11話
ユリのマンションまで我慢する事は出来なかった。港から一番近いラブホテルに滑り込む。引き合わせたのか、或いは単なる偶然か、昔、妹のあいりと入ったラブホテルだった。外装も内装も随分変わっていた。老朽化か、世間では殺人事件になっているから雰囲気を一掃したのか、いずれにしてもあの頃の面影はない。
「私、こんなだったかな」
「どういうこと?」
「変態じゃない?」
「普通でしょ」
「誰と比べて?」
「世間一般的さ」
ショッキングピンクと黒のコントラストがどうにも落ち着かない部屋でユリを何度も抱いた。SMプレイが楽しめる割高の部屋だ。この部屋を敢えて選んだ訳ではない。この部屋以外は満室だったからだ。
「SMとかやった事ある?」
「ないよ」
ユリは回転しない丸いベッドの上から、壁に掛けてあるグッズを指差す。汗だくの身体が少し冷えてきた。
「風邪引かないように」
拓哉は重いだけで暖かさのカケラもない掛け布団でユリを隠す。顔だけ少し覗かすユリの額にキスをした。
「質問に答えてない。SMやった事ある?」
「いや、ないって答えたじゃん」
「面倒くさそうだった。やった事ある?」
全ての女性に当てはまる訳ではないが、こういう類いの質問が好きな人は多い。仮に“した事ある”と答えたらどうなるのか、もう少し若ければ試していたかもしれない。
「喉渇かない?」
「いらない。そうだ! 話さなきゃなんない事あった」
拓哉は薄っぺらい白いガウンを着て冷蔵庫に入ってあった烏龍茶を取り出す。
「何?」
「瑠璃ちゃんの事」
「……瑠璃の事は何とかこっちで考えるから」
「いや、そうじゃなくて」
ユリは布団を振り払い、拓哉が持っている烏龍茶を飲む。
「いらないって言ったのに」
「一息つきたくて」
ショート缶の烏龍茶を全て飲み干したユリの口元が濡れている。
「ほら」
「ありがとう」
部屋の照明を調節するつまみの横にあるティッシュケースから一掴みしてユリに渡す。
「あの刑事、瑠璃ちゃんの素行についても色々聞いてくるのよ」
「素行?」
「私が知る訳ないじゃない? 最初から何にも知らないって言ってるのに……」
「まさか、瑠璃があの事故に関わっているって?」
「知らないけど、どうもそんな感じの言い方というか……」




