5. 成績のいい子供って、親にとって気分がいいものなのかな?
初めはアクセス履歴の見方がわからなくて、誰も読んでないんじゃと不安になっていたのですが、読んでくださる方、いらっしゃるようです。
せっかくなので、最後までお付き合いください。
充実した夏休みが明けて、再び小学校生活が始まった。女の子の時のドジっ子ぶりは相変わらずたったけど、算数は人並みにはできるようになった。計算間違いが減ったことで、算数のテストは満点が増えた。算数の教師をしていたのに間違えてたのかって?黒歴史だから言わないで。
そんなある日、家に帰るとテーブルのうえに一枚のチラシが置かれていた。僕の姿を見るや美沙子さんが笑顔でチラシを右手で持ち、僕の顔の前に近づけてきた。
「かなた、これ受けてみない?」
僕はチラシを受け取った。
「学力判断テスト」
と書かれていた。ああ、コレね。どこの塾でもこういう無償テストをやっている。だいたい相談会とセットになっていて、「おたくのお子さんには見込みがあります。是非我が塾へ来て、一つでも偏差値の高い中学校に行きましょう」とかいうやつだ。
前世の僕の塾では入塾基準に点数はなかった。あんまりにあんまりな子は僕のクラスに来るだけだもの。
「最近成績すごくいいじゃない。こういうのも受けてみようよ」
美沙子さんは、ニコニコと笑っている。そうなんだよね。学校のテストで満点を取ると、「うちの子は賢い」と勘違いしてこういう塾へ来させる親がいるんだ。
シグマのお父さんみたいに、子供の適正を考えて受験させる親もいるけど、美沙子さんみたいに必ず舞い上がる親がいるんだよね。
でも言われた時に、こっちの世界に来る前に見た、僕の塾の最上位クラスの子供達のことを思い出したんだ。
チラシの裏側に、「絶壁20人」という文字が一番大きく書いてあった。
「ママ、この絶壁って何?」
「ああ、聞いたことがあるわね。毎年東大に何人も入っている、私でも知ってる進学校よ」
そこに20人ってことは、あの教室の男の子たちに挑めるわけか。やるだけやってみるか、と僕は思った。
「ママ、僕受けてみる」
これが、お前と出会う、始まりの始まりだったわけだ。
まあ、さすがに入樹基準はクリアするだろうと思ってたんだけど、心配事はあった。当時の僕はそこまで計算が得意じゃなかったからね。毎日の練習で以前より速く正確になったとは言え、その段階ではまだまだ、正確性に課題がある。量が多かったらヤバいかもと思ってたんだ。
それに、そもそも問題の方向性が違いすぎて、手も足も出ない、ということも考えた。何もかもが初めてだったから、不安で仕方がなかった。
さて、テストの日がやってきた。いつものハーフパンツとパーカーで臨んだよ。今でこそ、フリフリのワンピースとかミニスカとか身に着てても数学の問題解けるけど、この時は算数の難問とか、無理だったからね。男の子の格好で臨んだ。
1つ目のテストは算数だった。パラパラとめくった感じでは、やればできる問題ばかりが並んでいた。ただ、量は多いな、って感じた。久しぶりの集中。
お前も集中すると周りが見えなくなるから分かるかもな。その瞬間、テストの紙と筆記具以外何も見えなくなって、すべての音が聞こえなくなったんだ。
全ての問題を解き終わり、集中が途切れた時にはもう残り時間は5分しか残ってなかった。僕は気になる問題を見直したあと、消しゴムを置いて、残り時間を待っていた。
国語の時間は算数ほどクリティカルじゃなかった。それに夏休みからやっていた書き取りで覚え直した漢字が何問か出たんだ。
テストが終わった。量以外は正直どうってことはなかった。ま、小3のちょっと頭のいい子向けのテストだから当たり前と言えば当たり前。テストが終わると、すっかり中学受験に洗脳された美沙子さんが誕生していた。
「少しでもいい環境へ」
「中学受験なら選び放題」
などなど。前世の勤め先でよく聴いたフレーズが美沙子さんの口から飛び出してきた。
「どうだった?」
「まあまあできたよ。8割ぐらいは取れてると思う」
僕は控えめにそう答えた。すると美沙子さんの表情が一変した。
「半分も取れれば優秀って聞いたよ。かなた、そんなにできるようになってたんだね」
もっと控えめに、半分くらいは取れていると思うよ、と答えておけばよかったと、実は後悔している。
我が家も子供の無料テストから中学受験から始まりました。かなたみたいに満点は取らないですけどね。で、「〇〇中」なら必ず入ります、と言われて僕が高校受験のとき滑り止めにした学校だったので、ガクッときました。
ああいう無料テストって、あからさまな撒き餌による宣伝だと思うんですけど、美沙子さんみたいな純粋の人、本当にいて、妻がそうでした。子供の周りだと有料の模試をいきなり受けて、上位クラスの資格を得て入塾する人も多かったです。無料テストで、上位陣にいたのはうちの子ぐらいでしたね。




