4話:夜の訪問者
深夜3時。
武蔵野庭園学園の地下深く、蘇生ホールの扉が、音もなく開いた。
「——ねえ」
小柄な影が、暗闇の中でぼそりと言った。
「この学園ってさ、本っ当に貧乏だよね」
「蘇生プラント、Mk-Ⅱじゃん。Mk-Ⅱだよ?うちのMk-IVと比べてみてよ」
「食堂のご飯もまずかったし」
「制服もダサいし」
「三週間も潜伏してて、いいことな~んにもなかった」
三つの影が、ヘッドライトをつけて蘇生プラントの前に立っていた。
9日前、朝の庭園で、撫子に「良い一日を」と笑いかけた子たちだ。今は武蔵野の制服の下に黒いボディスーツを着て、腰にナイフ、胸元にMP40を下げている。
リーダー格の少女が、飴玉を口に放り込みながら、動力パイプを懐中電灯で照らした。
「まあでも、ここが一番大事なとこだから。ここさえ壊せば——」
「この学校のお姉さんたち、生き返れなくなるね」
「かわいそう」
「零お姉様が言ってたじゃん。『蘇生できない恐怖を与えることで、スムーズに降伏させる慈悲だ』って」
「そっかぁ。優しいね」
リーダーがC4爆弾を取り出した。手際が良く動力パイプに貼り付けていく。
「あ、そうだ」
別の子が、小型の端末を取り出した。
「キーのコピー、終わってる?」
「終わってるよ」
リーダーが飴玉を転がしながら答えた。
「三週間かけて全員分コピーしたから。武蔵野の生徒、全員ね」
「全員?」
「全員。一人も漏れなし。零お姉様に怒られたくないから、念入りにやっといた」
端末の画面に、ずらりと数字が並んでいる。武蔵野庭園学園の生徒、一万八千人分の蘇生登録キー。
「これがあれば——」
「このプラントが吹き飛んじゃっても、みんな霞学園で起こせるね」
「死んでも生き返れる」
「良かったねぇ」
そこへ、廊下から足音が聞こえた。
見回りの警備員だった。
「あ、見つかっちゃった」
「じゃあ、おやすみなさい」
音もなく、影が動く。警備員の生徒が、声も上げずに倒れた。
「よし、セット完了」
リーダーが立ち上がって、伸びをした。
「明日の朝、ドカンといこうね」
三人は、笑いながら地下を出た。
廊下はがらんとしていた。遠くで、風が窓を揺らす音がした。
「あとは、ビーコンも埋めないと」
リーダーが立ち上がった。
「どこに?」
「庭園の広場。真ん中あたり」
「あそこ、昼間は人がいっぱいいたじゃん」
「夜中だから大丈夫だよ」
三人は地下を出て、庭園に向かった。
夜の庭園は静かだった。ライトに照らされた噴水が、ひっそりと音を立てている。昼間、会長がベンチに座って資料を広げている場所だ。
リーダーが広場の中央にしゃがんで、携帯シャベルで土を掘り始めた。
「ここがど真ん中かな」
「いいんじゃない?」
小さな金属の筒を、土の中に埋める。
「これで明日、ここに転移門が開くわけ」
「きれいな庭園だったのにね」
別の子が、のんびりと言った。
「まあ、明日も庭園はあるんじゃない?」
リーダーが立ち上がって、土を軽く踏み固めた。
「血で染まるだけで」
三人は顔を見合わせて、また笑った。
噴水の音だけが、静かに続いていた。
また見に来てくれてありがとう!!
次回、5話 サクラチル です!
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