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オトシゲ:乙女は資源になりました。~男性絶滅後のディストピアで、学園侵略しちゃいます~  作者: 428の968
第一章:関東圏統一戦争

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10話:血路を開け

第七転移門ホールに駆け込んだ瞬間、目に飛び込んできたのは——百人ほどの生徒たちだった。

壁際に身を寄せ合って震えている子。床にへたり込んで泣いている子。転移門の前で立ち尽くしている子。

戦闘音を聞いて逃げてきたのだ。でも、誰も転移門をくぐれていない。


「……あ、副会長!?」


声を上げたのは、転移門の前を固めていた防衛部隊の少女だった。驚きながらも即座に敬礼する。目が血走っていた。


「一体外で何が! 上層部と連絡が取れなくて……学園全体が沈黙していて——」

「説明はあとよ」


息を整えながら言った。後ろから、学生寮で拾った新入生たちがよろよろと入ってくる。


「すぐに敵がここを破壊しに来るわ。なぜ門を起動していないの」

「それが——宣戦布告直後に、防衛本部から『ゲートを封鎖して死守せよ』との命令が……」


彼女の声が揺れる。


「緊急時に避難路を塞ぐなんて……でも、本部からの正式な命令で私たちには覆す権限が——」

「封鎖して死守?」


まさかそんなはずが。


「緊急時にそんな命令が出るはずがない」

「ですが、確かに——」

「通信施設を制圧されてるわ。敵が偽の命令を流したのよ。避難路を塞いで学生を囲い込むために」


一瞬だけ目を閉じた。


「急いで。今すぐ封鎖を解除して」


防衛部隊の少女たちが、顔を見合わせた。

一瞬の沈黙。

それから、弾かれたように動き出した。


「埼玉第三小学園に繋ぐわ」


操作パネルに向かった。昨日まであそこにいた。座標は分かる。

指を走らせる。

転移門が、起動し始めた。


「動いた——!」


ホールにいた生徒たちがどよめいた。泣き崩れる子がいた。何かに祈るように手を組む子がいた。


「急いで入って! 一人ずつ! 早く!」


生徒たちが転移門に殺到し始めた。

その時。


——ガチャンッ!


頭上の天井から、重い防音扉が蹴り破られる音が響いた。

動きが一瞬止まる。


「見っけー! 最後の出口だ!」


天井越しに聞こえてきたのは、明るくて軽い声だった。

奴らだ。


「あはは! 爆発するよー! 壊れるよー!」


突撃隊の少女たちが、ピンを抜いた爆薬を抱えて部屋へなだれ込んできた。


「伏せろおおおッ!!」


防衛部隊の少女たちが、迷いなく飛びかかった。自爆装置を身に纏った少女たちの体に、力任せに覆いかぶさる。


ドォォォォン!!


鈍い衝撃。防衛部隊の少女たちが、肉の壁として爆発を受け止めた。

でも、その隙間から、慣れた手つきで少女が転移装置に向けて爆弾を投げつける。


ドォン!


装置のケーブルが爆風ではじけ飛ぶ。


「間に合わない——っ!」


装置が火花を散らした。転移門が閉じかけている。

まだ残ってる子がいる。入れていな子がいる。


「行って! 副会長!!」


防衛部隊の少女が、私の背中を力いっぱい突き飛ばした。


「嫌! あなたたちは!?」

「いいから! 生きて、同盟に繋いで!」


光の渦に押し込まれながら、門に入れなかった後輩たちの声を聞いた。


「見捨てないでぇ……っ! 楓さん、お願い、行かないでぇぇぇっ!!」


悲鳴が、悪魔たちの笑い声にかき消された。


「あはは! 仲良しさんだねぇ、じゃあ一緒に幸せになろうね!」

「いやぁぁぁぁぁっ! 離してっ!!」


限界を迎えた転移装置が暴走し、空間を繋ぐゲートが急速に収縮を始めた。

少女の体は、光の枠外に弾き出されていた。だが、背中を押したその右腕だけが、まだ転移の有効範囲に残っていた。

空間が、閉じる。


——ブツンッ。


刃物で切られたのではない。空間の断層によって物理的に削ぎ落とされるような、生々しい音。

視界が、光の渦に覆われた。


——ドォォォォォン!!


