第85話 出陣
石や泥が掘り起こされたような惨状の警察所の庭では、あやかし連合の隠れ家へと向かうため、隊士たちが整列し、相良の指示を待っていた。
隊士たち――と言っても数は少ない。
警察隊隊長相良を筆頭に、副隊長の一ノ瀬、三番隊隊長の黒崎、四番隊隊長のエリオット。
第一隊副隊長の藤堂に続き、高岡、高木、山村。
新人隊士の岩崎、神崎、榊、ほか五名だ。
「物々しいなぁ」
突然、門のあった方角から懐かしい声が聞こえる。
「綾小路か」
相良が廊下のあった場所より驚いた様子で駆けつけた。
「まだ、外に出るには早すぎるだろ」
「先生にも同じこと言われたわ」
右手を肩から吊り下げ、背中を丸めた綾小路が興味深げに庭で隊列を組む隊士たちを眺める。
「みんな、ボロボロやけど大丈夫?
あ、これ、警察所、大変やったねぇ」
「お前が一番ボロボロだと、皆には伝えてある」
相良は歩こうとする綾小路に手を貸した。
「綾小路さんのおかげで、みんな助かりました」
いち早く一ノ瀬が綾小路の前で頭を下げた。
「紫苑くん、ほんま可愛いなぁ。
京都警察に一緒に来てくれる?」
「まだ言うか」
相良のため息に、隊士たちの間で笑いがおきた。
「いよいよ乗り込むんか」
ふざけた調子から一転、綾小路の目が相良に向く。
「あちらも、かなり消耗しているはずだ。
その隙に一気に叩く。
問題の相手は、あやかし連合の頭だけだ。
決着はすぐにつくだろう」
「居場所は私の式がつきとめている」
黒崎は脛当て小手などもつけず、いつもどおりの身軽な装いだ。
「黒崎さんは相変わらず、抜け目がないねぇ」
先日まで信用もしていなかった黒崎を、綾小路は頼もしげに見やった。
「京都警察のこと」
相良は綾小路に、まだなんとか形をなしている廊下の隅に座るよう促す。
「困ったことがあれば、いつでも黒崎に式をとばせ。
ワシが直接出向く」
「いやいや。
多忙な相良隊長を呼び寄せるなんて無理やろ」
「それでもだ」
相良のはっきりとした形の目が、綾小路を真剣に見つめる。
「ワシは恩義は倍にして変えす。
それに、もしお前が、ワシに背中を預けられると思えるのなら……」
綾小路は目を丸くした。
「お前は京都で、目一杯、やるべきことに取り組むことができるだろ?」
「相良さん……」
綾小路は、少し困ったように目を閉じた。
「あんた、ほんま。
すごい人やな」
しかし、嬉しそうな笑顔で相良を見上げた。
「相良さん、準備は整いました」
一ノ瀬は右腕を巻木綿でつり、胸は固く布で固定した状態で防具をつけていた。
動くたびに折れた肋が痛むのか、眉を潜めている。
「紫苑。
お前は刀は抜くな。
変に動いて肺まで傷めたら洒落にならん」
「わかってますって」
「私は皆が帰ってくるまで、ここで待ってますから、全員ご無事で」
綾小路は隊士たちを見回した。
「近衛は必ず連れて帰る」
相良は出陣の合図を送った。




