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王の話


「そなたが『聖者』スキルを授かったルルだな? 良い、顔を上げて楽にせい」


跪いた状態から顔を上げた俺の数メートル前、ちょっとした段差の上に玉座がありそこに座る人物が確認する様に訊いて来た。



フィリム・ルド・クルーゼ十三世。


フィリム王国の現国王であり、政治的手腕は他国からも一目置かれているらしい。

今年七十歳になるはずだが、その顔つきは年齢を感じさせない程若々しかった。


顎の下に長めの白髭を蓄えており顔には皺が寄っているが、目つきは鋭く瞳にも力強さを感じる。


赤地に金と銀の刺繡をあしらった服を着て、白一色でふわふわな毛皮が付いているマントを纏っている。

その頭上には金と輝く宝石が満遍なく散りばめられた王冠が載せられていた。



「はい、その通りにてございますです」


こんな感じか?

ひとまず礼や跪いたりとかは教わったけど、しゃべり方までは教わってねーし……。


玉座のある段差の下、その横に控えるララとロロにチラリと視線を送るが、二人とも顔を下に伏せたままなのでその表情を伺い知ることは出来なかった。


……まぁ、いいのか?



「ルル、お前も聞いておろうが我がフィリム王国内にいたほとんどの神官や僧侶は魔族により殺されてしまった」


フィリム国王の話が始まったので、俺は慌てて耳を傾ける。


「お主にはこのまま王都に留まり、王都を始めとする主要都市の呪い解除に尽力を尽くしてもらおう」


っ!? やっぱりそーきやがったか!


「国王様、失礼ながら申し上げます」

俺は顔を伏せて声を上げると、


「何だ? 申してみよ」

「すまねぇ……じゃ、じゃなくて! ありがとうございます。 それでは申し上げさせていただきます」


伏せながらもロロが肩を震わせたのが目の端に入った。

くそっ! あれは絶対笑ってやがる!!


「この国では既に人口が半分近くまで落ち込んだと聞いておりますです。 主要都市ばかり対応しては国の危機となり得ます」

「ふむ? 続けよ」

「国を支えるのは全ての民であり、民が居なければ経済は止まってしまい、やがて国の維持に支障が出るかと」

「であれば、どうしたいと?」

「はい! この国を……いえ、世界を回り呪いを解いて行きたいと思っております」

「なるほど……それがお主の狙いか……」


王は暫く黙り込んでいたが……、


「ルルよ。 お前はこの呪いの事をどこまで知っておる?」

「は? え、え~と? 呪いで死んだ者がゾンビになるという事か?……でしょうか?」

「そうではない。 この呪い……その物自体だ」

「?」


意味が……よく分からん。

呪い自体? 魔王が掛けてるってことだろ?


俺の様子を見てか、フィリム国王が説明する様に話始める。


「この呪いは魔王が我ら人間達を滅ぼさんと掛けて来たものだ。 しかしこれだけの呪い……魔法による呪いなのだが、使うという事は勿論代償もある」

「代償……?」

「『呪詛返し』と言う言葉を聞いたことはないか?」

「……知らねー……ません」

「魔王の呪い。 これを解呪すればするほどその反動は魔王に返る」

「え?」

「つまり呪いを解呪し続けて行けばいずれ魔王は弱体する。 その時にこそ我らが魔王側に攻め込み魔王を討つ。 そうすることで世界は平和になるであろう」


フィリム国王は玉座から立ち上がり、


「その時に、討つための兵力が必要なのだ。 その為そなたには王都を中心に動いてもらう必要がある。 地方に行って貰っては困るのだ」

「ですが、どれくらいで魔王が弱るか……」

「それだが……儂の見立てでは呪いの半分近くは返したと思っておる」

「見立て……ですか?」

「魔王が魔族に命じて神官達を襲い始めたのは、予想より呪詛返しされたからであろう」

「し、しかしもはや解呪できるのが俺……じゃねーや、私だけでしたらこれから掛けられる呪いは……」

「この呪いは一人につき一回しか掛けられぬようだ。 すでに辺境の村などは呪いの影響を受け残るは大きな街や都市のみとなっている。 大方ゾンビ達を徐々に増やし大きな街などを襲わせていく算段だったのであろう」


