1. うらやましい、と思ったのが始まりだったのかな?
中学受験ものって、あんまりないなあ、と思って始めてみました。
TS×転生×中学受験のラブコメディ、始まりです。
ついこの間まで、シグマは僕のことを男の子だと思っていたと思う。もちろん、女の子だと気づかせないように気を遣っていた、という面はあるよ。でも、ちょっとした反応とか言葉遣いとか、そういうのも含めて男の子だと思っていたんじゃないかな。それはそうだ、僕はずっと長い間男の子として生きてきた。
僕には前世の記憶がある。そして、逢坂かなたとしての記憶は、シグマと出会った一年前ぐらいからしかない。僕は二十年ぐらい逢坂かなたという男性として生き、そして、ある日突然、逢坂かなたという女の子として生きていた。
今の僕を知るお前なら信じられないかもしれないが、僕は勉強がとても嫌いだった。だから、あんまり勉強はしなかったんだ。でも、テストの点は人よりはまあまあ良かった。悔しいのは、勉強ぐらいしか人に誇れるものがなかったことだ。
小中高とあまり勉強せずに過ごし、東大を受験した。別に成績が良かったわけじゃないよ。東大なら落ちても格好がつくと思ったんだ。そして、浪人生となって、再び東大を目指したが、早々にあきらめた。そして、ランクを落として受験したものの、そこも不合格だった。
さすがに2年浪人する気はなかったから、僕は滑り止めの大学に進学した。でも、前世の母は喜んでくれた。一応、私立の理工系の中では最難関だからね。息子の自慢をするには十分だったようだ。
裕福とは言えない中で高い学費と生活費を何とか工面して、僕を東京の大学に進学させてくれた。国立大学に落ちてへこんでいたけど、両親が喜んでくれたのは素直に嬉しかった。苦労も心配もかけたしね。
大学生活は楽しかったし充実していた。学業のペースを掴んできたので、僕はアルバイトを始めた。小学生向けの塾の講師だ。僕たちの塾みたいに、最難関のクラスもあったが、かなり下の方の成績の生徒もいた。僕はその子たちに、算数を教えていた。
机に座ったらそのまま大ジャンプしそうな子どもたちだ。なかなか分かってもらえない。手を変え品を変えやり方を工夫して、手応えのある子もできた。いやいや来ているとはいえ、僕の話に一時間とか付き合うわけだ。できたら、僕の話を聞けてよかった、と家に帰ってほしいじゃないか。
でも、僕の仕事は賽の河原のようだった。算数に興味を示して、成績が上がると彼らは上位クラスに移動するんだ。そのあとどうなったかは知らない。
もう少し置いておいてくれと頼んだこともあったが、無駄だった。塾は親に向かって、「以前よりできるようになった我が子」を売る商売だから。まだ最下位クラスだよ、なんてシールは貼りたくないんだ。
クラスが上がればその中で上下関係があり、さらにクラスが上がれば次。シグマのお父さんみたいに、冷静な人ばっかりじゃないんだよ。
ま、それでも、仕事を辞めることはなかった。お金は必要だったし、人の成長を見るのは思いのほか楽しかったしね。
そんなある日、授業が終わった後、最上位クラスの教室が目に入った。いつもは通り過ぎるんだけど、その日はなぜか視界に入って来たんだ。男の子たちは自分の担当クラスみたいに、今にも椅子から大ジャンプしそうな子供たちばかりだった。
先生が入ってきて、クラスが落ち着くと、みんな目を輝かせて話を聞いている。ふと思ったんだ、僕もあの中にいることができたなら、大学入試のあの不甲斐ない結果はなかったんじゃないかな、ってね。
その後僕はいつものように自宅に向かった。いつもの交差点をいつものように渡ろうとしたとき、周りの風景がだんだん薄くなっていったんだ。
そして、見知らない風景が、重なって見えた。片方が濃くなって片方が薄くなるを繰り返したのちに、交差点ではなくて、ブロック塀を歩いていた。しかし、足を下ろそうとした空間には何もなかった。
そのままバランスを崩して落ちてしまったんだ。僕の意識はそこで途絶えたんだ。
次に目が覚めたら、ものすごい美人が僕のことを覗き込んでいた。シグマも何度か顔を合わせているよね。こっちのかなたの母親の美沙子さんだ。
僕は今の自宅の客間に寝かされていた。なんでも、丸一日寝ていたらしい。美沙子さんの目には涙の跡があった。目が覚めたら、泣きながら僕のことを抱きしめてくれた。
もう夜遅い時間だったこともあり、美沙子さんにお風呂に入ってくるように言われた。でも、初めての家でお風呂の場所がわからない。美沙子さんが不思議そうに脱衣所に案内した。洗濯機のかごに、着ているものを入れておくように言われ、服を脱いでいる途中で気づいた。
下着が小さい女児のものなんだ。慌てて鏡を見ると、小学生の顔が映っている。これはもしや、と僕は思った。着ていた普段着はまるっきり男の子だったから全く気づかなかったよ。髪の長さは男の子でも女の子でも通じそうな長さ。
お風呂から上がると、美沙子さんと陽一郎さんが怖い顔でテーブルについていた。彼らは僕のことをもちろん娘として叱ろうとしたが、僕の一言はその気分を削いだ。
「あの、2人はどなたで、僕とどういう関係ですか?」
中身は二十代男性だからね。年齢以上におとなびた口調で話す僕を不審に思ったのだろう。わざとそうしたんだけどね。
しばらく、記憶喪失のフリをしているのか、怒られるのが怖くて演技をしているのかを確かめる尋問が続いたよ。でも、最後には二人の目は諦めとも悲しみとも言えない色をしていた。彼らは最愛の娘とはもう会えなくなってしまっていて、その同じ姿形をした別人がそこに座っていると感じたのかもしれない。僕の心に少し罪悪感が湧いて出た。
たぶんそれが顔に出たんだろうね。美沙子さんは何かを決心した顔で立ち上がった。静かに僕に近づくと、椅子の後ろから僕のことを抱きしめた。
「あなたの名前は逢坂かなた。私たちの娘。覚えておいてね」
なぜか強いな、って思ったよ。でもこの感想は正しかった。僕はこの強さに、なんども助けられるんだ
僕自身には、中学受験は経験ありません。
時代は昭和。勉強はしないといけない、進学先は男子校ばっかり。
どうして、勉強して、校則の厳しい学校に行かないといけないの、って思っていました。
今はリベラルな共学校が選べるのでいいですよね。今なら受験するかなあ。
プロローグと一緒に投稿したつもりなのですが、めっちゃ入ってなかった。




