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6話


今更父親がどんな人なのかどうでも良かった。メインはユリの事であって父親の事ではない。心の奥底からどうでもいいとは思わないけど、これからの人生にそれを知ったからといって何か劇的に変わる事もないだろう。



「もういいよ。どうせ朝から酒でも呑んだくれているような奴だろ?」



母親は馬鹿にしたように笑う。これ以上ないほど不快だ。どうでもいい事なのに勿体つけられて、僅かにある知りたい気持ちを刺激する。



「今更だよ。もちろん顔も知らないし。生きてるの?」


「ピンピンしてるわよ。知りたいの? 血が逆流するわよ」


「どういう意味だよ?」


「そのままの意味よ。私はね、碌でもない男ばかりに縁があったけど、一つだけ自慢出来る事があるのよ」



自分で碌でもないと分かっている時点で自慢もくそもない。誰一人として、彼女に寄り添って、人生を共にしていないのだから。



「もう次会う時は葬式かもしれないし、お金も払った訳だし聞いていくよ」



出されたお水の氷をホットコーヒーに入れて、母親はコーヒーを飲み干していた。上品という言葉の対極に住む住人だ。



「あんたの父親はね、誰もが知ってる大企業の社長よ」


「大企業? そんな訳ないじゃん。うちは貧乏だったし」


「知らないのよ。勝手に産んだから」


「何で相談しないんだよ。あんなに貧乏だったじゃないか」



母親は違う表情を見せる。まるで初恋の人の話しをする乙女のような眼差しで。



「愛してたのよ」



拓哉は苦笑する。“愛している”ってそんなに軽いものなのか──。



「だったら何故その愛してる人との子供を捨てるんだよ! あんたの愛は偽物だ!」


「あの人は愛していたわ。あなたは愛していなかった」



日本中、いや、世界中にいるだろうか──こんなにもはっきりと言ってはいけない言葉を、本人を目の前にして言える母親が。拓哉は思う。この人は人間ではない。紛れもなく“怪物”であると。



「だって、あなた似てないんだもの。これっぽっちもあの人に」



切れ味の悪いサバイバルナイフで何度も刺されたような痛みを、少しでも味わって欲しかった。母親を傷つけずにはいられなかった。



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