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第26話(第Ⅳ章最終話) 窮鼠と窮猫は運命を噛む

次の章執筆のため大幅修正ver.


物語の登場人物・世界の【総まとめ】はこちらの短編を:

https://ncode.syosetu.com/n3739lz/

挿絵(By みてみん)


「リヒトさん!!!」


僕はリヒトさんを抱き起こした。


「リヒトさん!!!分かりますか!?」


リヒトさんの夕日色の目の焦点が合ってくる。


「良かった!リヒトさん!!!」


次の瞬間、ビンタが飛んで来た。


「良かった、じゃないわよ!!!!!!」


完全に焦点が合ったリヒトさんの瞳から、涙が溢れ出した。


「何も良くない!!!わ、私は…

エーレントと婚約してるんだよ!!!」


「リヒトさん、記憶があるの!?」


「あるわよ!!!何よ!!!わ、私は…」


か細い腕で、精一杯、僕の身体を殴る。


「今日…今日…シリウスと婚約したんじゃないの?」


僕の胸に錐が打ち込まれる。

僕は、リヒトさんの肩を掴んだ。


「僕は、リヒトさんの婚約者です!

リヒトさんは、僕の婚約者です!!

エーレントなんか関係ない!!!」


「…これ…ただの火傷だって…思ってた…

燭台で合図するときに、できたのかなって…


名誉の傷跡だなって…思ってた…」


リヒトさんはガクガク震えながら、自分の左手を見た。


「エーレントとの婚約の証だなんて…そんな…」


…僕は、こんなときどうすればいいか、

もう知っている。


僕は、リヒトさんを、黙ってギュッと抱き締めた。


そして、モジャモジャの黒髪をかき分けると、

うなじの刻印に口づけした。


彼女が猫族(フェリス)の継承者であることを示すこの因縁の刻印に、

僕はしばらく、口をつけていた。


リヒトさんは…黙って僕の腕をギュッと抱えている。


僕は知っている。

絶望の中で、彼女が、必死に心を整理していることを。


僕は少し体勢を変えると、彼女をギュッとしながら、

僕の額の…

僕が神鼠であることを示す刻印と、

リヒトさんのうなじの刻印をピタリと合わせた。


急に、フフフ…という笑いの振動が、

リヒトさんのうなじから直接伝わる。


「神鼠と猫族は一緒にいられない運命?


粘膜を触れ合えない運命…?


