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第16話 神兎ユーリと 猫の怨霊エーレントと 冷たくなった猫

挿絵(By みてみん)


僕は大神殿の祭壇に急いだ。


大神殿の祭壇には、天窓の緩い星明りだけが差し込んでいる。


僕は、そこに掲げられている石板を見上げ、

東90度に埋め込まれている神兎の赤い石と、

自分の刻印の両方に手をかざした。


しばらくすると、僕の頭に、直接、声が聞こえる。


「こんばんは。大王様。

今、良い子は寝ているお時間なんですよ。」


「聞け。

今、リヒトさんが危篤だ。」


「ハァ!?あの猫族(フェリス)が?

なんで?

何があったんだ?」


やはり、食いついてくる。

本当のユーリなら、こんな反応はしないはずだ。


「毒の可能性が高い。

とにかく、リヒトさんは虫の息だ。

意識はない。

もって三日だ。」


「…シリウス様……僕なんかに直接連絡して、何をしてほしいわけ?」


「助けてほしい。リヒトさんを。」


「…ハァ!?

…僕が、野蛮な猫族(フェリス)なんか助けるわけ…」


「お前が猫族(フェリス)だからだ。」


「僕は、神兎のユーリ…」


「お前は、もう、ユーリではない。


お前は…【エーレント】だ。


200年前に、テレシウスに処刑された猫族(フェリス)の王だ。」


「なんで、そう思うわけ?」


「リヒトさんが調査したんだ。

でも、詳しくは、冥途の土産にでも話す。


今は、リヒトさんだ。


僕は、強力な治癒の神通力を持っている。

猫族(フェリス)の秘儀で、

リヒトさんに、神鼠の神通力を通すようにしてもらいたい。

助けてくれ。

リヒトさんを。」


「へェ…僕がエーレントだとしても、

なんで同族の女一匹を、わざわざ助けなきゃいけないわけ?」


「お前は、猫の天神(フェリステンプル)で、

ロベルトを使って、リヒトさんを襲おうとしただろう。


お前が、なぜ今、

ユーリに憑りついて復活し、何をどう企んでいるか、

僕にもまだ、全部分からない。


でも、お前は、誘拐したリヒトさんを気に入ったんだろう?


今、リヒトさんを助ければ、

僕を殺して、

猫族を復活させるときに、お前の伴侶にできるかもしれない。

そうすれば、純血種を増やすこともできる。」


「フゥゥゥゥン…イイねェ…

その頭の回転と器の大きさ…」


その声と同時に、

大神殿の祭壇に、黒い大きな渦が出現した。


僕は思わず吹き飛ばされそうになる。


その黒い渦の中からゆっくりと…

神兎ユーリの姿をしたエーレントが現れた。


「ハイ、正解。

俺は、200年前に神鼠(アンタら)に殺戮された猫族(フェリス)の王、

エーレントだ。」


美しいルビー色だったユーリの瞳は、

燃えるような夕日色に輝いていた。


僕は、妖精のようなユーリの顔を…

今はユーリではなくなった、その顔を見て、拳を固く握りしめた。


黒い渦が一気に収束する。

と、そこは、リヒトさんの枕元だった。


僕は急いでリヒトさんの首に手を当てる。


「生きている!」


僕は、エーレントを向いた。


「この状態だ。」


「フゥゥゥ――ン…

…マズいね。」


エーレントは僕を押しのけて、リヒトさんの枕元に立った。

彼女の瞼を開けて瞳孔を覗き、

グッとうなじの刻印に指を差し込んで、少し考えている。


「…おい、この子の状態だと、

秘儀の効力は、もって数分だ。


…アンタ、救えるの?」


「そうだな。」


僕は少し微笑んだ。

リヒトさんに聞かせたかったからだ。


「お前は200年前の怨霊だが、

僕は1000年に一度の神通力だ。

心配せずに、よく見ておけ。」


「ハハハハハッ!!!」


エーレントはニヤリと笑って、

夕日色の瞳を僕に向けた。


「じゃ、アンタ、後ろ向いて、目を閉じてて。

秘儀の方法は見せられねェ。

…こっち向いたら、すぐに止めるからな。」


僕が後ろを向いた瞬間、寝台がギシギシと鳴る。

ガシャンと何かが落ちて、妙な匂いが漂う。


僕はゾッとした。

しかし、約束だ。

目を固くつぶって、振り向かない。


今は、エーレントを信じるしか、道はない。


急にエーレントが叫んだ。


「あー、キタキタ!

今だ!術をかけろ!!!早く!!!!」


僕は振り向きざまに詠唱した。


「神路開放 神通力 【二鼠藤戻(にそふじのもどり)】」


僕は、リヒトさんの心臓に手をかざす。


ああ、なんて弱い。

僕は神通力を調整しながら、

彼女の身体で今や永遠の眠りにつこうとしている、

毒に対抗する力を蘇らせる。


「おい…早くしろ!…この子、持たねぇぞ!!!」


エーレントの苦しそうな声。


助かるなら…そろそろ…反応があってもいいはずだ!!!

助かるなら…

助かるなら…

たす…かる…なら…


「何やってるんですか!!!

リヒトさん!!!

起きてください!!!!!!」


僕は神通力を全力で注ぎこみながら、リヒトさんの耳元で叫んだ。


「聞こえますか!?

聞こえないの!?

バカリヒト!!

バカリヒト!!!

バカ!

バカ!!

バカリヒト!!!!!」


「もう、限界だ…」エーレント


僕は、最後の力を振り絞った。

煌々と青い光がリヒトさんを包む。


「死ぬなら…

死ぬ前に言います!!!!


僕と!!!


…僕と、


結婚してください!!!!!!!!!」


その瞬間、青い光がフッと消えて、

燭台の光だけが部屋を浮かび上がらせている。


僕は、倒れ込むようにリヒトさんに触れたが…


リヒトさんは…


氷のように冷たくなっていた。



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