第75話 最後の戦い
『清雅、もう戻らんとまずいことになる
聞こえておるか?』
九曜は太刀を振るい、庭に溢れ出した妖のほとんどを葬り去った。
警察所内は、静まり返り、妖たちの残骸は地面へと吸い込まれていった。
共に戦った高岡と藤堂、新人の神崎は、すでに立つのも限界だ。
「九曜、助かったよ。
お前が来なかったら色々ヤバかった。
あと、一ノ瀬隊長を助けてくれてありがとう」
高岡は九曜の前に立ち、頭を下げた。
「ところで、近衛はどこにいる?
近衛も一緒なんだろ?」
高岡が九曜を見上げると、九曜は前のめりに倒れるように、片膝を地面についた。
巨体が地にぶつかり、地面がかすかに揺れる。
「おい。どうした?
どこか、やられたか?」
高岡、藤堂、神崎だけではなく、入り口にいた第四隊の隊士たちも集まってくる。
『清雅がまずい……』
「え?
なに?
あいつに、何かあったのか?」
高岡は周りを見渡す。
なぜ、九曜だけが、ここにいるのだろう。
「来てみれば、まさかの我らの敗北だったとは!」
突如、誰もいないと思われた入り口から、おかしそうな笑い声とともに、男の声がこだました。
「誰だ?」
エリオットは銃を構える。
「人に名を尋ねるときは、己から名乗られよ!」
手には刀ではなく扇をもち、左右に鬼のような従者を連れた上品な男が足音もなくあらわれた。
あやかし連合の頭であり、清雅の兄、元輝である。
高岡は思わず後ずさった。
(最後にヤバい奴が出てきやがった)
元輝は扇で顔を隠していたが、笑っているのか、肩が上下に揺れている。
「しかし……」
そこで、わざとらしく、荒れ果てた警察所をぐるりと見渡した。
「散々なことで」
「お前のせいだろ!!!」
思わず高岡は叫んでいた。
藤堂に肩を掴まれ「冷静になれ」とたしなめられる。
しかし、高岡はそんな藤堂の手を振り払った。
(こいつのせいで。
こいつのせいで!!)
仲間たちが苦しんでいる。
元輝の目が、鋭く高岡を睨みつける。
がしかし、その目はすぐに背後の九曜に釘付けになった。
驚いたように目を見開く。
(なぜ、お前がここにいる)
「銃を構えろ!」
口火を切ったのはエリオットだ。
すばやくマウザーC96を構えた。
ほぼ同時に、地面から蔦のようなものがあらわれ、エリオットの腕に絡みつく。
「なに!?」
完全に動きを封じられたエリオットは銃を取り落とした。
エリオットの首にも蔦が巻きつけられ、首がしまる。
「エリオット隊長!!!」
榊が駆け寄ろうとするが、元輝が手で制した。
「私は、これが好きではないのだ」
元輝は、落ちたマウザーC96を拾い、そのままエリオットの額にそれをゴリゴリと押し付けた。
「やめろ」
藤堂の顔が引き攣る。
「?
そうか」
元輝は、エリオットの額に押し付けていた銃を、ぐるりと体ごと回転させ、藤堂の額へと狙いを定めた。
「やめろ!!!」
高岡が叫んだと同時に、銃を撃つ音が警察中に響き渡った。
ドサリ ――
藤堂が倒れる。
皆、動けなかった。
「藤堂さん……」
高岡はがっくりと膝をつくように藤堂の横に座り込む。
動かなくなった藤堂を抱き起こした……。
「うっ」
高岡が抱き上げると、意外にも藤堂はうめき声を上げる。
弾は額からそれて、肩に当たっていた。
「生きてた……」
(良かった)
全員の緊張が一瞬でほどけた。
「意外と難しいなぁ」
元輝は、撃った銃を、おもちゃを眺めるようにじっと見つめた。
「私には向いていない。
お前たちが倒せ」
言うと、元輝は横に並ぶ鬼たちを呼び寄せる。
そして、銃を放り投げ、自らは刀を抜き放った。




