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オトシゲ:乙女は資源になりました。~男性絶滅後のディストピアで、学園侵略しちゃいます~  作者: 428の968
第一章:関東圏統一戦争

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7話:サクラチル-1

撫子(なでしこ)会長」


副会長の田中(たなか)(あおい)が、分厚いファイルを胸に抱えて近づいてきた。


「今日の午後、第十四小学園との定例連絡があります。同盟離脱の件、引き続き説得を——」


——ズドォォォンッ!!


腹の底を殴りつけるような轟音が響き、激しい縦揺れが床を叩いた。

撫子(なでしこ)は弾かれたように窓へ駆け寄る。

美しい庭園の向こう、学園の地下施設がある方角から、真っ黒な煙がねじれるように立ち昇っていた。


「蘇生プラントが……っ」


(あおい)の声が、ひゅうっと引きつる。

ジリッ、とスピーカーから学園放送が流れ始めた。


『全生徒に告知します。本学園蘇生プラントに異常が発生しました。ただちに——』


ブツン。


放送が不自然に途切れ、ざらついた雑音が混じる。直後、スピーカーから弾け飛んできたのは、場違いなほど明るく、甘ったるい声だった。


『——みなさんこんにちはぁ! 東京霞学園・宣伝局長の夢咲(ゆめさき)ららですっ!』


撫子(なでしこ)は息を呑んだ。


『本日、一〇秒前をもって、東京霞学園は武蔵野庭園学園およびその同盟傘下三十校に対し、学園陶冶競争法第十条に基づく正式な宣戦布告を行いました! 手続きはポータルより完了済みです! よろしくお願いしまーす!』


ツー、ツー。


無機質な電子音とともに、静寂が落ちる。

宣戦布告。


「会長っ……広域転移警報が!」


(あおい)の悲鳴をかき消すように、鼓膜を劈く甲高いサイレンが学園中に響き渡った。

撫子(なでしこ)は、窓の外の空を見上げた。

空に、無数の染みがあった。

パラシュートだ。空の青を埋め尽くすほどの異常な数が、次々と降下してくる。庭園の方角には巨大な円筒形のポッドが雨のように降り注ぎ、同時に、この本部棟へ向けても、細長い黒いポッドが低空で滑るように飛んできていた。


「逃げて」


撫子(なでしこ)は振り返り、絞り出すように叫んだ。


「全員、いますぐ逃げて!」




田村(たむら)(かえで)は、息を乱しながら第四転移門を走り抜けた。

埼玉第三小学園への使者任務を終え、今朝帰ってきたばかりだった。門をくぐった瞬間に地面が揺れ、黒煙が上がり、サイレンが鳴り響いた。

何が起きているのか、完全には分からない。

でも、一つだけ確かなことがあった。撫子(なでしこ)会長が、役員棟にいる。


「こっちへ!」


近くで立ち尽くしていた警備隊の子たちに声を張り上げた。


「役員棟へ急いで! 会長を守らないと!」


警備隊の子たちが弾かれたように頷く。(かえで)は再び走り出した。

頭上の空から、黒い雨のように『奴ら』が降ってきていた。




転移は、一瞬だった。

ビーコンの座標に向けて、大規模転移装置が起動する。

最初に上空へ現れたのは、奴隷兵を限界まで詰め込んだ降下ポッド群だった。数百個のポッドが一斉に武蔵野庭園学園の空を埋め尽くし、パラシュートを開いてゆっくりと、だが確実に落ちてくる。

対空火器がまばらに火を噴き、数個のポッドが空中で爆散した。だが、残りのほとんどが屋上や広場、校舎のあちこちに着陸する。

ハッチが開いた。

白いぼろ布を身につけ、首にチョーカーを赤く点滅させた奴隷兵たちが、無言でなだれ込んでくる。


第六学生寮の西門では、すでに警備隊が展開していた。

激しい銃声が響き、奴隷兵が次々と蜂の巣になって倒れる。

だが、後ろから来る。また来る。どんどん来る。

彼女たちは無表情のまま駆け出し、腰の麻酔ガスグレネードのピンを抜きながら、警備隊に抱き着いた。

紫色のガスが噴き出す。それを吸い込んだ警備隊たちが、白目を剥いて次々と崩れ落ちる。巻き込まれた奴隷兵も一緒に倒れ、やがて動かなくなった。


「ガスだ!! 息を止めて!」

「寮へ下がれ! 中へ逃げろっ!」


紫の煙が迫り狂う中、数人の警備隊が、口元を制服の袖で必死に押さえながら、背後にある第六学生寮の扉へと駆け込んでいく。バタンッ、と重い扉が閉ざされた。

あっという間に、西門周辺の銃声が静まり返る。


そこへ、先ほどより一回り分厚い降下ポッドが空から降ってきた。

ズシンッ! という地響きとともに着地脚がアスファルトを砕き、強烈な逆噴射の暴風が、西門を覆っていた紫色のガスを一瞬にして円状に吹き飛ばす。

プシュゥゥ、と重々しい音を立ててハッチが開く。

一時的にガスの晴れたクリアな空間へ、清潔な黒い軍服を着た少女たちが次々と降りてくる。だが、風に押し戻されて再び迫りくる紫色の煙を見て、彼女たちは一斉に顔をしかめた。


