↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第五章 あやかし連合による警察所襲撃
PR
74/91

第74話 お前の考えはわからん

頭の奥で何かが響く。




少しずつ耳元に音が戻ってくる。





―― ガキィン





耳の奥で響く刀を打ち合う音。




目を開けると、暗い空が飛び込んできた。





打ち砕かれた壁や倒れた柱。




踏み砕かれた廊下に目をやると、土煙がたちこめる庭が見渡せた。





「どこ?ここ」





一ノ瀬はぼんやり瞬きをする。




庭で太刀をふりまわす九曜が目に入った。




その瞬間、一気に記憶が舞い戻る。




(そうだ。


 確か、遮那に飛ばされて)




素早く目だけを周囲に走らせる。




―― 周りに妖の姿はない。




九曜が全て斬り捨てたのだろう。






壁際に横たわる複数の隊士。


巫女たちが一人一人の状態を診て回っている。




その隅に、目の当たりまで巻木綿で頭を固定された鬼頭が横たわっていた。




(鬼頭さん―― 


 大丈夫かな。ずいぶん高いところから落ちたようだけど)





畳の真ん中あたりには、病で動けぬ隊士たちが体を折って折り重なっている。


皆、視線は庭で戦う九曜に釘付けだ。




(皆が無事だったのは、清雅くんのおかげだ)




そこで息をのんだ。




(清雅くんはどこ?)




一ノ瀬は起きあがろうとした。




が、体が動かない。


痛みが全身を駆け抜けた。




いつの間にか自分も畳の上に寝かされていたようだ。




頭の下、今、頬に触れたあたりに柔らかい何かが当たった。






―― 枕 ?






「起きるな」




冷たい言葉が上から降り注いだ。




「そのままでいろ」




一ノ瀬は目だけで声のする方を見た。





一ノ瀬の頭の上、柱にもたれて座り込む黒崎が見えた。


顔色が悪い。


黒崎もずいぶん無理をしたのだろう。





「起きてないけど」




体を起こそうとして気づいたが、右手が折れている。




多分、肋も。





一ノ瀬はもう一度頭の下に敷かれている柔らかい布を見た。




丁寧に折り畳まれた黒の羽織。




よすみも、丸くなるように綺麗に折り込まれていた。




几帳面にもほどがある。





「黒崎さんの匂いがする」




黒の羽織に鼻をつきつける。




「返せ」




引っ張られて、頭を打った。






「お前には、致命的な問題がある」






羽織を身につけながら、相変わらず感情のない声で黒崎が続ける。





一ノ瀬はふっと視線を九曜に戻した。




九曜の戦う姿勢に違和感を感じる。




足元が―― 




ふらついている?






「お前は


 自分の意志と、体の限界が釣り合っていない」






一ノ瀬は横に置いてある鳳切に手を伸ばした。




黒崎の目が、一ノ瀬の左手に向く。






「しかし、お前だけではない」






黒崎の話は続く。





ゴゴゴ





鳳切をつかみ、少し引き寄せる。






「近衛も同じだ」






ゴゴゴ






鳳切の柄が畳に擦れて音をたてる。






「自分の体の状態を知ろうとせず、意志だけで突き進むのは、死を早めるだけだ」





ゴゴゴ





ついに、自分のすぐ近くまで鳳切を引き寄せることに成功した。




刀をつかみ、再度立ちあがろうとした。




その時。





黒崎がものすごい速さで一ノ瀬の左手を抑え込み、真上から一ノ瀬の顔を見下ろした。





「お前は私の話を聞いているのか!!?」





「鬼のように怖い顔」





一ノ瀬は下から黒崎を見上げて目を細めた。





「私はお前が死のうとかまわん。


 だかな!!!」




上から押さえつけたまま黒崎が言葉を発する。




唾が落ちてきそうなほど激怒しているため、一ノ瀬は顔をそらして口を閉じた。





「お前は隊の副隊長だ!


 言っておく義務が、私にはある!」




柄ににもなく感情的になった自分をなだめるように、大きく息を吸う。




同時に、一ノ瀬から距離をおいた。





「己の限界を把握しろ!」






静かになった。




(清雅くんは、どうしたんだろう)




一ノ瀬はふっと、目を細めて九曜を見る。




黒崎は一ノ瀬を見ていた。





「でもね」




九曜を見たまま一ノ瀬は言葉をつむぐ。





「意志が、限界を上回ることも


 あると思うから」





黒崎の眉がぴくりと動いた。




「限界を上回らないと……」




一ノ瀬の目が九曜を見ている……ようで、


もっと遠くを見ていた。




「隊を強くすることはできないから」




黒崎は視線を外す。




一ノ瀬と同じく九曜を見た。





ふらついている。




妖が?





(もしかしたら……)




黒崎は目を瞑った。




自分にもあったのかもしれない。




限界を超える。




そうして戦ってきた時代が……。






「一ノ瀬」




黒崎が珍しく優しい口調で話しかける。




「私には、お前の考えはわからん」




「ふふ」




「何がおかしい」




「それ」




一ノ瀬は黒崎の方を目だけで見やる。




「よく言われるから」





黒崎の口元が、ほんのわずかに緩んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。