズ』の魔法を掛け始めた。
「あの……ライオンさんでしたか?」
「うむ」
「その女性を見せてもらっても? ……ああ、やはり!」
セレスはライオンの背負っている女性を見ると駆け寄って、
「シエラ! シエラ!! あ、あの? この子は無事なんでしょうか?」
「ふむ、知り合いの様だな? 上でゾンビに襲われていた所を助けた。 治癒もされて無事ではあるが……」
「あるが……?」
「ああ、いや、今起こすのはやめたほうが良い。 かなり錯乱していた。 今は魔法で気を失っている状態だ」
「そ、そうでしたか……」
セレスはそれを聞くとシエラを起こそうとしていた手を止める。
そして、
「彼女は冒険者ギルドの受付嬢でして、私の教え子でもあるのです」
「それで知っていたのだな」
「はい……錯乱というからには何かあったのでしょうが、とにかく今はこの子が生きていてくれて良かったです」
セレスは改めてライオンに向き直ると、
「ライオンさん、ありがとうございます」
「よせ、俺は大したことはしていない。 礼ならルルに言ってやってくれ」
「ルルさんにですか?」
「ああ、彼女が真っ先にこの街に走り出し、ギルドに避難民がいる事を知り、この子の」
ライオンは背中のシエラを示すと、
「傷を回復してくれたんだ。 礼ならあいつにしてやって欲しい」
「分かりました。 でもライオンさん、貴方にも感謝しておりますよ。 きっとルルさんも一人では大変だったと思いますし、貴方が支えたのでしょうから」
「ふむ。 そこまでいうなら……気を使わせてすまないな」
「いえいえ、こう見えても色んな生徒を見てきましたからね。 これでも人の見る目はあるつもりです」
そう告げてセレスは優しく微笑むと、
「だからお二人の事……人となりが伝わってますので」
それを聞くとライオンも笑顔を見せ、歯を煌めかせるのだった。




