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オトシゲ:乙女は資源になりました。~男性絶滅後のディストピアで、学園侵略しちゃいます~  作者: 428の968
第一章:関東圏統一戦争

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11話:英雄たちの帰還

【東京霞学園 突撃隊専用蘇生ポッド】


「——んっ、ふぁ……♡」


桃色の粘液に満たされたカプセルの中で、少女が目を開けた。

粘液は体温より少しだけ高く、羊水のようにとろりと重い。髪の毛一本一本にまとわりつき、まつ毛の先まで薄いピンクに染まっている。甘い匂いがした。花とも果物とも言い切れない、人工的だけどどこか懐かしい匂い。

先ほど武蔵野の転移門を破壊するため、自爆したメーテル突撃隊員だ。

蘇生プロセスが完了し、カプセルのハッチが開く。冷たい空気が、粘液に濡れた肌に触れた。産声の代わりに、少女は小さく息を吸い込んだ。肺の隅まで空気が満ちていく感覚。新品の体が、世界を受け取り始める。

そこには、温かいタオルと甘いキャンディを持った上級生たちが、慈母のような微笑みで待っていた。


「おかえりなさい。痛かったでしょう?」


タオルが肩に触れた瞬間、少女の目がとろりと細くなった。


「ううん……気持ちよかったぁ」


頬が紅潮している。粘液の名残か、それとも別の何かか。少女はタオルに顔を埋めた。柔らかい。温かい。

死の苦痛は一瞬。その後に訪れるのは、この世のものとは思えない快楽と安らぎ、そして『よく頑張ったね』という絶対的な肯定だ。


「えらかったわね。貴女の自爆のおかげで、作戦は大成功よ」

「ほんとぉ? 零様に褒めてもらえる?」

「ええ。貴女は英雄よ。零様もお褒めになるわ。」

「わぁい! また死にたい! 次も一番に死ぬもん!」


死ねば死ぬほど気持ちよく、死ねば死ぬほど褒められる。この『幸せな死への依存』こそが、玲緒奈の親衛隊であるメーテル突撃隊が恐れを知らず、笑顔で死ぬことができる洗脳の正体。


「あ、そういえば」


タオルで髪を拭きながら少女がぽつりと言った。


「武蔵野で見つけた時計、一緒に吹き飛んじゃった」

「あらあら」


上級生が笑った。


「かわいかったのに」


少女は、ほんの一瞬だけ少し残念そうに唇を尖らせた。


「まあいいや。また探そっと!」


それだけ言って少女はキャンディを口に放り込んだ。




【東京霞学園 戦略情報局SID 作戦報告室】


「報告しますっ!」


メーテル突撃隊、潜入工作員部隊のリーダーの少女が、端末を操作しながら報告を始めた。

蘇生プラントから戻ってきたばかりで、頬がまだ薄く紅潮している。


「蘇生プラント、爆破完了。転移ビーコンの隠蔽設置に成功。役員棟制圧支援まで全て完了。そして——」


少女は得意げに胸を張った。


「第七転移門も、ちゃんと吹き飛ばせました! 数人逃しちゃったのはごめんなさいだけど、ちゃんとやりましたよ零お姉様!」

「うんうん! 最後はビリだったけど、ちゃんとやり遂げたもんね!」


仲間の少女たちが口々に言う。


「でも全部終わったから! 褒めて!」


部屋の端に立っていた如月(きさらぎ)(れい)は、無表情のまま頷いた。


「潜入任務、よく頑張りましたね。」

「やったー!」


少女たちがはしゃいだ。誰かが誰かの肩を叩く音。さっきまでの無機質な駆動音が、遠くなった気がした。


零は端末に視線を落とした。全転移門の破壊完了。蘇生プラント爆破。強襲部隊による本部棟の掃討。現時点で捕虜九千三百名余。素晴らしい戦果だ。今作戦は成功と言っていいだろう。


「局長」


ドアが開いた。

戦略情報局(SID)員が入ってきた。手に端末を持っている。


「全ての転移門のブラックボックス解析が終わりました。こちらは転移門のログデータになります」

「置いていって」

「はい」


局員が端末を置いて出ていった。突撃隊の子たちはまだ賑やかに喋っている。


ログを開く。

転移件数。タイムスタンプ。座標データ。画面を指でスクロールする。数字、数字、数字の羅列。数字の——

——転移履歴

そこで零の指が、止まった。


「……」

「零お姉様? どうしたんですか?」


突撃隊の少女が、零の顔を覗き込んだ。いつも白い零の顔がさらに白くなっていた。血の気が引く、というよりも、もともとなかった色が、さらに薄くなったように見えた。


「零お姉様?」


返事はない。

零はログをもう一度見た。

第七転移門の破壊完了時刻。

その時間帯、最後に記録されたその転移ログには。


転移者:田村(たむら)(かえで)

転移先——埼玉第三小学園。


「……」


突撃隊の子たちが黙った。

零の顔を見て、何かを察したのだ。

零は静かに口を開いた。


「……副会長に、逃げられた」


声はいつも通り平坦だ。

だが、突撃隊の少女が、顔を青くした。


「え……でも、第七は吹き飛ばしました。ちゃんと——」

「間に合わなかった」

「作戦遅延の間に武蔵野の副会長と数人の学生を連れて転移した。現在、埼玉第三小学園にいる可能性が高い。ただし——」


零は窓の外を見た。


「現時点では、所在の確認が取れていない」


突撃隊のリーダー格の少女が、震える声で言った。


「……ご、ごめんなさい。私たちが遅れたせいで——」


「貴女たちのせいではありません。作戦計画が不十分だった。 私の失態です」


部屋が静まり返る。

零は端末を閉じた。

次回、12話:「凱旋できぬ者」です。

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