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第20話 リヒトさんを毒殺しようとしたのは お前たちだ

イラスト追加ver.

挿絵(By みてみん)


一度リヒトさんをギュッと抱き締めて、エデに渡すと、

僕は、浅ましい女たちに向き直った。


「鼠族の血を流さないためには、

リヒトさんを殺していい…


ソイリ家の血を残すためには、

リヒトさんを殺していい…


そんな理由で、ソイリ家の秘薬ヴェノムを使ったのか。」


女二人はギョッと目を剝く。


「ヴェノムはソイリ家の秘薬。


今は、当主のヘラしか知らないから、

誰にも分からないと思ったのか。


残念だが、我々の侍医はこの国最高の医師だ。


早い段階で毒虫ヴェノムの症状と推察していたし、

僕も、【昔の当主】に教わって、

ソイリ家にヴェノムの秘薬があることを知った。」


僕は、やってきた司法官にチラリと目をやった。


「医師から、ヴェノム患者の症状とリヒトさんの症状が一致するとの報告書…

専門家から、この付近にヴェノムは生息していないとの報告書が、提出された。」


司法官は、黙って二つの資料を女たちに提示する。


「でも、ヴェノムの秘薬なんて、私は知りません!」 ヘスティア

「あんな秘薬など倉庫に埋まっている!」 ヘラ


「僕も不思議だった。

食べ物は厳正に管理されていて、

お前たちが毒物が混入させることはほぼ不可能だし、

実際調べても、毒物は出てこなかった。


リヒトさんは小さなパーティに行ったが、

そこにはソイリ家の者などいない…


どうやったら、リヒトさんにヴェノムを投入できるんだ?と。」


女二人は固唾を飲んでいる。


「…でも、思い出したんだ。

その時、リヒトさんに毒が侵入できる経路を。


…傷薬だ。」


女二人はサッと青ざめた。


「あの日、お前たちは、急に僕と面会した。


実際に、僕が、大神殿にいる【ヤブサメ家の女】と結婚しようとしていた場合、

どうにかして、【ヤブサメ家の女】を毒殺しようと考えていたんだろう。


しかし、面会した段階では、

僕とヤブサメ家の女との関係は分からずじまい。


ヘスティアの方は、なんとか大神殿に宿泊したものの、

色仕掛けは失敗…


…その後、ヘスティア、お前は見たんだ。


屋根の上で、黒いフードと包帯の女を、

僕が抱き締めているのを。


黒いフードと包帯などという特徴的な人間は…


お前がその日に会って、

自分から名前を聞いた『リヒト』という女の役人しかいない。」


ヘスティアは、

口唇を噛んで、僕を睨んでいる。


「早朝…

トロスの山火事で大神殿が大騒ぎになっていたとき、

お前は医務室に行った。」


僕は司法官から供述調書を受け取った。


「お前は、トロスに向かう準備で忙しい医務室に声を掛けた。


『怪我をしたから傷薬と包帯を頂きたいのです。

皆さま、大変なようだから、場所だけ教えてもらえば、少し頂いて帰りますわ。』


そして、お前は、ちょうどそこにあった、

「リヒト様」と書かれた籠に入っていた傷薬を手に取った…」


「大王様とあろう方が、勝手な作り話を…」


「『大王様』だから、言うんだ。


僕に神通力があることを忘れたか。


この話をした医務室の看護師は、

僕に対して、実際に体験した事実しか話せないし、

僕は忘れていた記憶も呼び起こせる。」


僕は司法官に調書を返す。


「昼前、リヒトさんの包帯を取り換えるとき、

看護師は、何も知らずに、

ヴェノムが入った傷薬を、

リヒトさんの目の上の傷口に塗り直して、

包帯を巻いた。

それで、ヴェノムは、リヒトさんの傷口や目から、体内に入ったんだ。


…その包帯と傷薬だが…」


司法官が、厳重に封がされた紙袋を出す。


「この中に入っている。

危険だからここでは出さない…


が、調べれば、

お前たちが持っているヴェノムと一致するだろう。


…今、お前たちは持っているだろう?

ヴェノムを。

出せ。」


女たちはガクガクと震え始めた。

僕は、司法官を振り向いた。


「どうだ、司法官。

もう使っても問題ないだろうか?」


「はい。

現在ある証拠だけでも、十分に、

彼女たちがリヒト様をヴェノムで殺害しようとしたと考えられます。

どうぞ、神通力をお使いください。」


「エデ、リヒトさんを守れ。」


僕の身体から青い光が流れ出る。


「神路開放 神通力【真実の口(ボッカ・デラ・ベリタ)】」


青い光の帯が、僕と女二人を取り巻いて風をおこす。


「今、ヴェノムはどこだ。」


『ここです。』


神通力には対抗しようもなく、

二人同時に、老婆ヘラの胸元を指す。


その瞬間に、衛兵が二人を取り押さえ、

司法官が、毒の入った小瓶を付けた首飾りを、

老婆の首から抜き出す。


…さあ、神通力【真実の口(ボッカ・デラ・ベリタ)】は次で終わりだ。


「ヘラ・ソイリ、

お前は、ソイリ家の秘薬ヴェノムをヘスティアに渡して、

大王の妃候補を殺害しようとした…間違いないな?」


「はい、間違いありません。」


「ヘスティア・ソイリ、

お前は、ヘラから渡されたヴェノムを、

ここにいるリヒト・ネコミヤが使用している傷薬に混入させ、

彼女を殺害しようとした…間違いないな?」


「はい、間違いありません。」


女2人の【真実の口】を聞き終わると、

青い光は一瞬で僕の身体に収束していく。


静寂と薄闇が、その廊下に急に訪れた。


「…あの夜、冷たくて、死んだようなリヒトさんの包帯をとったんだ。」


僕は、薄暗い廊下から、窓から覗く、午後の明るいパティオに目をやった。


「顔の傷がひどいリヒトさんに『生きてくれるなら、変な顔でいい』って言ったんだ。」


僕は目線は、光を受けるパティオに止まっている。


「まだ侵入経路が分からなかったとき、

『変な顔』のまま、彼女が死んでしまった夢を見た。

余りにも怖ろしくて、僕は叫んで目を覚ました。


でも、そのとき、侵入経路の当たりがついた。

僕の絶望が、お前たちに繋がったとは、皮肉だな。」


少しだけリヒトさんを振り返ると、彼女はエデの膝から、何ともいえない夕日色の瞳で僕を見ている。


「…驚いたろう?

リヒトさんが生きて、あの廊下の角から出てきたときには…


僕も驚いたよ。

ちょうど、これから、お前たちを捕らえる命令を出そうとしていたときに、

自分たちから来たんだからな!」


(次話に続く)



十二支と神鼠は猫に「こい」


第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/

第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/

第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/

第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/


カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067


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