フィリム国王は席を立ち背中を向けると、


「よってお主が各地の村を回ることは不要。 兵力温存と防衛の為王都に留まれ。 神官や僧侶はまだ生き残っている者も少数ながら居よう。 小さな村などはそいつらに任せとけばよい」

「ですが」

「くどい!」


ぴしゃりと言い放つ。


「お前は自分のスキルの重要性を分かっておらぬ。 王都にて留まりその意味を知れ!」


そう告げて謁見の間を立ち去ろうとするフィリム国王。


言いたい意味は分かる。

しかしつまりこの白髭やろーの中では民より兵を優先しろという事だ。

優先される命なんてない! なのにそれを天秤にかけて都合よい方を重く見ている。


俺の脳裏に今まで助けた人達。

助けられなかった人達。

そして……その家族達。

その人達の顔が浮かぶ。



「……ざけんな」


フィリム国王が足を止める。


「何だと?」

「ふざけんなって言ってんだよ!」


俺は立ち上がると玉座の横に立つフィリム国王を睨みつけた。


「民より兵を優先しろというのか?」

「そう言う問題ではない。 大局を見ろと言っているのだ」

「そんなことは知らねー! 俺は魔王を弱らせて討つために僧侶になったんじゃない! どんな人であれ一人でも多くの呪いを解いてみんなを助けたいんだ!」

「魔王を討たねばそれこそ多くの人々が苦しむぞ」

「呪いは一人一回なんだろ!? 誰であろうと呪いを解いていけば魔王を弱体できるだろーが!」

「では弱体した魔王を……魔族達もいる中、誰が討つというのだ? お前が地方に行っている間、兵士達が呪われたら誰が解呪する?」

「そ、それは……」


くっ! 勢いで言っただけにパッとは思いつかねー!!


「分かったか!? 考えが浅はかなのだ、暫く特別な部屋で反省していろ!」


フィリム国王はそう言って手を挙げた。

部屋の端にいた鎧姿の兵士が走って来ると、俺の両側から腕を抑え込む。


「な、なんだてめーら! 放しやがれ!」


「国王様! 私達が見張りますので何卒恩赦を」

ロロが頭を下げたまま前に進み出てフィリム国王に願い出るが、


「ならん! コイツのこの様子を見よ。 どこの馬の骨とも分からぬ粗暴ぶりではないか? 『聖者』は『聖者』らしく清楚でいるべきなのだ」


くっそ! 言いたい放題言いやがって!!


「うるせぇ! 何が『聖者』らしくだ! その前に俺は俺だ! 自分らしくて何が悪い!!」


力を込めて腕を引き、抑えていた兵を投げ飛ばす!



「なに!? 逆らうか?」

「なぁにが『逆らうか?』だ! お前の下僕じゃねーんだぞ!」


頭にきてはいるがこのまま腐れ王を殴っても意味がない。

ここはこのまま王城を飛び出すぜ!



俺は体を翻すと謁見の間から飛び出そうと大扉に走る!!


……が、青い髪の少女が立ちはだかった!


「……ララ。 そこをどけ!」

「……ごめんね」


どく気はないか……ならば!!


「悪いな! ちょっと痛いぜ?」


少女の顔に目掛けて拳を繰り出す!

ララは首を傾けそれを軽々と躱した……もちろん予想通りだ。


そのまま繰り出した手で肩を掴むと引き寄せる!

引き寄せつつ俺はすれ違う様にして扉に向か……。


後頭部に衝撃を感じ俺の意識はそこで途切れた。



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