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第24話 貴女のためのカクテルだから 口移しでどうぞ

挿絵(By みてみん)



今日、シリウスと私は婚約した。


何も解決していないのに、

私たちは、婚約してしまった。


何も解決しないまま婚約したのに、

くすぐったいほど嬉しい。


嬉しくてくすぐったい。


早く、シリウスに、会いたい。


***********


今夜、私は酒場の女主人。


エデさんたちが、

「今夜はシリウス様と二人で乾杯ですね」と、

色々と準備してくれたのだが、

数々のお酒やグラスを見て、

「酒場の女主人」としてシリウスを迎えるのが楽しそうだ…と思いついたのだ。


早速ネグリジェを脱いで、

バカンティエで買ってもらったモスグリーンの服に着替える。


後は、お店の商品のように、

瓶やグラス、おつまみを並べて…


髪もいつもと違うようにまとめてみる。


私は、自分がずっと笑っていることに気付いて、

照れ臭くなった。


準備ができると、シリウスに燭台で合図をする。

シリウスからも返事が来る。


私が毒殺されそうになったあの日以降、

シリウスは、「おやすみなさい」を言いに、

わざわざ部屋まで来てくれる。


シリウスが「おやすみなさい」と言おうとしたら、

「いらっしゃいませ」

と言って…

…この【リヒト酒場】に案内したら、

きっと喜んでくれるはず。


それに、まだ、この服を着て見せていなかったし…


まだかな?

後10秒?


私は、レイチェルさんにもらった鼠のシータンを枕の下から出すと、

ツンとした鼻にキスした。


*******


トン トン トン トン トン


「リ・ヒ・ト・さ・ん」の意味です、と以前にシリウスが言っていた、

優しいノックが5回。


慌ててシータンを枕の下に入れると、

以前なら一飛びの距離を、

うまく動かない足をひきずって、扉を開ける…


「!!!!!!!!」


か…


…かっこいい…!!!!!


ゆったりとしたシルクのシャツの上に、

バーガンディが鮮やかなベルベットのガウンを羽織って、

スラリと立っている。


室内着のシリウスなど見たことがなかったし、

まさか室内着で来るとは思っていなかったし、

あまりにもハンサムなので、

完全に動揺して、用意していた

「いらっしゃいませ」

を言うことをすっかり忘れてしまった。


「リヒトさん…?」


困ったように、狭い扉の隙間から、

顔と手足を差し込んだシリウスが、

「アッ」と声を上げた。


ようやく私は、我に返る。


「あ、いらっ…」


「これは、バカンティエの服ですね!

…すごく…かわいいです…」


「エェ、そうかな…」


シリウスはもう私の腰に手を回している。


近い…!!!!!


それに、完全にシリウスのペースになっている。


「あの、ここはね、リヒト酒場なの!」


「さか…ば???」


「見て!!!」


私は準備した「リヒト酒場」を見せる。


「お客様は、何になさいますか?」


シリウスは、なぜか、

ちょっと呆れたような雰囲気だったが、

すぐに微笑んで、


Madam(マダム)のおすすめは?」


と首を傾げて聞いてくれる。


シリウス、恐るべき破壊力…


「お…すすめは…

この果実酒のカ…クテルです…」


「ではそれを。」


「準備しますので、お客様はお掛けください。」


「いいえ、僕はここで、

Madam(マダム)のお手並みを拝見しましょう。」


私の背後から、囲うように覗き込んで来る。

彼の高い鼻梁が、私の頬にツンツンと当たる。


近い…

ゾクゾクする…


「お客様…ご覧になるなら、【封殺】をお掛けください。」


すると、後ろから、

額の刻印を私の耳にすり寄せ、うっとりするような声で、

【神通力 封殺】とささやく。


目眩がする。


まだお酒を飲んでないのに、

酔っ払ったようにクラクラする。


神鼠への憎悪?

身体の疲労?

シリウスの色気?


…私の欲望?


「お客様…ご注文のカクテルです。」


Madam(マダム)と乾杯したい。

貴女のためのカクテルを作らせてください。」


美しい仕草でカクテルを作るシリウスを見て、

完全に、自分の役を忘れてしまった。


でも、それがいい。


リヒト酒場が、シリウス劇場になってしまったのが、

くすぐったいほど嬉しいのだ。


********


カクテルを持って、

二人でそっと、ソファに並んで座る。


アクアマリンの瞳が、私の目を捕える。


「二人の婚約に 乾杯」


身体中の血が沸騰したみたい。


何とかグラスを合わせたものの、

すぐにテーブルに置いて、両手で顔を覆ってしまった。

顔中から火が吹き出しそうだ!


「大丈夫ですか?

気分が悪いですか?」


シリウスが私の肩に手を添える。


「だって…『二人の婚約に 乾杯』って…もう…」


「笑っているんですか?

それ以外ないでしょう…?」


ムッとした声になるシリウス。


私は、首を横に振る。

その勢いで、両手で顔を覆ったまま、

シリウスの膝に頭を乗せた。


「笑ってないよ…

ちょっと、許容量を超えてきただけ…」


シリウスは少しの間、沈黙した。

が、意を決したような、真面目な声を出す。


「…せっかくのカクテルですから、

先に頂きます。」


私はソロリと指を開け、隙間からシリウスを見上げる。


シリウスは、グラスに口をつけると、


「酸味と甘みがほどよくて…」


と微笑みかけ…

次の瞬間、一気にカクテルを飲み干してしまった。


「美味しいです。」


グラスを置くと、私の手を優しく握る。


「顔を見せてください。」


「今は、シリウス?」


「僕ですよ。」


「信じられないな…」


こんな幸せすら、私を脅かす。


両手を開いたら…別の人がいるかもしれない。

両手を開く前に…自分が自分でなくなるかもしれない。


「顔を見せてくれないと、口づけします。」


…私は動かない。


柔らかいシリウスの唇が、

ゆっくりと私の唇に押し当てられた。


私は両手をほどいた。


シリウスは目を閉じている。


ゆっくりと唇を離すと、長い睫毛の隙間からアクアマリンの瞳が広がる。


「僕でしょう?」


私は、思わず照れ笑いした。

何にせよ、この目の前の青年は、美し過ぎる。


「僕が作ったカクテル、飲みませんか?」


「あ、うん!飲みたい!」


私は身を起こそうとした。


が、シリウスは「そのままで…」と私を留めると、

自分が作った、私のためのカクテルをスイと口に含む。


エッと思う間もなく、

シリウスは私の頭を抱き上げると、

カクテルを口移しし始めたのだった。

十二支と神鼠は猫に「こい」


第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/

第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/

第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/

第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/


カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067


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