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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第五章 あやかし連合による警察所襲撃
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第83話 覚醒

元輝は村まで必死に駆けた。


足は泥に塗れ、着物がはだけるのも気にせず、手には ――





―― 子供が持つには長すぎる日本刀を持っていた。





はぁはぁはぁ





妖の言葉が耳から離れぬ。





清雅を殺すだと?





景色が変わる。





山々が見えて、田んぼが広がり始めた。




目の前に黒い鳥が飛んでいる。




頭の中に「こっちだ」と男の声がする。




鳥の飛ぶ方角にひた走る。





古い寺が見えてきた。




一度も足を踏み入れたことのない薄暗い領域。





「いやぁだ!」




清雅の泣き叫ぶ声がする。





元輝の走る速度が上がった。




階段を駆け上がり、一番上を目指す。




頭の中には何もなかった。





視界が開けた。





そこには ―― 





白い着物を着た血まみれの ―― 





「母上!!」





元輝はすぐに倒れている母のそばに駆け寄った。




その目の前には、脇に清雅を抱き抱え、血のついた鍬を持つ数人の男たち。




その手は元輝と清雅に、いつも柿やおにぎりを分けてくれる手であった。





「おまえたち。


 なぜ―― 」




元輝が言い終わる前に、後ろに隠れていた女が慌てたように前に出る。


近衛家で働く奉公人の一人だ。





「元輝様は関係ありません。


 悪いのは、この親子です」




「元輝様!


 こいつは」




村人の一人が鍬を母に向ける。





「狐の妖だ」





「……」





「狐?」





琵琶の音がなる。





「妖は殺すべきです!」


男が捲し立てる。






「……元輝……」




母の赤い目が元輝を下から見上げた。




「ごめんね」




元輝は何も言わない。




「でも、これだけは信じてほしいの」




「にいちゃま」




清雅の元輝を呼ぶ声がする。




「人を守る、妖もいるということを……」




元輝の目が見開いた。




「でも……」




刀を持つ手が震える。




「母上は、私に嘘をついたのですね」




「いいえ」




静は血まみれの手で、元輝を抱き寄せた。




「母の愛はすべて、本物です」




母の背から狐の尻尾のようなものが見えた。





(私の母は、私を捨てた。


 しかし、妖の母は私を大切に育てた)




元輝は母を抱き寄せる。




「人も妖も関係ない」




元輝の日本刀を握る手に力がこもる。




「元輝。


 あなたは、妖と」




静の柔らかな笑みが元輝を包む。




「妖と仲良くしてください。


 そして ……」




もう一度、強く抱きしめ耳元で囁く。




「この国の妖と、清雅を守ってくださいね」





その瞬間、元輝の目に憎悪の炎が宿った。




静は満足そうにその目を見る。




「あなたには、才能があります」




そう言うと、自らそっと横になり、そのまま息絶えた。





「元輝様!!」




村人たちと奉公人の女は、元輝のまとう雰囲気が変わったことに気づき後ずさる。




「たぶらかされてはいけません!」




男が何事かを叫んだが元輝は手に持つ日本刀の鞘を抜き放った。




赤い刀身が鈍く光る。




村人たちは思わず手に持つ農具を構えるが顔は怯え切っている。




清雅はするりと村人の脇から滑り落ちると、転げるように母の元に走りよった。




しかしその目は、刀を構える兄に釘付けだ。





「私の大事なものを奪った」




元輝の言葉に呼応したように周囲の木々がざわめき、鳥たちが奇妙な声をあげる。




滑らかに、優雅に、元輝は刀を振り翳した。




―― ザクッ




肉を切る音が耳をつく。




清雅の目の前を、赤い牡丹の花弁のような、生暖かい血が撒き散らされた。




時折り、聞こえる叫び声。




まるで、色鮮やかな舞を見ているようだった。




幼い清雅と、その場に駆けつけた藤乃は、不思議な気持ちで元輝と村人たちの舞を見続けていた。

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