狙われるという事
「どうした!? 何事かね?」
切り裂かれた布の反対側の布が捲られて変態が風呂区画に入ってくる。
「は? ええ!? きゃあぁ!!」
な、な、な、なんでこいつがここに!?
っていうか、なんですぐ現れたんだ!!
変態は全身を覆うクリーム色のバスローブを羽織っていた。
コイツ風呂入るつもりだったのか!?
「お、おま、おま、おま」
「いや、私は『おま』ではないのだが?」
「~~~~」
俺は口をパクパクさせて……っていうか言葉が出ねぇ!!
魔族と変態に囲まれて真っ裸の俺。
唯一の救いは樽風呂の中に入っているから見られずに済んだことだろう……ってそんな場合じゃない!?
俺は冷静さを取り戻すと、
「おい、馬鹿! 魔族だ。 ここから逃げろ!!」
「ふむ、この状況で俺にそんな言葉を掛けるとは……はは~ん、さては君はなかなか優しい奴だな?」
「んなこと言ってる場合か!? コイツの狙いは俺だ! 今すぐ村人と逃げろ!」
畜生!! こうなりゃやけだ!!
俺は樽風呂を飛び出すと、近くに置いてあったバスタオルを体に巻き付ける!
俺が飛び出した瞬間樽風呂を光線が貫通!!
開いた穴からお湯が噴き出した!
「どこ狙ってやがる! こっちだノロマ!」
俺はそう言って村から離れる方へ走り出す!
魔族が再び腕を上げ……俺は地面に伏せた!
頭上を光線が走り抜ける!
すぐに起き上がると再び走り出した!
「はぁはぁはぁ……」
恰好は格好だし、魔族の光線を躱しつつ走る為息が苦しい。
俺は森を走り抜けていた。
木を使ってうまく蛇行しながら走る。
バシュゥ!!
俺のすぐ横にある木に光線が当たり穴が開く!
(くそ~~やられてたまっかよ!)
焦る俺だが打開策が見つからない。
このままじゃジリ貧だ。
「あ!?」
張り出した枝に足を取られて転倒した!?
しかも……、
ちっ! やっちまった!?
足を深く切ってしまった……急いで回復魔法を唱えて立ち上がる!
が、
「そうかよ? そこまで俺の事恋しいってか!?」
俺の数メートル前に魔族が立っていた。
魔族は飛べるから……俺に追いつくのは容易だっただろう。
(相手の光線を躱して……『フラッシュ』……これしかない)
俺が師匠に教わった魔法。
その中に相手を攻撃する魔法はない。
魔法自体はあるのだが、俺が優先して覚えさせられた魔法は回復や解呪などの回復・治癒・補助系の魔法だったためだ。
髪をまとめていたタオルはとうに落としてなくなっており、ほつれた髪が目にかかってうざい。
しかし目を逸らせない……腕を上げたタイミングで躱さないと死ぬ。
「『イグニッション!』」
声と同時に魔族の体が炎に包まれた!!
慌てて宙に浮かび上がる魔族! その頭上から黒い塊が落ちて来た!!
ザクッ!!!
深く突き刺さるような……斬れるような音がして魔族の翼が体から離れ、魔族は地面に落下して叩きつけられる!!
すると、先程の黒い塊が素早く魔族に近寄るとすれ違いざま首を刎ねた!!
魔族の……カマキリの様な頭が宙をクルクルと飛んで地面でバウンドする。
そして身体の方は……手が頭を探すように彷徨い……そのまま地面に倒れて動かなくなった。
(い、一体何が……)
唖然とする俺に、黒い塊……よく見るとあの変態だった。
上半身裸、下半身はブーメランパンツ、そしてその手には鋭い剣が握られている。
バスローブの下はこんな格好だったのか!
変態は俺の方に歩み寄ると、
「己を囮に村人達を逃そうというその心意気やよし!」
俺は唖然となっていたが、我に返ると、
「な、あ、あんた一体……」
「まぁ、俺の事は後でいい。 村の者達も無事だし、君の事を心配している」
そう言って変態は俺の服を差し出してきた。
「さすがにその恰好で村に戻るわけにはいくまい。 これを着たまえ」
そう言われて俺は自分の格好に気づいた。
……まぁ、そうだよな? 命掛かってたし、躓いて転んだし。
ああ、真っ裸でしたとも!!
