第25話 エーレントの花嫁 キズモノはお断り
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ジュ…
ジュ…
ゆっくりと押し出され、
私が喉を鳴らすたび、
シリウスの唇から流れ込んでくるカクテル。
身も心もカクテルと共に溶けていく
「リヒトさん…お味はいかがですか…?」
もう、夢の中
「もっと…」
ジュ…
ジュ…
「シリウス…おいしい…」
ジュ…
ジュ…
口の端から、カクテルが一筋流れ落ちる。
シリウスは、それを舐めとると、
急に私を膝に座らせ、
熱っぽい瞳で見つめる。
「リヒトさん…結婚しましょう…
なるべく早く…」
「え…?」
「僕は大王だ…婚約一つでも、やることが多い…
結婚となると…もっと…
本当は、そんな儀式要らない…
貴女と丘にでも登って…
一番星の下で神に誓えれば十分だ…」
「シリウス…?」
「…ごめんなさい…僕のダメなところだ…
せっかく婚約できたのに、結婚なんて…
足るを知らないんだ…」
シリウスは、私の胸元に顔を埋めた。
絹糸のような美しい銀髪が、私の顔を包む。
私は、シリウスの頭を、腕一杯抱き締めた。
「それ、すごく素敵だね…!
一番星の下で誓うって…!」
シリウスは驚いたように顔を上げて、私を見つめた。
「婚約したばかりなのに…
って言わないんですか?」
「シリウスが幸せなら、なんでもいいわ…」
シリウスの顔一面に、切ない笑顔が広がった。
「リヒトさん…!」
シリウスは、もう一度私の胸元に顔を埋めた。
しかし、今度は激しく、口づけの雨を降らせる。
シリウスはじっとりと汗を滲ませ、
喘ぎながらささやいた。
「貴女を、抱いても、いいですか。」
私はシリウスを見つめ…
*********
そのとき、左手の薬指に激痛が走った。
悲鳴を上げて、左手を抱え込む。
その瞬間…
風が巻き起こり、
地鳴りを上げて黒い巨大な渦が出現した。
「いけねェなァ…シリウス様?」
白い髪がゆっくりと見え始める。
「アンタを殺せば、俺が、この子を伴侶に出来る…って約束じゃねェの?
まさか、キズモノを渡すつもりか?」
「約束などしていない!」
シリウスが叫ぶ。
「アハハハ!!!うまいねェ!!!」
黒い渦から浮かび上がってきた姿…
「ユ、ユーリ様!!!」
もうユーリ様ではないと分かっていても、思わず叫ぶ。
シリウスは「神路開放…」と集中しながら、私を庇う。
「哀れなユーリは月に帰った…
オスカー先生に捨てられたと思い込んだまま…」
エーレントは、太陽のような輝く瞳で、真っすぐに私を見つめる。
「俺は、エーレント。
ま、とりあえず…」
私は、エーレントから目が離せない。
「助かってよかったじゃねェか…
…リヒト。」
*******
何かをシリウスが叫んでいる。
が、よく聞こえない。
エーレントは、私を見つめ、自分の左手の薬指を私に伸ばす。
私は立ち上がって、左手を伸ばすと、エーレントに向かって歩き始めた。
シリウスが引き留めようとするが、なぜか、私には届かないようだ。
引き止めないで欲しい。
私は、あちらに行かなくてはならない。
…後ろで、誰か暴れている?
誰?
それは、もうどうでもいい。
私が慈しむべき人は、あちらにいる。
私は、あちらに行きたいのだ。
後ろには誰もいないし、
私は、あちらに行きたいのだ。
*********************
僕は、必死に呼び掛ける。
「リヒトさん!!!
リヒトさん!!!!!」
膝から崩れ落ちたリヒトさんを、エーレントは滑らかに抱き寄せる。
リヒトさんは、人形のようになって、エーレントの腕の中で動かない。
「貴様、エーレント――――!!!!!!!
リヒトさんに何をした!!!!!!!」
僕の身体から青い光が流れ出す。
「秘儀を授けたときに、この子と婚約しておいた。」
「なんだと…?リヒトさんは、僕と…」
「この子の左手の薬指に、婚約の証がある。」
エーレントは、リヒトさんと自分の左手のひらを僕に見せる。
…火傷のような跡?
「ああ、もう俺たち絶滅してるから、知らねェよな。
猫族は婚約のとき、左手の薬指を十字に合わせて、中心を火で焙るんだ。
その跡は、二つで一つ。
必ず、ピタリと合う。」
僕は、あの時、皮膚が焼けるような匂いがしたことを思い出した。
「アンタたちの血の誓約と似ているかな。
【火の誓約】…絶対に破られない誓いだ。」
「き、貴様…!!リヒトさんが瀕死のときに、卑怯な…!!!」
「アンタも同じじゃねェか。」
「何が同じだ!!!勝手な約束を並べて…!!!」
「少なくとも…」
エーレントはリヒトさんの顎を掴んで引き寄せる。
リヒトさんは虚ろな目をエーレントに向ける。
「客観的には、この子は、俺の婚約者だ。
アンタの婚約は、無効だ。」
「エーレント……!!!」
「アンタ、知らねェの?
神鼠と猫族は、決して一緒にいられない運命だよ?」
「そんなこと知っている!!!」
「粘膜だよ。」
「は?」
「猫族の粘膜と神鼠の粘膜は触れ合うことができない。」
「…!?」
「神鼠と猫族を交わらせない…
神の意思はここまで固いわけだ。」
******
僕は、激しい怒りの中で、必死に考えていた。
僕が神通力を発動しても、エーレントには効かない。
しかし、体技は効く。
元のエーレントの強さはともかく、ユーリの身体だから、
油断をしなければ僕が上回るだろう。
とはいえ、エーレントは黒い渦に半分入っているから、
下手に動くと、リヒトさんと一緒に消えてしまう。
失敗したらリヒトさんを傷つける…
エーレントを…油断させるんだ!!!
*****
「…それは、どういう意味だ?
リヒトさんと僕は口づけしても無事だ!」
「ハッハッハッハッ!!!く、口づけ!!!」
エーレントは本気で笑い出した。
「見せてやろうか?粘膜の触れ合いってヤツ…」
「適当なことを言っているな?やれるなら、見せてみろ!!!」
エーレントはニヤリとすると、リヒトさんに、
「口を開けて」とささやく。
僕は、「なんだ?」と驚いたふりをする。
エーレントはチラリと僕を見ると、リヒトさんの口に、その舌を差し入れてキスをし始めた。
*******
その瞬間、僕は酒瓶を引っ掴むと同時に飛び上がり、エーレントの頭に、
渾身の力を込めて、叩き落した。
ガァッッ!!!!!
エーレントが倒れると同時に、黒い渦が収縮していく。
僕は、血が噴き出るエーレントの首を締め上げる。
「今は、お前を殺さない。意味は分かるな。
ただ、帰れ!!!」
血まみれのエーレントは、全く動じず、
太陽のような瞳で僕をじっと見ている。
「おい、いいか?
火の誓約を破ろうとすれば、俺はまた来る。
忘れんなよ…」
と呟き、とうとう気を失った。
僕が、収縮する黒い渦にエーレントを叩き込むと…
割れた酒瓶以外…
部屋は元通りになり…
リヒトさんは、ちゃんと、部屋の中で倒れていた。
十二支と神鼠は猫に「こい」
第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/
第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/
第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/
第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/
カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067




