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オトシゲ:乙女は資源になりました。~男性絶滅後のディストピアで、学園侵略しちゃいます~  作者: 428の968
第一章:関東圏統一戦争

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2話:捕食者たちのお茶会

【東京霞学園 本部棟 役員会議室】


二時間が過ぎた。

分厚い遮音壁が地上の喧騒を遮断し、室内には低く唸る空調の作動音だけが満ちている。天井まで届く書棚。深い緑のクロスが敷かれた長テーブル。

神楽坂(かぐらざか)玲緒奈(れおな)は、一度も背もたれに体を預けていない。

漆黒のスーツ。指先に光る一粒のリング。

彫刻のような静止。彼女が資料に目を落としている間、室内の酸素が少しずつ削られていくような錯覚に陥る。


「——以上が、今年度の予算配分案です」


西園寺(さいおんじ)椿(つばき)が、手元のタブレットから視線を上げた。

抑揚を削ぎ落とした声。


「各部署からの追加要望ですが、研究局から」


提示された資料。


「……先月比、三百八十パーセント増の予算申請が来ております」


玲緒奈の口角が、わずかに上がった。

指先が卓上を叩く。コツ、コツ、と一定の刻み。


「アヤメのところね」


温度のない声。


「今度直接聞きに行くわ。何を作ろうとしているのか、私自身の耳で」

「ご予定を押さえます」


端末へ書き込む指。

十人以上の人間が詰まっている部屋。けれど、誰も口を挟まない。玲緒奈と椿。二人の間で交わされる言葉だけで、意思決定が完結していた。

玲緒奈がカップを持ち上げる。

午後の光を透かし、深く、どろりと赤く輝く液体。一口含み、再びテーブルへ。

微かに漂うのは、アールグレイの苦い香り。


「次の議題を」


部屋の端から声が上がった。


「南方の学園連合の件を報告いたします」


戦略情報局(SID)|長・如月(きさらぎ)(れい)が立ち上がる。

対象を正確に測定するような、鋭い眼光。


「武蔵野庭園学園について」


ホログラムディスプレイに展開された、青い光の地図。


「工作員の浸透に成功しました。現在、留学生の名目で三名が潜伏。情報を収集させています」

「スケジュールは」

「同盟強制破棄まで、残り二十日。その直前の侵攻を推薦します。盟主である武蔵野を即日制圧すれば、傘下の学園は恐怖から結束を失う。裏切りを誘発させるには、最適なタイミングかと」


玲緒奈は地図を見つめたまま動かない。

沈黙。

零はそれを当然のこととして受け入れ、淡々と数字を並べた。


「現時点での推定捕虜数は、敵総生徒数約二万名に対し、八千名前後。今年度の蘇生コスト枯渇分を補填して余る黒字です」

「武蔵野の会長は」

「清川撫子(なでしこ)。理想主義者です。我々の方針を公に批判し、弱小な学園を束ねて同盟を組織しました。ただし——外交的な手腕は高い。内部の求心力も強い。そのまま成長させれば、将来的に厄介なことになります」

「だからこそ、今ね」


玲緒奈が、地図から視線を外した。

一人一人の顔を、ゆっくりと、確認するように。

視線に晒された者の呼吸が、同時に止まる。


「異論は?」


静寂。

誰も、手を挙げない。

一秒、二秒。


「——異論があります」


テーブルの端から、低く、張り詰めた声。

司法局長・九条院(くじょういん)紗夜(さや)だ。


背筋を伸ばし、真っ直ぐに玲緒奈を見据える。指先が、資料の端を強く握りしめていた。

「武蔵野庭園学園は、現在いかなる挑発行為も行っていません。一方的な宣戦布告は、学園陶冶競争法がくえんとうやきょうそうほうの理念からも逸脱します。法的根拠が薄い侵攻は、将来的な外交的批判を受けるリスクになり得ます」


しんと、静まり返る。

視線が玲緒奈へ集まる。

玲緒奈は、ただ、紗夜を見ていた。

怒りもない。呆れもない。そこにあるのは、底の見えない空虚。


「法的根拠が薄い。そう。それで?」

「……侵攻の再考を、提言します」

「そう」


それだけだった。

玲緒奈は紗夜から視線を外し、再び全員を見渡す。

「作戦名はサクラチル。開戦は三週間後にしましょう」

指示が淡々と続く。遠征軍への通達、突撃隊の先行浸透。

椿がそれを、機械的に書き留めていく。

紗夜はもう、何も言わなかった。

会議が終わったとき、玲緒奈はすでに次の資料を開いていた。

出席者が次々と部屋を出ていき、最後には椿と玲緒奈だけが残った。

扉が閉まる。

廊下を歩く足音が、遠ざかっていく。

椿が、端末から視線を上げた。


「玲緒奈様」

「なに」

九条院(くじょういん)紗夜(さや)の最近の言動ですが、今回に限らず反論が増えています。外部との接触も確認されており——今後の会議への招集は、再考されることをお勧めします」


資料をめくる手が、止まった。

沈黙が部屋を支配する。


「駄目よ」

「……理由を伺っても」

「組織というのはね、椿」


玲緒奈が資料を閉じ、椿を見た。

「全員が同じ方向を向いていたら、死角が生まれるの。私が間違えた時に、誰も止められない」

椿は答えなかった。


「紗夜は使える子よ。(もの)おじせずに言える子が一人いるだけで、組織の質が変わる。情報局に目をつけられてもなお言ってくる——それがどれだけ得難(えがた)いか、あなたには分かるでしょう」

「……承知しました」


椿が一礼し、再び端末に視線を戻す。

玲緒奈は、また資料を開いた。

窓の外。

広大な敷地に、名もなき影たちが、今日も訓練のために走り回っている。

武蔵野庭園学園の生徒たちの運命が、紅茶の香り漂う一室で決定された。

玲緒奈が飲み干した紅茶は、流れる血のように赤かった。

三週間後、武蔵野の空に、転移門が開く。

読みに来てくれてありがとう!!

次回、3話:嵐の前の静けさ です!5月20日 12時更新予定です!

しばらくは毎日投稿予定ですっ!

感想、ブクマ、評価などいただけると、更新のエネルギー(生贄コスト)になります! よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
心を抉られるような救いのないお話、大好きですので だんだんと不穏になっていく空気感に引き込まれます(^^) 上下関係が徹底された力で押さえ付けた独裁的な組織なのかと思いきや… 「全員が同じ方向を向い…
玲緒奈絶対俺のタイプだわ好きです付き合ってください
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