3. 小さな決意と旅の始まり
アクセス解析見てると、誰も読まないというわけでなくて、お付き合いいただけてるかたもいらっしゃるようです。最後までお付き合いいただけることを願ってます。
そんなことを繰り返しているうちに、さすがの僕も女の子の服装を着ている時にドジっ子になることに薄々気づいてきた。
ある日のことだ。ドジっ子としてクラスのみんなに可愛がられたあと、学校から帰ってきてワンピースを脱いだ。暑かったから下着姿のまま算数の宿題を始めたんだ。そうすると、あっという間に宿題を片付けてしまった。床に転がったワンピースをじっと見た。頭から被ってプリントを見ると、なぜその答えを書いたのかさっぱり思い出せない。そして頭から脱いでプリントを見た。
「マジか」
確信した。女の子の格好をすると算数のできないドジっ子になるんだ。
でもさ、その頃になると、可愛い格好するの、嫌いじゃなくなってたんだ。ほら、僕って可愛いじゃん。可愛いって言われたいじゃん。
それから、中学生になると、否応なしに制服があるよね。今だってシグマの隣でスカート履いてるじゃん。小学生の間はいいけど中学生に上がるまでには、何が何でも克服しないといけない。
そんなわけで、可愛くてオツムの弱くない僕への長い長い旅が始まったんだ。
ピアノを習い始めたのもこのころ。美沙子さんは僕がそれなりに弾けることを不思議がってたけど、
「ま、かなただし」
と気にしなかった。前世では適当なところで辞めてしまったんだけど、今度は最低でも一日一時間は毎日鍵盤を触ろうと決めた。
それにはこんな思い出があるんだ。僕は前世で中学生まで、ピアノを習ってたんだ。でも周りの子はどんどんうまくなっていくのに、自分は同じ教本をずっと弾いているのに嫌気を差してしまったんだ。気付いた頃には、もう今から頑張ったってどうせ追いつけない、と思っちゃった。それで、やめちゃったんだ。
転機が訪れたのは大学に入学してから。ほら、駅ピアノって置いてるじゃん。久しぶりに弾いてみたんだ。そうしたら、鍵盤に指を落とす初速や指の力の入れ方で随分音色が変わることに気づいたんだ。
それ以来、ピアノを続けなかったこともずっと引っかかっていた。中学生の時からでも、ちゃんと練習していたら、もっと弾けたんじゃないかって。
居間の隅に置かれてるピアノを見て、その時の気持ちを思い出した。その辺に転がってる教本を夢中になって弾いてたら、美沙子さんが笑顔で立っていたんだ。
「かなた、教室に通おっか」
服と同じで拒否権はなかった。でも、美沙子さんは僕のピアノを聴くといつも笑顔だ。あとで聴いたら、自分は前世の僕よりも早く挫折したんだって。古傷、えぐっちゃったかな。
あちこちで駅ピアノ見ますけど、みんな上手いですよね。
一度弾いてたら、取引先に見られて、「お上手ですね」って言われました。
社交辞令でもうれしいものです。




