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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第五章 あやかし連合による警察所襲撃
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第73話 もう一つの戦

清雅は一人、暗い畳の上で横たわり、何もできない自分を責めていた。


今頃、多くの隊士が、妖に傷つけられているだろう。


そして、命を奪われる。




悔しくて悔しくて、涙も出ない。




指ひとつ動かすことも叶わぬ。




時折、藤乃が様子を見にくる。




自分が生きているのかを確かめているのだろうか。





(俺は、約束したのに……。


 一ノ瀬さんと、あの時、約束したのに……)





このままでは、本当にただの裏切り者だ。




『清雅……』


九曜が珍しく名前で呼んでくる。




『主はワシを解放しろ』




(?)




今さらだ。




(別に、九曜を縛ってるつもりはないけど)




清雅は、はいつくばったまま頬を膨らませた。




(俺から自由になりたいなら、勝手に出ていけばいいだろ)




『そういう意味ではない』


九曜の呆れた声が聞こえてくる。




『ワシはお主の式じゃ』




そういえば、黒崎もそのようなことを言っていた。




『そう。


 黒崎も式を自由に解放し、自分の代わりに様子を見に行かせておったじゃろ?』




―― なるほど。




清雅は目だけを九曜の方にやる。




(どうすればいい)




『ワシに主の力を送れ』




力……。




『主が、ワシを刀から呼び出す時のように、強い信念をその身にやどせ』




(ちょっと、よくわからないんだけど)




『主は、相変わらず糞じゃな!!!!』





―― 喧嘩になった。






はぁはぁはぁ。





清雅は息切れする。




なんか、体が動かないだけじゃない。


体が蝕まれている感じがする。




『妖が体内に入り、動きを封じておる。


 つまり、変に動こうとすると、体を蝕む』




(そうか。


 先にそれを言えよ)




『言葉遣いがなっとらん』




九曜はため息をついた。




『ワシをときはなて。


 しからば、ワシが警察所へ出向き、お前のその目に、今の状態をうつしてやる』




(そんなことができるのか)




『だが、主の体が蝕まれる』




(この、兄の放った呪のせいだな)




清雅は目を瞑った。




(俺の体など、どうでもいい。


 九曜、俺の代わりに警察へ……)


清雅は再度、九曜を見た。




(皆のところへ行ってくれ)




『相分かった』





―― 九曜が赤く光る。




清雅の髪がふわふわと風になびく。




目が赤くなり、胸が熱くなる。





―― 皆を助ける。




―― 約束を果たす。




それが今、自分にとっての全てだ。








―― 警察に着くと、九曜の目から全てが見てとれた。




   突き破られた塀。


   薙ぎ倒された木々。




   皆がいつも集う庭は、土がめくれあがり、大きな石が散乱していた。




庭を見下ろせる廊下も踏み荒らされ、柱が折れた警察所は、屋根さえも崩れ落ちていた。





その奥で、巨大な砂の化け物が、今まさに一ノ瀬を踏み潰そうとしていた。




一ノ瀬は力無く柱にもたれ、動こうとしない。




『一ノ瀬さん!!!!』




清雅の叫びと同時に、九曜が太刀を振るう。




清雅の怒りが、九曜の体を使って、敵の巨体を薙ぎ払った。




砂の化け物は、一瞬で塵と化した。




『無事でよかった』




無事?なのか。


もはやわからない。




ただ、命があって良かった……。




清雅、いや、九曜は一ノ瀬の前で膝をつく。




大きな左手を、柱にもたれたままこちらを見上げる、一ノ瀬の前に差し出した。





「清雅くんは……」


一ノ瀬はわずかに左手を差し出す。


「大丈夫なの?……」


清雅は一ノ瀬の手を握った。




一ノ瀬の手指の震えが伝わってくる。






―― 大丈夫ではない。




   身体中が痛い。




   妖が、体の奥に入り込んでくるのがわかる。




しかし ――




清雅はゆっくりと頷いてみせた。




「良かっ……た」




一ノ瀬の身体から、ふっと力が抜けた。




「一ノ瀬さん?」


「……大丈夫」




目を閉じたまま、小さく答える。




「ちょっと……休むだけ」




そのまま言葉を切った。





九曜は立ち上がる。




『信じてくれてありがとう』


ここからは、俺が警察を守る。

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