バロックの代表者
「ようこそいらっしゃいました。 私はこの避難集落の代表者、メリル=クリスティーと申します」
暗く疲れたような表情ながら、無理矢理微笑む様にして女性が名乗る。
背が高く綺麗な金髪の清楚な女性で、俺の見立てでは20代半ばに見えた。
「始めまして。 俺はルル=ホリィ。 こっちが……」
俺達もメリルと名乗った女性に名前を名乗るが……気が付くとメリルが目を丸くして固まっていた。
「ん? どうかしたのか?」
俺の言葉で我に戻ると、
「あ、す、すみません! リーダーが少女の方というのは聞いていたのですが、その姿でその話し方が意外だったので……」
「ああ、たまに言われるな。 まぁ田舎育ちなんでこういう口調なんだが……気になるか?」
「いえ、大丈夫です。 少し驚いただけなので……」
すぐに落ち着きを取り戻したらしく、こちらに向かって微笑んだ。
集落に迎え入れられ案内されたテントでしばらく休んでいると見張りの人に呼ばれて、彼女……メリルの前に連れて来ていた。
他のテントより二回りほども大きいテントは中で仕切りにより部屋のように分かれており、その左側の部屋で彼女と引き合わされている。
ちなみにノエル達には休んでもらって、ここには俺とライオン、リリとボス、そしてアルトが来ていた。
「すみません、まともな椅子も無くて……そちらにお掛け下さい」
勧められたのは木の箱にシーツを被せた簡易的な台だった。
座るとギシと軋み、またシーツだけなので結構固い。
テーブルも同じような感じで、その上に人数分のお茶……ではなく白湯が出される。
「すみません、こんなものしかなくて……」
「いや、そんなに気を遣わなくて大丈夫だ。 贅沢できる状況じゃないのは分かるからな」
「そう言って頂ければ……」
女性はお詫びを口にしながら俺達の対面に座る。
彼女が座った椅子も俺達と同じようなものだった。
「ええと、それで……ダーテンハルトの街からいらっしゃったと聞いたのですが」
「ああ、ちょっと色々あって、バロックの街を治めている五大貴族の方に会いに来たんだが……」
「そうでしたか……」
メリルは表情を暗くし、
「バロックの街を治めていたのはルート子爵です。 ですが、ご覧になったとお聞きした通りバロックの街はゾンビ達により……」
「ああ……見て来たぜ。 一体何があったんだ?」
「何がというより、街に疫病が流行ってしまって……それで死んだ者達が起き上がりゾンビとなって人々を襲い始めたのです」
「神官や僧侶は? そいつらがいれば……」
「おりませんでした。 元々数が少ない事もありましたが、昆虫の様な姿をした魔族によって……」
「あいつら! こんなところにも来てやがったか」
俺は怒りで拳を震わせる……メリルはそんな俺が落ち着くのを待つと話の続きを始めた。
「最初は疫病の者を隔離したりゾンビを退治したりとしていたのですが……そのうち疫病に掛かった者達が逃げ隠れし始めました」
「逃げ隠れ?」
「隔離されることへの恐れと、また疫病者はゾンビになってしまうという事から一部の人々が殺そうとし始めたのです……」
「……」
ゾンビに恐怖する人々が疫病者を襲う……しかし中には疫病者が家族や恋人であれば匿う者達もいるだろう。
そうしてどんどんゾンビが広がり……秩序崩壊が目に浮かぶようだ。
「……そのルート子爵とやらは?」
「子爵もゾンビとなり……」
「他に貴族の関係者は?」
「残念ながら死ぬかゾンビという形に……」
「そうか……ええと、メリルさんだったか? 貴方は関係者じゃないのか?」
「私は直接的には貴族とは関りがないのですが、子爵様の元で秘書的な役割をしていた者で……ただ街の運営に携わっていたので、今はこの避難集落の取り纏めを任せされております」
「そうか……」
俺はアルトに目を向ける。
本来ならダーテンハルトの一件をこの街の貴族……ルート子爵に伝えて、アルトの事を頼む手はずだったのだが……
「それで……ルルさん達がこの街に来たのはどんなご用件でしょうか?」
一応こちらの事情も話す必要はあるか……
俺はダーテンハルトに起こった内容、そしてアルトの件に関してメリルに説明をしていった。
一通り話を聴き終えると、
「そうでしたか……ダーテンハルトでそんなことが……。 最近連絡も取れなくなっておりまして、どうしたのかと思っておりましたが……」
メリルの表情は複雑だ。
魔族によることとはいえ、ダーテンハルトは国家転覆を図られ他の街を見捨てようとしていたのだから……そしてその影響があったかは分からないが、実際バロックの街は崩壊した。
「お話は分かりました。 ですが、やはりそちらの……アルト様でしょうか? に対しては私からは何ともいえません。 他の街の貴族の方に判断を頂くしかないかと……申し訳ございません」
わざわざ来ていただいて……と付け足し申し訳なさそうなメリルに、
「いや、そうなるだろうと思ってはいたし、気にしないでくれ。 メリルさんが勝手に判断を下して後々揉めるよりはそれが良いと思うし」
「そう言って頂けると……」
メリルがほっとした様にそう答えた時だった、
「すみません、メリルさん。 火急の要件です」
1人の青年が飛び込んでくるように入ってきた。
「お客様の前ですよ? 一体どうなさったのですか?」
少し咎める様な言い方をしつつも、尋常じゃない雰囲気に不安そうな顔を向けるメリル。
そんなメリルに青年は焦った様子で、
「避難者の中に疫病者が出て……一部の街人が『殺すか追い出せ』と騒ぎ出しています」
「それはどこだ!!」
いきなり立ち上がり叫んだ俺に目を丸くして、
「メ、メリルさん、この方は?」
「名乗るのは後だ、疫病者はどこだ? 案内してくれ!」
「し、しかし……」
戸惑う青年、しかしメリルは俺の服で分かったのだろう。
「ワット、案内してあげて。 この方は僧侶の様ですから」
「そ、僧侶!? で、ではこちらに!」
駆け出す青年の後を追って、俺もテントを飛び出したのだった。




