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9話

 

 ただ、見覚えのある白いトレーナーを着ている自分自身を見て、間違いなく幼き頃の自分だと思った。何枚も服を持っていなかったから覚えていた。そして、色褪せた写真からは確認できないが、履いていたスニーカーも底に穴が空いていたものだ。あの頃、着るものより、とにかく腹が減っていた。アパートには即席ラーメンの一つもない。お菓子などあるはずもないそんな環境だった。現在のようにコンビニ等もそんなに普及していない時代、リアルに食べ物がなかった。どうして凌いできたのかはまるで思い出せない。



「大企業の社長をなんで知らないのよ」



 芸能人や著名人なら顔ぐらい分かるが、かなり昔の写真のこの男が、川嶋自動車の社長である事を確認する事は難しい。例えば、川嶋自動車のサイト等に入って、現在の容姿がどんな感じかは分かるだろうが、この写真と同一人物であるとは確認できない。いや、そうでない事を全力で祈っているだけかもしれない。仮に母親の言っている事が本当なら、とんでもない事になるからだ。まず、あいりの事件の事、そしてユリの事、全く整理がつかないし、到底受け入れがたい。



「別れてから会ってはいないけど、ほら、今は何でも調べられるでしょ? 便利な時代よね」


「……」



 ことの重大さに気づいていない母親を見ていると、これ以上は耐えがたい状況だった。だが、このまま有耶無耶にする事も出来ない。



「何してるの?」


「スマホで写真撮ってんだよ」


「それは分かるわよ。何故そんな事してるのかって聞いてんの!」



 母親がイラついた時の声のトーンが妙に懐かしく、そして不快だった。いつもそのトーンの時は殴られていたからだ。たまに持ち帰ってくるお惣菜や見切り品の揚げ物をがっついて食べていると、『食べさせてない子みたいに!』と先程のトーンで言っては平手打ちをされた。正直、良い思い出はない。あったかもしれないが、本当に思い出せないのだ。『食べさせてない子』と言われても、実際食べさせてもらってない訳だから、そのままじゃないかと今なら思えるが、あの頃はとにかくこんな母親でも嫌われたくなかった。嫌われて捨てられる事が怖くて仕方なかったのだ。



「色々調べる為だよ。川嶋自動車の人と今後知り合うかもしれないから」

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