第26話(第Ⅳ章最終話) 窮鼠と窮猫は運命を噛む
次の章執筆のため大幅修正ver.
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「リヒトさん!!!」
僕はリヒトさんを抱き起こした。
「リヒトさん!!!分かりますか!?」
リヒトさんの夕日色の目の焦点が合ってくる。
「良かった!リヒトさん!!!」
次の瞬間、ビンタが飛んで来た。
「良かった、じゃないわよ!!!!!!」
完全に焦点が合ったリヒトさんの瞳から、涙が溢れ出した。
「何も良くない!!!わ、私は…
エーレントと婚約してるんだよ!!!」
「リヒトさん、記憶があるの!?」
「あるわよ!!!何よ!!!わ、私は…」
か細い腕で、精一杯、僕の身体を殴る。
「今日…今日…シリウスと婚約したんじゃないの?」
僕の胸に錐が打ち込まれる。
僕は、リヒトさんの肩を掴んだ。
「僕は、リヒトさんの婚約者です!
リヒトさんは、僕の婚約者です!!
エーレントなんか関係ない!!!」
「…これ…ただの火傷だって…思ってた…
燭台で合図するときに、できたのかなって…
名誉の傷跡だなって…思ってた…」
リヒトさんはガクガク震えながら、自分の左手を見た。
「エーレントとの婚約の証だなんて…そんな…」
…僕は、こんなときどうすればいいか、
もう知っている。
僕は、リヒトさんを、黙ってギュッと抱き締めた。
そして、モジャモジャの黒髪をかき分けると、
うなじの刻印に口づけした。
彼女が猫族の継承者であることを示すこの因縁の刻印に、
僕はしばらく、口をつけていた。
リヒトさんは…黙って僕の腕をギュッと抱えている。
僕は知っている。
絶望の中で、彼女が、必死に心を整理していることを。
僕は少し体勢を変えると、彼女をギュッとしながら、
僕の額の…
僕が神鼠であることを示す刻印と、
リヒトさんのうなじの刻印をピタリと合わせた。
急に、フフフ…という笑いの振動が、
リヒトさんのうなじから直接伝わる。
「神鼠と猫族は一緒にいられない運命?
粘膜を触れ合えない運命…?
何それ…
今、シリウスと私はギュッとして、
神鼠と猫族の刻印をピッタリつけてるのに。」
「ええ…変な話ですね…」
僕は額を離さない。
「シリウスと私が、エーレントと私の火の誓約に反することをしたら…
そ…そういうことをしようとしたら、
この誓約痕が反応して、エーレントを呼ぶんだね…?」
「そうみたいですね…
でも、エーレントは、積極的に貴女を連れて行こうとしていない。
エーレントの計画は、やはり、まだ道半ばですね。」
「エーレントも釘を刺しに来ただけなら、さっさと帰ればいいのに…
シリウスを挑発するから、大怪我するのよ。」
「ああ、僕、手加減が苦手です。
本気を出さないでも強いので…」
僕が困って言うと、リヒトさんがフフフとまた笑う。
「体技学院で、神通力なしの百対一で勝ったって聞いたけど…」
「誰ですか、それ言ったのは…
…まあ、そんなこともありましたね。
腹が立ったので。」
「腹が立った?」
「僕が成績がいいのは、神通力と地位があるからだと。」
「フフフ、でも、結構言われがちな悪口じゃない?」
「それくらいの悪口じゃビクともしませんが…
野蛮で臭い猫族がいる時代じゃなくて良かったですね、
と言われたので、プツンと…」
「エェ?」
「猫族を悪く言うな、野蛮で臭いのはお前だ。
黙らせてやるから、百人集めてかかってこい、と。」
「アッハハハハハハ!!!」
リヒトさんはお腹を抱えて笑い始めた。
自然と、額とうなじが離れ、僕たちは向き合った。
「おかしいですか?」
「おかしいんじゃなくて…」
リヒトさんは、夕日色の瞳で僕をじっと見つめた。
「最高にかっこいいの。見たかったなァ…」
「見るほどじゃありませんよ。
弱い百人が集まったところで、大したことありませんから。」
急にリヒトさんが僕に抱きついて、震える声で言う。
「負けたくない。
強い百人が集まって来ても…」
僕は、彼女をギュッと抱き締めた。
「僕たち二人なら、強い百人が集まっても、負けない。
…それが、独立派でも、
ロベルトでも、
エーレントでも、
テレシウスでも…」
「神鼠でも、
猫族でも、
大王でも、
お姫様じゃなくても…」
僕たちは、同時にフッと笑って、顔を見合わせた。
「誘拐されても、
虐待されても、
リヒトさんへの欲望に弱くても…」
「嫁に行けない頭でっかちで、
貧相な身体で、
胸が小さくても…」
「賢く聡明で、
ほっそりとしなやかで、
おいしそうな胸…でしょう?」
「君、どこで培ったの?その口の上手さは…
それ以上は聞かない!」
リヒトさんはプリプリしながら、話を戻した。
「毒を盛られてから、3週間くらい…
調査が遅れてしまったけど、
寝ながら色々考えて、頭が整理されたこともある。
明日から、本格的に調査を再開するわ!」
「無理しないで、リヒトさ…」
「コラ!」
またもプリプリする。
こういうときのリヒトさんは、ハツラツとしていて
…たまらなく可愛い。
「今動かなくてどうするの!!!
