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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第五章 あやかし連合による警察所襲撃
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第77話 相良の帰還

「よく耐えた」


相良は、振り返らずに言葉を発する。




足元を見る。




三人の隊士が無惨にも血を流し倒れていた。




庭の奥を見る。




高岡と神崎がこちらを見ていた。




倒れてはいるものの、生きているものが数人。


その中には肩から血を流した藤堂の姿も見える。





庭に面した警察所の廊下は踏み破られ、柱は薙ぎ倒され、奥の座敷まで丸見えだ。




松明から燃え移ったのか、あちこちで、ゆらゆらと炎が微かに燃えていた。




月の光と、炎の影が照らす部屋の奥。


横たわった隊士たち。





動かぬ鬼頭の周りに巫女が座っていた。




畳に横たわり目を瞑る一ノ瀬を見る。


生きているのか?




―― 一瞬、相良の足が向く。




だが、その横の黒崎と目が合った。


黒崎が、かすかに頷く。






元輝の方へ向き直る。




エリオットが後ろ向きに縛られたまま「申し訳ございません」と謝った。





「貴様……」


相良はぼそりとつぶやいた。





「貴様!!」


再度、大声で叫んだ。





「ワシの警察所で何しておる!!!!」





相良の大声が警察中に響き渡った。


冷たい静かな冬空を揺るがし、町中にも聞こえたのではないかと榊は思った。





「あなたが、噂の」


そう言うと、元輝は音もなく踏み込んだ。


瞬時に間合いを詰める。




秒速の剣を、相良はすぐに抜き放った鳳焔(ほうえん)で、素早く受け止めた。




―― ガキィインン




音が後から響き渡る。




「警察隊隊長の剣技、とくと見せてもらいます」




「のぞむところだ」




相良は元輝の刀を下にいなす、そのまま横に刀を振るうが元輝はそれをなんなくかわす。




相良はすぐに間合いを詰めて脇を狙う。




ギィイイン




「あなたは」




元輝はそれを刀で受けながら体制を低く保つ。




「私から清雅を奪った」




「!?」




相良の刀が一瞬ぶれる。




その隙を元輝が踏み込む。




相良の肩口が裂けた。




「相良隊長!」




「騒ぐな! かすり傷じゃ!」




相良はすぐに体制をたてなおす。




「なんのことだ」




「清雅は私の弟だ!」




強い声とともに、諸手突き。




鋭い突きを下から上に滑らせ相良は体ごと元輝に近づく。


二人の顔が間近に付き合わされた。


ギリギリとお互いの刀が音をたてる。




「清雅がお前の弟?」




相良の問いに、元輝の口元がおかしそうに歪んだ。




「聞いていないのか?


 誰からも?」




「……」




「ずいぶん、蚊帳の外だな。


 相良隊長」




相良は元輝の胸に鋭く肩を押し当てた。




「ぐっ」




たまらず元輝は距離をとった。




「たいしたことではない」




相良はすかさず踏み込む。




元輝の頬から血が飛び散る。




「必要なことのみ報告すれば良い」




鋭い突きの連続。




元輝は必死に受ける。




両肩、両腕に刀の切先が触れ、血が吹く。




「お前と清雅の関係など、どうでも良いことだ」




ザクッ!!!




元輝の胸元が薄く斬れた。





「はぁはぁはぁ」





元輝は頬に流れた血を袖で拭う。





「どうでもいいだと?」




中段の構え。




相良の心の臓へ刀を向ける。




「私にとっては命だ!」




言うと一気に踏み込んだ。





鋭い突き。





早い ――。





高岡は目で追えなかった。





「相良隊長!!」





相良はわずかに刀を突き出し、元輝の攻撃を左肩へ滑らせた。




力任せに踏み込んだ一撃をかわされ、体制を崩す。




その元輝の胸元へ、相良の肩がめり込んだ。





―― ゴホゴホ!!





片膝をつき咳き込む元輝を相良は上から冷たく見下ろした。





「だから、なんだ?」





ぎりぎりと、奥歯を噛み締める音が聞こえる。


元輝は手元を見た。


「なんだとは、なんだ」




両手を土につける。




「お前に何がわかる!!!」




言うと同時に、地面の奥から化け物の類が一気に噴き出る。




「また出たぁ!!」


高岡が頭を抱えてその場にうずくまった。





相良の周りに複数の手があらわれ足を掴む。




「相良隊長!」


榊が刀をふるい、足元の妖を切り刻む。





「貴様!


 己の力で戦え!」




相良の怒号に、「これも私の力だ」元輝は相良から距離をとり、刀を構え直す。




品の良い顔が、憎しみに歪む。




踏み込もうとする元輝の足に、今度は人間の白い手が伸び動きを封じた。




「黒崎!」




相良は後ろを振り返った。


柱に寄りかかりながら、いつの間にかこちらまで来ていた黒崎が印を結んでいる。




「お前はそれ以上動くな!」




「しかし!」




「お前には」


元輝が相良に向い叫ぶ。




「これだけ仲間がいるのだ!」


足元の白い手を刀で斬り刻む。




「清雅まで奪うな!」




(話がそれておる)


相良は舌打ちした。





黒崎の妖の手を振り払った元輝が相良に迫る、まさにその瞬間。




「元輝様!!」




藤乃が壁を飛び越え姿を現した。




「清雅さまが!」




元輝は藤乃の顔を見た。




「お身体が ――


 このままでは危険かと」




元輝は素早く刀を鞘に戻す。




「戻るぞ!」




踵をかえし、門の方へ向かう。




「待て!!」


相良が追おうとしたが「相良隊長!」


黒崎が呼び止めた。





相良は後ろを振り返る。





打ち砕かれた警察所。


病に苦しむ者たち。




「今は……」




相良は目をつぶった。




「岩崎!おるか?


 薬をもってこい!」




(今は、こちらを優先する)




相良はすぐに、畳の奥に横たわる者たちのところへ駆けつけた。





「近衛……」




高岡だけが一人、門へ姿を消した元輝の方をずっと見ていた。

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