「うわっ、ガスじゃん!」

「おいおい、ガス兵器使うなら先に言えよ! 降下地点にガス撒くとか、上はどうしちまったんだ!?」

「味方ごと眠らせる気ぃ? ほんと何考えてんのよ」


彼女たちは上層部へ容赦ない悪態を吐き捨てながら、大慌てで腰からガスマスクを引き抜き、顔に被せる。

紫色のガスが彼女たちを包み込む。だが、西門に折り重なる警備隊と奴隷兵の山を見下ろすと、マスク越しのくぐもった声がニヤリと笑った。


「——だが、こりゃいいな。船から展開する一番危ない瞬間を、まるまる奴隷にやらせるとは」


ひときわ背の高いリーダー格の少女が、担いだ大きな銃を揺らして豪快に笑った。


「しっかし奴隷兵ってのは大変だなぁ。死んでも代わりはいくらでもいるし、蘇生もしてもらえない」

「痛みも恐怖も麻痺させて突っ込ませるんだろ。ほぼゾンビじゃん。あたしは絶対なりたくないね」

「さ、寮に逃げ込んだ獲物を狩りますかぁ。たくさん捕まえて目指せボーナス!」


無邪気にふざけ合う少女たちの後ろ。

一人だけ、重そうな弾薬箱を抱えた少女が、死体の山を見て青い顔で立ち尽くしていた。

背の高いリーダーが、振り返って声を張り上げる。


「行くぞ、ナナ!」

「……はいっ!」


ひっくり返ったような、震える返事が響く。

彼女たちは、倒れた奴隷兵の顔をブーツで踏みにじりながら、第六学生寮へと歩き出した。




本部棟の廊下を、撫子(なでしこ)は走っていた。

後ろから、(あおい)の切羽詰まった足音がついてくる。


「会長、防衛隊が——」

「分かってる!」


分かっている。でも足は止められない。

角を曲がった瞬間、一階の窓ガラスが派手に割れる音がした。

撫子(なでしこ)は息を呑んで立ち止まる。階段の下から、声が聞こえた。


「いたいたー!」


明るい声だった。ひどく楽しそうだった。複数の足音が、タタタッと軽いリズムで階段を駆け上がってくる。


「走って走って! 逃げてくれた方が楽しいから!」


撫子(なでしこ)(あおい)を見た。(あおい)は真っ青な顔で頷く。

走った。必死に。今まで生きてきた中で一番速く。

役員室に飛び込み、分厚い扉を閉める。


「バリケードを!」


机を動かし、椅子を重ねた。集まってきた防衛隊の子たちが、震える手で護身用の拳銃を構え、扉の前に並ぶ。


撫子(なでしこ)会長、奥に」


(あおい)の言葉に、撫子(なでしこ)は首を横に振った。


「私は、ここにいる」


扉の外から、足音が聞こえた。複数の足音が廊下を駆け抜け、役員室の前でピタリと止まる。

静かになった。しばらく、何も起きない。

嫌な汗が背中を伝う。静かすぎた。

ふと、扉の向こうで誰かが歌っているのが聞こえた。鼻歌みたいな、スキップでも踏むような軽い歌。

それから。


「——行くよ」


声がした。

扉の前で何かが動いた。バリケードを築いていた防衛隊の子たちが、引き金に指をかけた瞬間——。

轟音とともに、扉が木端微塵に吹き飛んだ。

もうもうと上がる煙の中へ、黒い影が飛び込んでくる。

胸元で、手榴弾のピンを抜きながら。

連続する爆発。

堅牢なバリケードが吹き飛び、防衛隊の少女たちが宙を舞う。

煙が晴れると、黒い軍服を着た小柄な子たちが数人、役員室に入り込んでいた。彼女たちは全員、口元に狂ったような笑みを貼り付けたまま、短機関銃を乱射し始める。

凄惨な銃撃戦。防衛隊が必死に応戦し、撫子(なでしこ)も拳銃を撃った。当たらない。

また一人、黒い軍服の子が飛び込んできた。


「どいてどいてー!」


ピンを抜きながら、笑って。

耳を劈く爆発。

強烈な爆風に煽られ、撫子(なでしこ)は壁に激しく叩きつけられた。

立ち上がろうとするが、足に力が入らない。拳銃を構えようとした手は、痙攣したように震えていた。

黒い軍服の子が、ゆっくりと近づいてくる。

血まみれの顔で、ニコニコと笑っていた。


「もういいよ」


お姉さんが子供をあやすような、酷く優しい声だった。


「頑張ったね」


パン、パン、パン。


乾いた三つの銃声とともに、撫子(なでしこ)の視界は完全に暗転した。

次回、8話:サクラチル-2 です!

ぜひとも次回も読みに来てください!

感想、ブクマ、評価などいただけると、更新のエネルギー(生贄コスト)になります! よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
一気に最新話まで読まさせて頂きました あの怪しげな動きからついに蘇生プラントが破壊されると同時に始まってしまいましたね…… そして撫子の運命はどうなるのか? めっちゃいいところで終わってるじゃないです…
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