2話:捕食者たちのお茶会
配属式典が終わった。
「——はぁ」
遠征軍第一軍団長・不知火舞花が、盛大にため息をついた。椅子に深く沈み込んで、天井を仰ぐ。
「つかれたぁ」
「お疲れ様でした」
教育局長・日向温が、にこにこしながら紅茶を注いだ。湯気が、ふわりと立ち上る。
生徒会の応接室は、さっきまでの会議室とは打って変わって、柔らかい空気が漂っていた。ソファに役員たちが思い思いに座って、テーブルの上には紅茶とケーキが並んでいる。
「今年も無事に終わりましたね」
第一副会長・西園寺椿が、カップを手に取りながら言った。
「突撃隊の子たちも大喜びで。良かったです」
「あの子たち、毎年テンション高いよね」
舞花が笑う。
「新しい妹が増えるのが嬉しいんでしょう」
温が目を細めた。
「楽しみにしてたみたいで。昨日から落ち着かなかったって」
会長・神楽坂玲緒奈は、ソファの端に脚を組んで座っていた。片手に紅茶、もう片手にケーキの皿。機嫌が良さそうだった。
「今年の新入生は、どんな子たちだった?」
「素質がある子が多かったですよ」
温が嬉しそうに答える。
「特に一人、目を引く子がいて。きっと良い子になると思います」
「楽しみね」
玲緒奈はケーキをひとつ口に入れた。
部屋の端では、戦略情報局長・如月零が相変わらず端末を見ていた。お茶会の空気に一切馴染む気がないらしい。
「零、少しくらい休んだら?」
舞花が言うと、零は視線を上げることなく答えた。
「南の連合、武蔵野の動向が気になるので」
「仕事熱心だねえ」
「仕事ですから」
「ねえ」
舞花が身を乗り出した。ホログラムマップを指差す。
「武蔵野って、武蔵野庭園学園?めちゃくちゃきれいなカフェテリアがあるとこじゃん!せっかくだしここ行こうよ!」
「ちょうどいいですね」
椿が静かに頷いた。
「制圧したら使えますよね」
「使えるねぇ」
玲緒奈が紅茶を一口飲んだ。
労働局長・五十嵐結衣がケーキの皿を引き寄せながら言った。
「武蔵野といえば、そろそろ三ヶ月ですね。同盟結成から」
「あら」
宣伝局長・夢咲ららが目を輝かせた。
「それって、強制破棄ができる時期じゃないですか」
「あと二十日ほど」
結衣が答える。
「その直前に仕掛ければ——」
零が端末を操作する。
「武蔵野庭園学園の生徒会長は清川撫子。理想主義者です。我々の支配を非人道的と批判し、弱小な小学園を束ねている。同盟結成から二ヶ月と十日」
「素敵なタイミングですね」
内務局長・白鳥詩織が、クスクスと笑った。
「同盟の強制破棄がシステム上可能になる三ヶ月目まで、あと二十日。その直前に宣戦布告を行い、即日盟主である武蔵野を潰せば——彼女たちは恐怖からすぐに結束力を失うでしょう。裏切りを誘発させるには最高のスパイスになります」
「コストが出ました」
結衣が電卓を叩く。
「敵の総生徒数は留学生も含めておよそ二万名。制圧時の推定損耗率を考慮しても、捕虜として約八千名の確保が見込めます。今年度の蘇生コスト枯渇分を補填して、あまりある黒字です。経済的観点から侵攻を推薦します」
「八千人かぁ」
ららが頬に手を当てた。
「収容が大変ですけど——でも『圧政に苦しむ小学園の生徒たちを悪の同盟から解放する聖戦』って宣伝すれば、うちの生徒たちの士気も上がりますね。アイドルライブも同時開催しちゃいましょうか!」
「——待ってください」
静かな声が、部屋に響いた。
司法局長・九条院紗夜が、カップをソーサーに置いた。不快そうに眉をひそめている。
「武蔵野庭園学園は、中立を保とうとしている学園です。向こうからの挑発行為もないのに、一方的に宣戦布告を行うのは——学園陶冶競争法の理念から逸脱していませんか」
場がしらけた。
舞花が「あーあ」と露骨にため息をつく。零は無関心に紅茶を啜った。
防軍司令・桐生鋼は何も言わなかった。ただ腕を組んで、目を閉じていた。
玲緒奈が、ゆっくりと紗夜の方を向いた。
「紗夜は真面目ね」
立ち上がって、ホログラムマップに近づく。武蔵野の光点を、指先でそっと触れた。
「優秀な教育とは、強さよ。弱者が徒党を組んで身を守ろうとするのは、教育の停滞——いいえ、腐敗だわ」
くるりと振り返る。蕩けるような笑みで、全員を見渡した。
「掃除してあげるのが慈悲というものじゃない?」
紗夜は唇を噛む。彼女がそういう考えなのならば、それ以上は何も言えない。
「決まりね」
玲緒奈が宣言する。
「ターゲットは武蔵野庭園学園およびその同盟傘下三十校。作戦名は——」
少し考えるような間があった。
「"サクラチル"で行きましょう」
「開戦は三週間後。舞花、ほむら、準備はいい?」
「もっちろん!」
舞花が飛び上がるように立ち上がった。
「最高に派手にやろう!ね、ほむら!」
第二副会長兼遠征軍第二軍団長・一ノ瀬ほむらが静かに答えた。
「鋼に留守を頼んでおかないとな」
「零は突撃隊を先行させて。逃げ場を塞いで、内部から崩してちょうだい」
「了解です」
「結衣は魂抽出装置のメンテナンスを。今回は大量よ」
「了解しました。フル稼働させます」
結衣が眼鏡を押し上げながら言った。
「楽しみですね」
こうして、武蔵野庭園学園の生徒、1万8千人の少女たちの運命が、紅茶の香り漂う一室で決定された。
玲緒奈が飲み干した紅茶は、まるで流れる血のように赤い。
三週間後、武蔵野の空に、転移門が開く。
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次回、3話:嵐の前の静けさ です!5月20日 12時更新予定です!
しばらくは毎日投稿予定ですっ!
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