2つの力1つの命
スミレは、目が見えない。
けれど、音と匂い、そして魔力の輪郭が、形を教えてくれる。
その日は、無情にもやってきてしまった。
西側から魔神族が襲撃してきたのだ。
その日はちょうど、村の強者たちが会議で東側にある会議棟へ行っており、不在だった。
スミレたち2人は西側におり、逃げ遅れてしまった。
「おい!子供が2人いるぞ!!」
その声とともに魔神族の視線が一斉に集まる。
狙われたのは、動けないスミレだった。
「ダイヤモンド!」
クリスタの声と同時に、魔力がスミレたちを覆う。
覆う魔力は、厚い壁のようだ。
一息ついたのもつかの間、一つの声が壁の向こうから聞こえた。
「シャドウバレット」
次の瞬間、壁の向こうで低い声がした。影の弾が突き刺さり、ダイヤモンドは割れる。
まだ子供の魔力では、適わなかった。
破片が雨のように降り注ぎ、頬をかすめる。
「守れるとでも思ったか!シャドウスピア」
影が槍の形を取る。魔力が一本の針みたいに伸び、胸元を射抜こうとした。
狙いは、スミレの心臓。
終わる。
そう思った、そのとき。
「スミレ!!」
クリスタの叫びと同時に、横から強い衝撃。
震える手が、スミレを突き飛ばした。
身体が浮き、車いすごと弾かれるように倒れた。
痛みの次に届いたのは、血の匂い。
そして、人が崩れ落ちる音。
スミレが元居た場所からは、かすれた声が届く。
「ごめん、ね......」
その声は掠れており、ヒューという荒い息遣いが聞こえる。
「クリ、スタ?なんで......」
声が震える。息がうまくできない。
「だって......親友だもん」
その一言が、深く、深くスミレの心に刺さる。
ー私のせい?私が、”動けない”から?ー
その瞬間、スミレの内側で何かが崩れた。
悲しみでも、恐怖でもない。
奪ったものへの怒り。
そして、守れない自分への怒り。
魔神族が、もう一度魔力を凝縮し始める。
殺意は、今度はクリスタを狙う。
「ちっ、庇いやがったか。
なら、お望み通りお前から殺してやるよ!!」
「やめて......」
震える声は、誰の耳にも届かない。
「もう......」
次の瞬間、一つの叫びが地を揺らす。
「やめてぇぇ!!」
その声は何倍にも増幅される。
地面からは冷たい冷気が走り、地上へと飛び出す。
スミレの指先は驚くほど体温がない。
「ひっ......!」
「あ゛あっ!」
叫びが聞こえ、魔力が散っていく。
スミレは、一気に魔力を放出した代償に大量の血を吐いた。
身体の輪郭が遠のき、暗闇がさらに深くなる。
その場には、魔神族はもう残っていなかった。
スミレは意識がなくなりそうな中、必死のクリスタの元へ這っていった。
「クリ、スタ......」
ようやくクリスタのもとにたどり着くと、その体は淡い霧になり始めている。
あたりからは、風の音しかしない。
触れているはずの指先から、温度だけがほどけていく。
「ねぇ、スミレ」
振り絞るようなその声には、力がこもっている。
「私の、歌...あなたに、あげる」
額にある命石が優しく、暖かく包まれる。
「お願い......私の、一族の歌声を......生かして」
それが最期の言葉だった。
魔力の名残が天へと昇ってゆく。
手にはもう、何の感覚もない。
残ったのは、冷たい風と胸の奥に灯った、暖かな何か。
しばらく何もせず、ただ天を眺めていた。
村の強者たちが近づいてくる。
「これは、いったい......」
「......」
スミレは、何も答えなかった。
そして、意識が遠のき倒れた。




