7話
「要するに、セフレだろ? 向こうは処理するだけ」
「ちっ、違うわっ! 愛してるって言われたもの」
拓哉は深い溜め息をつく。その空気の中には“呆れ”の成分しか入っていない。
「いい歳して何言ってんだよ? 愛してるって、やってる時に言われただけだろ? 馬鹿なの?」
「あんた、言っていい事と悪い事があるわよ! 大概にしなさい!」
綺麗なダブルスタンダードに笑うしかなかった。こういう人種は自分の事しか見えていないのだろう。自分が相手にやらかした事や、言った言葉など一秒も経たないうちに忘れてしまうんだろう。そしてその事を指摘すると烈火の如く怒りだすに違いない。
「その人の事は置いておいて、これまでもボロ雑巾のように捨てられてきたろ?」
「あんたいい加減にしないと怒るわよ」
「こっちは怒りなんて感情一周しちまったよ。あんたが何故捨てられるか教えてあげるよ」
「何さ?」
「チューインガムを吐き捨てるように子供を捨てたからさ。因果応報」
「あんた、出家でもしたのかい? 捨てたのは私のこれからの人生にあんたが邪魔だったからよ」
「……」
「その時の男がまた最高の男でね。買い物の荷物は持ってくれるし、歩道側にいつも誘導してくれて」
これがもう60歳に到達する女の思考回路とは俄かに信じがたいが、紛れもない現実だ。おそらく何を言っても無駄だと感じた。
「じゃあ、何故捨てられたんだよ?」
「……仕方がなかったのよ」
「普通、お金ぐらいは渡すだろ? あんな貧乏な訳がないじゃないか?」
マスターが残り少なくなっていたコップに水を注ぐ。拓哉は興奮で喉がカラカラであった。
「もらったわよ」
「もらった? 嘘だね」
「本当よ。一カ月20万ぐらいかと聞かれたから……」
「そんなはずないよ。ガキの頃、破れた半ズボンをずっと穿かしていたじゃないか! あと、ゴムが伸び切ったパンツとか」
「一括でくれって……」
拓哉はコップの水を全て飲み干す。普通、毎月の養育費より一括で払う方を提案するのは男の方だ。その父親かどうか分からない男は毎月20万払うと言った事にまだ誠意を感じるが、それを断って一括でもらった母親はもはや人間ではないと言っても決して言い過ぎではない。




