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オトシゲ:乙女は資源になりました。~男性絶滅後のディストピアで、学園侵略しちゃいます~  作者: 428の968
第一章:関東圏統一戦争

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3話:嵐の前の静けさ

【武蔵野庭園学園 役員室】


放課後のチャイムが鳴った。

会長清川(きよかわ)撫子(なでしこ)は、生徒会室の窓から庭園を見下ろした。

花壇の手入れをしている子がいる。ベンチで友達と笑っている子がいる。噴水の前で写真を撮っている子がいる。夕日が庭園を橙色に染めて、風が花びらを揺らしている。

きれいだなぁ。

毎日見ている景色なのに、最近はこうして立ち止まって見てしまう。失いたくないから、目に焼き付けておきたいから。


「——撫子(なでしこ)会長」


副会長の田中(たなか)(あおい)が、資料を手に近づいてきた。その顔が、少し曇っている。

撫子は窓から離れて、椅子に座った。


「埼玉第三小学園から、同盟脱退の打診が来ています」

「……また?」


こめかみを押さえる。


「これで今週三件目ね」

「仕方ありません。同盟結成からもうすぐ三ヶ月……。学園陶冶競争法に定める離脱可能期間に入りますから」


葵が、悔しそうに唇を噛む。


「今、同盟を抜けて霞学園に媚びを売れば、報復を免れられる。自分たちだけ助かろうとする学園が出るのは、悲しいですが分かっていたことです」


撫子は重いため息をついた。

分かっていた。分かっていたけれど。

同盟を結成した時、みんなの顔を覚えている。三十一校の代表たちが集まって、手を取り合って、「一緒に守ろう」と誓った日のことを。あの時は本当に、希望があると思った。


「脱退を申し出た学園に、連絡を取ってもらえる?」

「はい。ただ——」


葵が言いよどむ。


「彼女たちの気持ちも、分かるんです。小学園には、戦う力がない。霞学園が来たら、同盟がどれだけ大きくても、小さな学園は真っ先に踏み潰される。それが分かってるから、逃げ道を探してる」

「分かってる」


撫子は静かに言った。


「だから、こちらから連絡して。『あと少し耐えれば、私たちの結束は本物になる。三十一校が完全に団結した相手には、霞学園だって手を出せないはずだ』と伝えて」


葵が頷いた。でもその目に、確信はなかった。

撫子も、分かっていた。自分の言葉が、どこまで届くか。



翌朝、撫子はいつもより早く登校した。

朝の庭園は、また別の美しさがある。夜露に濡れた花びらが光を弾いて、鳥の声が聞こえる。誰もいない庭園を、一人で歩く。

こういう時間が好きだった。

霞学園のことを調べれば調べるほど、怖くなる。転移奇襲、突撃隊、洗脳、虐殺——同盟を結成したのも、そういうものから身を守りたかったからだ。自分達の学園だけじゃない、周りの小さな学園たちも。


「守りたい」


口に出すと、少し気持ちが落ち着いた。

根拠はない。でも、諦めたくない。

噴水のそばのベンチに座って、資料を広げた。今日の放課後に、同盟の緊急会議がある。脱退を申し出た学園を引き止めるための言葉を、もう一度考えなければならない。

ペンを走らせていると、後ろから声がした。


「おはようございます、会長」


振り返ると、三人の留学生が立っていた。先月から来ている、同盟をしているの小学園からの交換留学生だ。名前は確か——


「おはよう。早いね」

「はい。朝の庭園が好きで」


リーダー格の小柄な子が、にっこりと笑った。

愛嬌のある笑顔だった。撫子も、つられて笑った。


「武蔵野の庭園、きれいでしょう」

「とっても」


少女は、庭園を見渡した。その目が、少しだけ——何かを値踏みするように見えた気がした。でも、すぐに笑顔に戻った。

気のせいだ、と撫子は思った。


「じゃあ、また後で」

「はい。良い一日を」


三人が歩き去っていく。撫子は資料に目を落とした。

今日も、幾つもやるべきことがある。



放課後の会議は、三時間続いた。

脱退を申し出た三校のうち、二校は引き止めることができた。一校は、それでも翻意してくれなかった。

会議が終わった後、撫子が一人の生徒を呼び止める。


「楓さん、ちょっといい?」

「はい」

「埼玉第三小学園への使者、お願いできる? 貴女なら上手く話してくれると思って」


楓が頷く。


「今夜、行ってきます」


みんなが帰った後、撫子は一人で生徒会室に残った。

窓の外は、もう暗かった。

庭園のライトが灯っていて、昼間とは違う静かな美しさがある。噴水の音だけが、遠く聞こえる。


「あと十日」


同盟結成から三ヶ月が経てば、離脱が自由になる。それまでにこのまま結束を完璧にできなければ——

撫子は、そのことを考えないようにしていた。考えても、答えが出ないから。ただ、今日できることをやるしかない。明日できることを、明日やるしかない。

立ち上がって、カバンを持った。

帰ろう。明日も、早く来よう。

生徒会室の電気を消した。

廊下に出ると、誰もいなかった。遠くで、掃除をしている生徒の音が聞こえる。

撫子は歩き出した。

明日も、庭園はきれいなはず。

また見に来てくれてありがとう!!

次回、4話 夜の訪問者 です!

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