第17話 白雪姫と 鼠と 猫と プロポーズ
プロポーズ挿絵 追加ver.
僕の心臓も
氷のように冷たくなる。
背後で黒い渦が広がる気配を感じる。
振り返ると、エーレントはもう、半分黒い渦に入っている。
が、目・鼻・口から血がボトボトと流れ出ていていて、
荒い息遣いと共に、肩が激しく上下している。
「帰らせてもらう…」
そう言うと、流れる血を拭こうともせず、
左手の薬指を口に当て、何か呟く。
僕は、彼に向き直って、頭を下げた。
「本当にありがとう。」
「礼は要らねェ、クソ鼠。」
そして、黒い渦は完全に消えた。
*******
僕は、真っ白いリヒトさんの顔を見た。
触るのが怖い。
リヒトさんの固くなった体を、
絶対に動かない身体を触るのが、怖い。
それでも、リヒトさんは、少し前まで生きていた。
僕は、リヒトさんに近寄った。
「…ガラスの棺に入れられたお姫様を見つけた王子様は、
そのあまりの美しさに…
思わずキスをしました。」
僕は身をかがめて、リヒトさんの唇にキスをした。
「すると、喉にあった毒の林檎がとれて、
お姫様は…目を覚ましました。」
僕はリヒトさんを抱き起した。
「王子様はお姫様にプロポーズをして…」
ふいに、このおとぎ話の歌を口ずさんで、
この部屋で、二人で踊ったことに気付いた。
僕は震える声で歌う。
「Someday my prince…ララ…
…Someday We'll meet again…」
「ウ…」
エッ!!!!!
僕は飛び上がった。
ブルブル震えながら、リヒトさんの左胸に耳を置くと…
「リヒトさん!!!!!!!!」
僕はまた飛び上がった。
リヒトさんの顔にかじりついて、その頬を必死に叩く。
腕を見ると、薬液の塊が薄くなっている。
体内に入っているんだ!!!!!
リヒトさんは、生きている!!!!!!
「誰か!!!!
侍医を呼べ!!!!!
侍医を呼べ!!!!!!」
**********
僕はリヒトさんの枕元で、リヒトさんの顔に頭を寄せてウトウトしていた。
寝とぼけて呟く…
「…王子様…は…プロポーズをしました…
その後…8人の小人と暮らしました…とさ…」
「ちが…う…」
僕はガバッと身を起こした。
リヒトさんはうっすらと目を開いている。
僕の神通力の影響で、傷ついた片目もすっかり治っていた。
「リヒトさん…僕が分かりますか?」
リヒトさんはゆっくり頷いて、かすれた声でささやいた。
「し…7人…だよ?」
「アアァァァ――――!!!
もう!!!
今それ、どっちでもいいでしょ!!!!!」
「し…」
「しちにん?」
「しあわせに…暮らし…ましたとさ…で…しょ…?」
僕は、温かくなってきたリヒトさんの手を握りしめて、思わず泣き笑いした。
「フフフ…フフフ…」
笑い出した僕を、リヒトさんが朦朧とした目で見る。
「フフフ…だって僕、
せっかく、おとぎ話の王子様みたいだったのに、
リヒトさんってば、
第一声が【違う、七人】だから…リヒトさんらしい。」
僕は、また冷たくならないように、リヒトさんの手をゴシゴシさすった。
「リヒトさんにプロポーズして、
死んじゃったみたいなリヒトさんを見て、
リヒトさんにキスをして、
リヒトさんを抱き上げたら、
リヒトさんが生き返りました。
…ほら、おとぎ話と同じでしょう?」
リヒトさんの目に、うっすらと光が差し込む。
「あれ?
おとぎ話と順番が違いますね。
でも、大事なのは」
僕は逃げなかった。
「僕が貴女に、
結婚の申込みをしたということです。」
リヒトさんはゆっくりと、何度か瞬きをした。
目を覚まそうとしているようだ。
僕は、込み上げてくる熱いものを必死にこらえる。
「ずっと…3年前から…
僕は、貴女と結婚したいと思い続けていました。
人生を共に歩んで、苦楽を共にし、
同じ場所に帰ることを喜びたい。
僕は貴女に「恋」をしています。
そして、結婚を「乞い」たいと、いつも思っていました。」
リヒトさんは、ぼんやりと…でも、じっと僕を見ている。
「いつ、どうやって申し込めばいいか…
薔薇百本はちょっと似合わないけど、
やっぱり、二人で思い出に残るようなものがいいなとか、
ピクニックに誘って、シロツメクサの冠を作るとか…」
リヒトさんの真っ白な顔に、一条の微笑みが差す。
「まだ聞きますか?フフフ…
僕たち、獣化とか変化とか問題があるでしょう。
それを解決した瞬間に、パァッと抱き締めて、
キ…キスをして…プロポーズするとか…
言葉にすると恥ずかしいですね…」
そんなことない、と言うように、リヒトさんの首が少し横に動く。
リヒトさんの目は再び閉じようとしている。
僕の心臓は跳ね上がったが…
良かった。
眠りに落ちるだけのようだ。
僕はリヒトさんの手を握ったまま、床に片膝をついた。
「リヒト・ネコミヤさん。
私…ツヴェルフェト大王、
神鼠シリウス・ソイリと結婚してください。」
リヒトさんはもう、微かな微かな、寝息を立てている。
気のせいか、頬に赤みが差し、
困ったような微笑みを浮かべているように見える。
僕は立ち上がると、ドカッとソファに腰を下ろして、
深く深く、ため息をついた。
それから、思い切り伸びをした。
「とうとう、言ったぞ…」
僕は仰向けに天井を向いたまま、片手で目を覆うと、
声を上げて笑ってしまった。
十二支と神鼠は猫に「こい」
第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/
第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/
第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/




