第78話 復活への兆し
「相良隊長!
薬は、診療所にすでに運びました。
残りはこれで全てです!」
岩崎は門から薬の入った大袋を持って現れた。
同時に、警察所のありさまに唾を飲む。
「こんな……」
急いで榊と神崎を目で探した。
「岩崎!!」
榊と神崎が駆け寄ってくる。
岩崎は二人を思わず抱きしめた。
「無事でよかった」
三人は強く抱き合った。
「黒崎、薬だ」
相良は柱の横に座り込む黒崎のそばに駆け寄り包みを渡す。
「私より先に一ノ瀬に……」
黒崎は受け取った薬を相良に突き返した。
「なんだ、お前……」
「一ノ瀬の方が私より必要です」
相良は不思議そうに黒崎を見やる。
「お前たち、
ワシがおらん間に、仲良くなったか」
「……」
顎をさする。
「なってません!優先順位を言ったまでです」
相良の顔がにやりと笑った。
黒崎がわずかに睨む。
「わかった、待っておれ」
言うと一ノ瀬のところへ走った。
一ノ瀬は横たわったまま目をつぶっていた。
「紫苑、薬だ。
飲め」
頭を抱き上げ、一ノ瀬の頬を叩く。
「紫苑!」
二、三回叩くと
「痛い」
うっすら目を開けた。
「ほら、薬だ。飲め」
「いらない」
顔をそむける。
「はぁ?」
相良の顔が引きつった。
「黒崎さんを先に」
声が聞こえたのか黒崎がわずかにこちらを向く。
「なぜだ?
せっかく綾小路が命懸けでもってきた薬を……
なぜ誰も、飲まん?」
「黒崎さんが飲んだら飲む」
一ノ瀬は口と目を強く閉じた。
「なぜだ?」
「苦いかもしれないから」
黒崎の舌打ちが聞こえた。
「相良さん」
一ノ瀬は閉じていた目をうっすら開け、相良を見上げる。
「おかえりなさい」
そして、少しだけ笑った。
「ああ」
相良は息を吐き出した。
「よく、持たせてくれたな」
一ノ瀬の頭をなでる。
「警察所、ボロボロになったけどね」
一ノ瀬の言葉に相良は周りを見渡す。
「建て直せばいい。
それだけのことだ」
あちこちで薬が配られた。
巫女たちが水を持ち走り回る。
薬を飲んだ隊士たちの息遣いが少しずつ緩やかになる。
高岡は鬼頭のそばに駆けつけた。
「鬼頭隊長!」
鬼頭がの視線が高岡に向く。
「すまなかったな。
早々に戦線を離脱した」
「焦りましたよ」
高岡は本心を言った。
「俺、最後までなんとか持ち堪えたみたいです」
「そのようだな」
鬼頭は笑ったが、傷に響いたのか顔をしかめた。
「お前は立派だ」
高岡は頭をかいた。
「藤堂さんのところに行ってきます」
「ああ」
高岡は怪我人を一人ずつ見て回った。
病人には巫女と新人がついている。
藤堂。
エリオット。
田村。
そこで足を止める。
「……」
九曜の苦しそうな顔が浮かぶ。
(あいつだけ、助からないとか、ないよな)
暗かった空に淡い明るい色が差し込み始めた。
鳥たちの声がこだまする。
冷たくさす空気が一瞬緩やかになる。
朝がくる。
高岡の深いため息が、白い息となって新しい空気の中に溶け込んでいった。