今が、反撃のとき!!!でしょ!!!」
「…リヒトさんの言うとおりだ。」
僕は、リヒトさんをじっと見た。
「窮地に立たされている鼠と猫、
今こそ、共闘しましょう。」
リヒトさんも、煌めく夕日色の瞳で、僕の目をじっと見る。
「大王様、調査官リヒトの方は、証拠が出そろって参りました。」
僕もリヒトさんを見つめて、頷く。
「僕が担当する独立運動の調査はあと少しだ。
判明次第伝える。
お前の方は、現在の全ての状況を踏まえた報告書を作成しろ。
仮説を入れてもよい。」
リヒトさんはパッと笑って立ち上がった。
「大王様!
とりあえず、今から、緊急会議をしましょう!
リヒト酒場に、お酒をたくさん用意しております…
が、バーテンダーはシリウスです!!!」
僕は思わず吹き出した。
***********
逃げても逃げても、
追いかけてくる、
僕たちの運命
逃げ切ったと信じては、さらに追い詰められ、
目を逸らせば、覗き込まれ、
もう僕たちに
逃げ場はない
運命に追い詰められた僕たちは、
徹底的な窮地にいる、
窮鼠と窮描
こうなったら、全力で、
運命に噛みつくしか、
生き残るすべはない
もう、お互い殺し合っている場合じゃない。
**********
それから僕たちは、時に真面目に、時に笑い、
時に刻印を触れ合わせ、
手を繋ぎ、
ギュッと抱き締め合い、
飲んで、
語らった。
そこにあるのは、「恋」だけじゃない。
信頼、
友情、
共感、
決意、
覚悟、
親愛、
愛おしさ、
愛おしさ、
愛おしさ…
僕たちは追い詰められるだけ追い詰められた。
もう、この運命に嚙みついて、
新しい運命を切り開くしかない!!!!!!!!
********
僕たちの婚約を祝う、大神殿の賑わいも静まった夜更け、
僕は、リヒトさんの部屋を出る。
「おやすみなさい、僕の婚約者さん。」
パッと赤くなったリヒトさんだったが、
ふと僕の後ろに目をやった。
リヒトさん付きが近付いてきたのだ。
「お嬢様…ネグリジェは…?」
「あ、皆さんがお酒を準備してくれたので、
【リヒト酒場】を開いたんです!」
『さか…ば?』
「二人でいっぱい飲みました。
へへ…結構酔いました。」
「アァァァァ――――――――――ッッッ」
リヒトさん付きと、
遠くにいる大王付きが、同時に叫んで倒れ込む。
「おい!ヤン!!どこだ!?
明日の『後朝』モーニングだがな、
【秋のもぎたてリンゴ☆もぎたてリヒト様と共に】を考えたんだ…」
料理長ファリアが来て遠くで叫んでいる。
「おい!ヤン!どうした!?ヤン!
まさか…また、シリウス様はトマホークを打ち込めなかったのか!?
おい!答えろ!!!
ヤ―――ン!!!」
この騒ぎを見て呆気にとられているリヒトさん。
僕は、その愛おしい額に、
心を込めて、
「おやすみなさい」の口づけをしたのだった。
(第Ⅳ章 完結)
次章(第Ⅴ章 怨霊の猫エーレントと独立運動) 投稿開始しました
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第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/
第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/
カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067




