凪の報告
波は大の酒好きでいつも一升瓶を持ち歩いている。酔っていないことの方が珍しい。凪は見た目通りチャラチャラしているが、根は優しく冷静な判断力を持っている。
両親は東日本大震災の時に失った。
2人は高校を卒業したあと、福島県のとあるネジ工場で働いていた。震災の影響でろくに受注も来ず、2人の暮らしも苦しいものになっていた。
そんな折に町工場に尋ねてきたのが貴夜美だった。
2人は貴夜美の話を聞いて自分たちの持つ隠された能力に気づいた。
初めは制御できなかったものの、何度も鍛錬したのち思い通りに操ることができるようになった。
そして波と凪は能力を社会のために使うことを誓った。2人は『ROOM』に自分たちの“居場所”を求めたのである。
いつも通り、波と凪は狭いスペースに身を寄せ合って寝っころがりテレビを見ていた。
「そろそろ・・・話し合いの時間だ・・・。今日は長くなるぞ・・・」
貴夜美が号令をかけた。
波と凪は手を繋いで引き合いながら起き上がり、フラフラと席に着いた。各々ベッドで本を読んでいた猛麻呂と美香も、まだ本の世界から醒めやらぬ様子である。
「真田幸村……カッコいいなあ〜〜!!」
美香は日本の戦国時代マニアである。特にお気に入りの武将は真田幸村で、それに関する本をいくつも集めている。
また、その影響か、武士道に憧れを抱きその精神を貫きたいとよく言っている。
猛麻呂は、〈イラッとしたらすぐに手を出すやつが武士道?w 〉と鼻で笑っているが。
「猛麻呂は何を読んでいたんだYO?」
「アガサ・クリスティーの小説ですよ」
「その人ってヒップホッパー⤴︎?」
凪はヨゥ!ヨゥ! と手を動かした。
凪は色鮮やかなキャップ帽はいつも後ろ向きに被っている。首にかけた銀色のネックレスは成人式の日に波から貰ったモノらしい。
「違いますよ、アガサ・クリスティーは推理小説作家です。ドキドキハラハラの展開は一度読み出したら止まらないっすよ!」
それを聞いて波が意外そうに
「へぇ〜〜〜〜、思春期の男の子って官能小説ばっか読むもんだと思ってたわ〜〜」
と言った。
「何言ってるんですか、波さん! 今の時代にそんな少年は絶滅危惧種です!」
猛麻呂はすかさずツッコんだ。
いったいいつの時代の話なのか。昭和のような古臭い性偏見を正さずして日本の少年に明日は無い。
〈あれ? でも波さんと俺は歳は5つしか離れていないはず……。もしかして、波さんって男のことを実はよく知らないのか? それなのにあんなに下ネタ好きなのか?〉
波はつかみどころの無い女性だ。ちゃらんぽらんなように見えて、実は計算高い一面もある。双子の凪とは恋人みたいに仲がよく、猛麻呂の知らないところで✖️✖️とかしてるんじゃないかと思うほどだ。
猛麻呂は1人で苦笑いした。
「さあさあ・・・始めるぞ・・・。俺たちに与えられた時間はわずかだ・・・。7日間のうちにどうやって政府の陰謀を阻止するか・・・」
「その陰謀がなんだかわからないっていうのもバカらしいですけどね」
「その通りだな・・・」
猛麻呂の言葉に貴夜美は小さくうなづいた。
「初めに・・・情報班に手伝いに行っていた・・・波と凪から何かあるか・・・?」
場も整ったところで貴夜美が話を切り出した。
凪はネックレスの位置を整えた。こういう場の凪はいたって真面目である。
「来月に政府がよくわからん計画を実行に移すつもりなのは知ってるKA? 」
「もちろんだ・・・。草薙山殿が今日の明け方前にここを訪ねてこられた・・・」
「へぇ〜〜! あのエロじじいが〜〜! 」
波は懐かしそうに声を上げた。どうやら過去に会ったことがあるようだ。
凪は話を続けた。
「政府について調べているうちに、2つ、不審な点があることに気づいTA」
「ほう・・・」
「1つ目は政府と自衛軍との過度に密接な繋がりDA。本来、軍部が政治に関わることは法律で禁じられていRU。しかし、昨年末から防衛省や軍部の関係者が首相官邸に密かに出入りしているという噂があるんDA」
凪は情報班から渡されたファイルから写真を取り出した。そこには海軍将校らしき人物が人目を気にするように首相官邸に入る姿がはっきりと写っていた。 自衛軍とは日本の領土の防衛を行う組織である。2年前に自衛隊から自衛軍へと名を変えた。
アメリカ軍とは同盟関係を結んでいる。
自衛軍は国を守るための武装を法律で許可されている。太平洋戦争の前例もあり軍部の政治的干渉は危険だと慎重な意見も多かったが、2年前に政府が主張を押し切る形でこの法案が成立した。
もしこの写真が本当だとしたら、政府の信用は失墜する。
「2つ目は、昨年から政府の役人が頻繁に海外渡航をしていRU。特にアメリカが多いNA。どんな目的なのかは知らんが、何か裏があるような気がしてならNAI。これらが情報班から得れた情報だYO!」
凪はボールペンをクルクルと器用に手元で回した。
貴夜美はうーんと首をひねる。
「政府と軍部とアメリカ・・・。これらが何かを企んでいることは間違いなさそうなんだが・・・」
「政府の計画が何なのかはっきりしないのに、それを阻止しろなんて無茶な話よ」
猛麻呂は美香の口ぶりが草薙山に対する嫌味のようにも聞こえた。
「まだ2人はこの組織に入ってから・・・3ヶ月しか経っていないからわからんかもしれんが・・・俺たちはこれまで無茶なことばかりしてきたんだ・・・。必ず解決の糸口は見つかるはずだ・・・」
貴夜美の言葉にはこの組織に対する誇りと自信が感じられた。
「政府は気づいていないのかな……? 『ROOM』が政府がなにか計画を企んでいることに気づいたということは、政府もそれに気づいていたとしてもおかしくはないと思うんだけど」
「つまり、政府も私たちの存在に気づいた上で計画を
進めている可能性もあるってことね」
猛麻呂の言葉に美香はハッとしたように声を上げた。
「もしかして〜〜情報班班長の失踪もそういう絡みなのかね〜〜!!知っちゃぁいけない事まで知っちゃったとかぁ〜!」
波の言葉に貴夜美の顔に影が差した。それはうすうす考えていたことだった。
「主音の家に・・・何か手がかりがあるかもしれないということか・・・」
貴夜美は複雑な気持ちで呟いた。




