2話
田渕は疑わしい目付きで笑う。刑事や刑務官とは嫌というほど向き合ってきたし、彼らの目の奥が笑う事は決してない。常に新しい情報をハイエナのように貪り喰いたいだけだ。こうしたどうでもいい会話の中でも、心のちょっとした動きを探っているんだろうと想像すると、大きな声で叫びたくなる。
『何にも知らねーよっ!』と──。
「早速なんですが、この写真の方ご存知でしょうか?」
拓哉は隠し撮りされたであろうその写真を手に取る。
「知らないすね。誰ですか? この浮浪者のような男は?」
「いや、ちょっとこの男と一瞬ですけど、おたくの会社の角田瑠璃さんでしたか、すれ違っているんですよね」
「すれ違っている? どういう意味ですか? そりゃ、その方が何処の方は知りませんけど、近場なら私もすれ違ってるかもしれませんよ」
「おっしゃる通りです。袖触り合うのも多少の縁ですから。ただ、その、角田瑠璃さんのような若い女性が一人で行くような場所ではないんですよね」
「何処ですか?」
「それはちょっと捜査上の事で言えないのですが」
相変わらず肝心な事は煙にまく──言えないならこちらも言えないと言い返したいが、執行猶予期間中だし、そんな強気に出れるはずもない。捜査に協力するのは市民の義務とまでは言わないが、大人しく対応するのが身のためだと随分前に悟っている。
「ここからは聞かなかった事にしますのでご協力ください」
「どういう意味ですか?」
「こちらが追っている事件と、あなたの秘め事とは全く関係ないという事です」
「……」
瑠璃と男女の関係である事はバレている。執行猶予中で未成年とそういった関係になっている事は御法度だ。バレなきゃ問題ない訳でもないが、既に首根っこを掴まれている。
「ご協力願えますか?」
「……はい」
拓哉は観念した。少し冷めたほうじ茶で唇を濡らす。
「いやいや、あなたを困らせたい訳ではないのですよ」
「……」
「私の刑事としての勘と言いますか、アンテナがかなり敏感に察知してましてね」
「この浮浪者と瑠璃の関係ですか?」
「……こちらも捜査上の話しは出来ませんが、規定を真面目に守るだけでは真相には一生近づけませんから」