何それ…

今、シリウスと私はギュッとして、

神鼠と猫族の刻印をピッタリつけてるのに。」


「ええ…変な話ですね…」


僕は額を離さない。


「シリウスと私が、エーレントと私の火の誓約に反することをしたら…

そ…そういうことをしようとしたら、

この誓約痕が反応して、エーレントを呼ぶんだね…?」


「そうみたいですね…

でも、エーレントは、積極的に貴女を連れて行こうとしていない。

エーレントの計画は、やはり、まだ道半ばですね。」


「エーレントも釘を刺しに来ただけなら、さっさと帰ればいいのに…

シリウスを挑発するから、大怪我するのよ。」


「ああ、僕、手加減が苦手です。

本気を出さないでも強いので…」


僕が困って言うと、リヒトさんがフフフとまた笑う。


「体技学院で、神通力なしの百対一で勝ったって聞いたけど…」


「誰ですか、それ言ったのは…

…まあ、そんなこともありましたね。

腹が立ったので。」


「腹が立った?」


「僕が成績がいいのは、神通力と地位があるからだと。」


「フフフ、でも、結構言われがちな悪口じゃない?」


「それくらいの悪口じゃビクともしませんが…


野蛮で臭い猫族がいる時代じゃなくて良かったですね、

と言われたので、プツンと…」


「エェ?」


猫族(フェリス)を悪く言うな、野蛮で臭いのはお前だ。

黙らせてやるから、百人集めてかかってこい、と。」


「アッハハハハハハ!!!」


リヒトさんはお腹を抱えて笑い始めた。

自然と、額とうなじが離れ、僕たちは向き合った。


「おかしいですか?」


「おかしいんじゃなくて…」


リヒトさんは、夕日色の瞳で僕をじっと見つめた。


「最高にかっこいいの。見たかったなァ…」


「見るほどじゃありませんよ。

弱い百人が集まったところで、大したことありませんから。」


急にリヒトさんが僕に抱きついて、震える声で言う。


「負けたくない。

強い百人が集まって来ても…」


僕は、彼女をギュッと抱き締めた。


「僕たち二人なら、強い百人が集まっても、負けない。


…それが、独立派でも、

ロベルトでも、

エーレントでも、

テレシウスでも…」


「神鼠でも、

猫族でも、

大王でも、

お姫様じゃなくても…」


僕たちは、同時にフッと笑って、顔を見合わせた。


「誘拐されても、

虐待されても、

リヒトさんへの欲望に弱くても…」


「嫁に行けない頭でっかちで、

貧相な身体で、

胸が小さくても…」


「賢く聡明で、

ほっそりとしなやかで、

おいしそうな胸…でしょう?」


「君、どこで培ったの?その口の上手さは…

それ以上は聞かない!」


リヒトさんはプリプリしながら、話を戻した。


「毒を盛られてから、3週間くらい…

調査が遅れてしまったけど、

寝ながら色々考えて、頭が整理されたこともある。


明日から、本格的に調査を再開するわ!」


「無理しないで、リヒトさ…」


「コラ!」


またもプリプリする。


こういうときのリヒトさんは、ハツラツとしていて

…たまらなく可愛い。


「今動かなくてどうするの!!!

今が、反撃のとき!!!でしょ!!!」


「…リヒトさんの言うとおりだ。」


僕は、リヒトさんをじっと見た。


「窮地に立たされている鼠と猫、

今こそ、共闘しましょう。」


リヒトさんも、煌めく夕日色の瞳で、僕の目をじっと見る。


「大王様、調査官リヒトの方は、証拠が出そろって参りました。」


僕もリヒトさんを見つめて、頷く。


「僕が担当する独立運動の調査はあと少しだ。

判明次第伝える。

お前の方は、現在の全ての状況を踏まえた報告書を作成しろ。

仮説を入れてもよい。」


リヒトさんはパッと笑って立ち上がった。


「大王様!

とりあえず、今から、緊急会議をしましょう!

リヒト酒場に、お酒をたくさん用意しております…


が、バーテンダーはシリウスです!!!」


僕は思わず吹き出した。


***********


逃げても逃げても、

追いかけてくる、

僕たちの運命


逃げ切ったと信じては、さらに追い詰められ、

目を逸らせば、覗き込まれ、


もう僕たちに

逃げ場はない


運命に追い詰められた僕たちは、

徹底的な窮地にいる、

窮鼠と窮描


こうなったら、全力で、

運命に噛みつくしか、

生き残るすべはない


もう、お互い殺し合っている場合じゃない。


**********


それから僕たちは、時に真面目に、時に笑い、

時に刻印を触れ合わせ、

手を繋ぎ、

ギュッと抱き締め合い、


飲んで、

語らった。


そこにあるのは、「恋」だけじゃない。


信頼、

友情、

共感、

決意、

覚悟、

親愛、

愛おしさ、

愛おしさ、

愛おしさ…


僕たちは追い詰められるだけ追い詰められた。


もう、この運命に嚙みついて、


新しい運命を切り開くしかない!!!!!!!!


********


僕たちの婚約を祝う、大神殿の賑わいも静まった夜更け、

僕は、リヒトさんの部屋を出る。


「おやすみなさい、僕の婚約者さん。」


パッと赤くなったリヒトさんだったが、

ふと僕の後ろに目をやった。

リヒトさん付きが近付いてきたのだ。


「お嬢様…ネグリジェは…?」


「あ、皆さんがお酒を準備してくれたので、

【リヒト酒場】を開いたんです!」


『さか…ば?』


「二人でいっぱい飲みました。

へへ…結構酔いました。」


「アァァァァ――――――――――ッッッ」


リヒトさん付きと、

遠くにいる大王付きが、同時に叫んで倒れ込む。


「おい!ヤン!!どこだ!?

明日の『後朝(きぬぎぬ)』モーニングだがな、

【秋のもぎたてリンゴ☆もぎたてリヒト様と共に】を考えたんだ…」


料理長ファリアが来て遠くで叫んでいる。


「おい!ヤン!どうした!?ヤン!

まさか…また、シリウス様はトマホークを打ち込めなかったのか!?

おい!答えろ!!!

ヤ―――ン!!!」


この騒ぎを見て呆気にとられているリヒトさん。


僕は、その愛おしい額に、

心を込めて、

「おやすみなさい」の口づけをしたのだった。


(第Ⅳ章 完結)

次章(第Ⅴ章 怨霊の猫エーレントと独立運動) 投稿開始しました

https://ncode.syosetu.com/n4924ma/


十二支と神鼠は猫に「こい」


第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/

第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/

第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/

第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/


カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067


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