もう……お願い、何も言わないでくれ。
そして俺の反射神経が勝手に働く。
気付いた時、俺は変態に目潰しを食らわせていた!
ブスリ!
「はがぁ!」
変態が剣を取り落とし地面を転がる!!
「目がぁぁ! 目ぇがぁぁぁぁ!!」
その間に俺はササっと服を着替える。
そして未だ転がる変態の耳に口を寄せ。
「先程の映像を忘れろ。 お前は何も見なかった、いいな?」
「し、しかし……」
「このまま一生目が見えなくされるのと、どっちがいい? 助けてくれた慈悲で二択にしてやる」
「う、うむ。 分かった忘れよう」
俺は回復魔法を唱えてやる。
変態はやっと落ち着いたようで、
「ちなみに怪我は……ないようだな?」
「ああ……」
流石に俺も落ち着いてきてバツ悪く感じる。
助けた者に目潰しなんてやり過ぎた。
「あ、あの……ライオンだっけ?」
「うむ」
「あ、そ、その。 目潰し……悪かった……それと、あんがと……な。 助けてくれたし、ふ、服も」
「気にするな。 俺も良い物を……っと、何でもない」
瞬時に膨れ上がった俺の殺気を感じて口を噤む。
全く! そりゃぁ……助けて貰ったけどさ。
うぅ、俺だってわかってんだよ……命に比べたら裸見られたぐらいって思うけど、でもでも~~うぅ。
俺の複雑な思いを余所に、
「ひとまず村に戻るがいい。 先程も言ったが君の悲鳴と風呂の状況を見て心配しているだろう」
「あ、そ、そうだな!」
俺は村の方に駆けだそうとして、
「ライオンは……もどんねーのか?」
「後で戻る」
「そっか。 あとで何者か教えろよ!」
俺は村の方へと駆け出した。
「僧侶様!!」
「僧侶様!?」
「僧侶様がいらっしゃったぞー!」
村では村人総出で俺の事を探していた。
うぅ……心配かけて申し訳ない。
「すまない。 心配かけた」
「いえいえ、それよりこれは何事で?」
村長が心配そうに尋ねてくる。
俺は魔族に襲われた事を説明した。
「すると……僧侶様は魔族に狙われていると?」
「ああ、そうなんだ。 心配かけてすまない」
すると村長は少し考える様な素振りを見せる。
(ん? なんだ?)
なんだか……様子が変わったように感じた。
そしてそれは気のせいではなかった。
「そう……でしたか。 申し訳ございません。 僧侶様、貴方様にはこのまま村を出て頂きたい」
「は? なんでだ? 何で急にそんな……」
「お分かりならないか? 貴方様がいることでこの村が襲われる可能性がある事を」
「!?」
俺はその事実に茫然とする。
思っても……見なかった。
村を助ける俺が、村を魔族に襲わせてしまう可能性がある事を。
これでは……今後どうやって助ければ。
いや、呪いから助けることは出来るかもしれない。
しかし助けている途中に魔族が来れば村人達を巻き込む可能性があるではないか!
「貴方様はこの村の恩人。 厳しい事は言いたくありません。 お礼はいたしましょう、ですから今すぐこの村を立ち去ってほしいのです」
村長が合図して村人が一人走っていく。
暫くすると俺の鞄を持ってきた。
「こんな事を言うのは私達も心苦しいのです。 ですが、それと同時に魔族に襲われると思うと怖いのです。 すみません、分かって下され」
手渡されるまま鞄を受け取る。
その後……俺はどう歩いたのかわからず……気付いたら街道の中一人ポツンと立っていた。
泊めてくれるはずだったため、既に陽は落ち辺りは真っ暗だ。
暗闇に慣れた目だけである程度歩いて来たらしい。
俺は街道の端に寄ると、そのまま腰を落とすように座り込んだ。
今後、俺はどのように旅を続けて行けばいいのだろうか?……そう思い悩むのだった。




