2. 王子様な僕とドジっ子な僕
まずは小学生として登校するのです。
ドジっ子、お約束ですよね。
初登校の時の話も書いておくね。前世はモテないモブ男子だった僕からすると、ものすごく気分のいい一日だった。塀から落ちたときと同じように男の子みたいな格好で学校に行ったんだ。クラス朝礼で、僕の記憶喪失の件が先生から伝えられた。
そうすると、僕が塀から落ちたことだけしか伝わってなくて、女の子たちが、
「かなたくん、大丈夫」
とか
「逢坂くん、大丈夫」
とか声をかけてくる。休憩時間を何度か過ごして僕は学習した。逢坂かなたは、このクラスの女子たちの、王子様だったのだ。かなたちゃんなんて呼ぶ女の子なんかいないし、男の子はみんな
「かなた、ドッジボールやろうぜ」
みたいなノリだ。
ただ、かなた王子にも弱点はあった。お勉強はあまり得意ではなかったようなのだ。しかし、前世はこれでも秀才と呼ばれて塾の講師までしていたのだ。小学生の勉強なんてわけないのである。その日僕は急に勉強も頑張りだした、理想の王子様に変貌したのである。僕はものすごく気分よく、家に帰った。
家に帰ると、美沙子さんがワンピースを持ってウキウキした声で話しかけてきた。
「かなた、明日はこれ着てくれない?」
その時の僕に拒否権なんかあると思う?それ以来もこんなことがなんどもあって、時々、以前のかなたがいなくなって悲しいのか悲しくないのか分からなくなったよ。美沙子さんが悲しんでないはずないんだけどね。
それくらい僕を可愛くコーディネートすることに、血道をあげてたんだ。もちろん、今もだけど。
そんなわけで、次の日はワンピースを着て髪留めなんか頭につけて学校に行ったんだ。着飾った自分は自分で言うのもなんだけど、すごく可愛くて、僕はとってもご機嫌だった。しかし、なかなか散々な一日だった。
まず自分の席に座っているところから災難が始まった。
「どこの誰だか知らないけど、なんでかなたくんの席に座ってるのよ」
隣の席の女の子に怒鳴りつけられたんだ。そうしたら、今度は男の子が寄ってきた。
「そんなに怒らなかったっていいじゃんか。逢坂は来てないんだし」
と、僕に向かってあからさまな点数稼ぎをしてる。どいつもこいつも、逢坂かなた本人だと気づきやしない。あげくの果てには、先生までが、
「逢坂さんがカッコいいのはわかるけど、自分のクラスに戻りなさいね」
などと言われる始末。
「あの、僕が逢坂かなたなのですが」
と言ってしげしげと眺めて、ようやく納得してくれた。女の子たちまで、
「そう言えばかなたくん、女の子だったね」
とか言うんだ。王子キャラ浸透しすぎだって。
そして、悪夢の算数の時間が始まった。小学生の算数なんて楽勝、と思ってたよ。でも、教科書を読んでも、意味がわからない。九九も満足に出てこなかったのは目の前が真っ暗になった。理系科目だけが取り柄だったのに。
次の音楽の時間なんか、楽譜が読めない。前世でピアノ習ってたから、それもショックだった。とにかく、昨日は当たり前にできたことが、とにかくできないんだ。
しかも、教科書やノートを落としたり、筆箱をぶちまけたりドジっ子ぶりも半端なかった。前日の颯爽とカッコよくこなして、女の子にキャーキャー言われてた面影はどこにもなく、一部の男の子のスイッチを踏み抜いたドジっ子がそこにいた。
男の子に親切にされて笑みで返したら、「色目使って」とか「こんなのかなたくんじゃない」と今度は女の子たちの態度も微妙になる。僕は精神的にボロボロになりながら家に帰ったんだ。
美沙子さんは僕が暗い顔をして帰ってきたので、心配そうに
「何があったの」
と聞いてくれた。僕はまず九九が言えなかったと伝えた。美沙子さんが笑って、
「あんもともとた九九できなかったじゃない。私もあんたぐらいのときはできなかったけど、ちゃんとできるようになるから」
と言われた。前世の僕からしたらあり得ないよ。九九なんか学校で習う前から知ってたよ。
「それ以外にも、筆箱ぶちまけたりして、なんか男の子の保護欲を刺激したみたい」
というと、
「あなた難しい言葉知ってるわね」
と言われた。確かに、小3女子っぽくはない言葉遣いだったな。
それからしばらく、美沙子さんの気分によって、男の子の格好で通ったり、女の子の格好をしたりして、学校に通ったんだ。面白いのは、ドジっ子と王子様の間を行き来する僕に、みんな慣れてしまったことだ。
女の子のときは、「かなたちゃん」と呼んで可愛い困ったちゃんとして扱い、男の子のときは「かなたくん」と呼んで王子様扱い。クラスメイトたちは、別人が来ていると思うことしたみたい。当の僕も、同一人物なのか正直自信がなかった。また別人になったのかと思ったよ。
もちろん、完全にフィクションです。
こんな話があってたまるものか。