装置が誘爆し、ホールが炎に包まれる。

視界は、猛烈な衝撃と共に闇へと叩き落とされた。




次の瞬間、冷たい床の上で血を吐き出していた。

背後で、轟音と共に何かが完全に沈黙した。

もう誰も来ない。

道は完全に閉ざされた。


「……あ、あ……」


横を見ると、大理石の床の上に、「一本の腕」があった。

五本の指はまだ何かを掴もうとするようにピクリと動いて、手首の断面部からは鮮血が噴き出していた。

さっき、背中を押してくれた少女の腕。

悲鳴も上げられず、その真っ白な腕を見つめた。

しばらく動けなかった。

床に手をついて、冷たい大理石の感触だけを感じていた。

周りで、生徒たちが泣いていた。呆然としている子がいた。膝をついて震えている子もいる。

誰かが肩に触れた。


「副会長、血が——」

「大丈夫。私の血じゃない」


ゆっくりと立ち上がった。

腕を見ないようにした。


「責任者を呼んで」


声が、思ったより落ち着いていた。


「武蔵野庭園学園は陥落したわ。同盟全体に警告を出さないといけない」





埼玉第三小学園の会議室は、混乱していた。

会長の原田(はらだ)静香(しずか)が、血の気の引いた顔で資料をめくっている。副会長たちが声を荒げて言い争っている。通信担当の子が、端末を叩きながら「繋がらない、繋がらない」と半狂乱で繰り返していた。

その中心に、座っていた。


「——つまり、武蔵野は完全に」


静香が、絞り出すように言った。


「はい」


答えた。


「役員棟は完全に制圧されました。蘇生プラントは開戦と同時に爆破されています。転移門も、私たちが抜けたものを最後に全て破壊されました」


会議室が、静まり返った。


「そんな……わずか数十分で……」


副会長の一人が、かすれた声で言った。


「開戦からわずか数十分で、我々は盟主を失ったということですか」


誰も何も言えなかった。

三十一校を束ねる巨大な学園同盟は、たった一瞬で頭を潰されたのだ。


「まだ連絡が取れているところがあるなら、今すぐ状況を伝えてください。霞学園は次を狙ってくる。早ければ今日中にでも」

「で、でも——」


静香がこちらを見た。

その目に、明らかな怯えがあった。


「霞学園から……実は昨日、使者が来ていたんです」

「使者?」

「降伏すれば、穏やかな統治を約束すると。戦わなければ、生徒たちは守られると」


静香を見た。

静香はサッと視線を逸らした。


「……静香会長」


「武蔵野の防衛部隊の子たちが、私のために死にました。転移門を守るために、自分から爆発に飛び込んだ子がいました」


部屋の空気が少し変わった気がした。


「霞学園の『穏やかな統治』が何を意味するか、私たちは知っています。奴隷か資源になる。それだけです」


静香の手が、資料の上で止まった。指先が、小さく震えている。


「私は戦います」


立ち上がった。


「一人になっても戦います。でも、もしも一緒に戦ってくれる人がいるなら、力を貸してください」


会議室がまた静まり返った。

静香は俯いたまま、書類の端をきつく握りしめた。

長い沈黙があり、やがて静香がゆっくりと顔を上げた。


「……分かりました。全同盟学園に緊急連絡を。武蔵野庭園学園陥落。同盟は継続する。各学園は戦闘準備を」


通信担当の子が、弾かれたように端末に向かった。

窓の外を見た。

空はまだ青い。

武蔵野の庭園も、最初はこんな空の下にあった。

まだ終わりじゃない。

撫子会長が守ろうとしていたものを、自分が続ける。



静香はその間一度も、こちらを見なかった。

次回11話:英雄たちの帰還 です

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