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8話

 

 一括で一千万の金を受け取ったと話していた。その金を何に使ったのか聞かずとも分かるが、彼女の口から聞きたかった。完全なる決別の為にもそうすべきだと──。



「でもね、仕方なかったのよ。寂しくて……」


「何に使ったんだ?」


「……ホスト」



 予想通りだった。普通の男に貢いで直ぐにオケラになる額ではない。記憶を辿っても、そんな裕福な時期は一瞬たりともなかった。だから、ホストに入れ上げていたというのは納得いく理由だ。



「捨てられて寂しくてホストクラブに行ったのよ」


「……」



 因果応報──母親に言った言葉が綺麗に返ってきた。予想はしていたが、ブーメランのように凄い勢いで返ってきて、額に突き刺さってしまったぐらいの衝撃が拓哉を襲う。



「捨てられたらホストクラブに行くのかよ? おかしくない?」


「おかしくないわよ。ただ、初めて行ったホストクラブのホストが似ていたのよ」


「誰に似ていたんだ?」


「あんたの父親よ! 川嶋自動車の社長の!」



 拓哉はあまり滑舌の良いとは言えない母親の言葉に血の気が引いた。滑舌が悪いから聞き間違いだと思った。聞き返す勇気もないが、無視する事も出来ない。


「知ってるでしょう? 川嶋自動車」


「……」



 無視する間もなく母親の口からはっきりと告げられた。『川嶋自動車』の社長は、当たり前だが、ユリの父親であり、あいりの父親でもある。だが、冷静に考えれば、そんな大企業の社長が母親を相手にするはずがない。それはあり得ない事だと。ホスト時代にも似たような類いの話しや自慢話をよく耳にした事を思い出す。やれ、どこそこの会長の誕生日会に招待されただとか、大物スポーツ選手、或いはイケメン俳優と寝たであるとか、願望が現実と錯覚してしまっている残念な人の戯言だと右から左に聞き流していた。おそらくそういった類いのものだろう。



「だから、そんな人はあなたを相手にしないよ。嘘つくなよ」


「本当よ。写真持ってるもん。今でも忘れた事はないんだから。あんたの事は忘れていたけど」



 母親は、使い古された型落ちのブランド財布から一枚の写真を取り出す。



「これよ! よく見なさい」



 渡された写真を見る。何処かの遊園地で撮った写真だ。大きな観覧車をバッグに、その川嶋自動車の社長らしき男と、真ん中に幼い頃の拓哉、そして母親が確かに写っていた。



「いや、こんな色褪せた写真見せられても……。この人が川嶋自動車の社長と言われても分からないよ」

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