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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第五章 あやかし連合による警察所襲撃
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第71話 戦局を覆す

「なんで……」




高岡は震えた。




「体……大丈夫ですか」




問いながらも口が震えている。




後からきた恐怖からなのか、一ノ瀬の剣技を間近で見たからなのか……わからない。




この場を自分が仕切らなくてよくなった……




その安堵感が大きいかもしれない。




ただ、高岡の全身は震えていた。





「よく頑張ったね」




一ノ瀬はそんな高岡を横目で見ると、すぐさま牛の化け物に歩み寄った。





「そいつ……」


高岡は一ノ瀬の背中に話しかける。


「めちゃくちゃ硬いです」




「そう」




前をむいたまま答えると、腰を低くする。




雄牛の化け物は、今頃、自分の腕がなくなったことに気づいたように雄叫びをあげた。




一ノ瀬を見る目が狂ったように見開かれる。





―― グァアアアアアア





雄叫びと同時に、残った拳を振り上げる。





ズドォオオオン!!!





拳が地面を直撃し、足元が揺れた。





一ノ瀬は素早く背後に回り込む。





「足かな」




言うと、一瞬で間合いをつめ、脛当ての隙間、肉が見えているあたりに刃を滑らせる。





キィイン!!!!





皮膚が刃を弾き返した。





牛の目が光った。





頭を前に出し、角で一ノ瀬を狙うが、一ノ瀬は軽く飛んでそれをかわす。





「そいつ、皮膚も硬いです!」


高岡は神崎に支えられながら立ち上がった。




「一ノ瀬さんの馬鹿力でも無理かも!」




「え?」




高岡の叫びに、一ノ瀬が驚いた顔をする。




「馬鹿って誰が?」




「そこかよ」




もはや敬語は捨てた高岡。






「ならば」




一ノ瀬は牛から十分に距離をとった。




「ダメですって!


 距離をとったら、走って突っ込まれます!」


高岡が叫ぶ。




高岡は気が気ではなかった。




(一ノ瀬隊長、本当に大丈夫なのか?)




雄牛はしてやったりとでも言いたげに鼻息を荒くし、走り込みの姿勢をとる。




「来ます!!!」




ものすごい勢いで一ノ瀬目掛けて突進してくる。




一ノ瀬はギリギリまで引き寄せ、すっと身をかわす。


そのまま相手の勢いを使い、アキレス腱を狙った。





―― ザクッ!!





深く刀を差し込むことはできない。


しかし、肉に刃が通った。





雄牛はすぐさま体を一ノ瀬の方へ向ける。




「また来ます!!」




高岡は、一ノ瀬が自分のように吹き飛ばされないかと唾を飲み込む。




高岡を支える神崎の手にも力がこもっていた。





雄牛は、先ほど斬りつけた足の傷をもろともせず、またもや一ノ瀬目掛けて突進してくる。


それを再度かわしながら、先ほどと同じ箇所を正確に斬りつける。




それを何度も行う。




高岡と神崎の額に汗が滲み始めた。




一度でもふきとばされたら終わりだ。





「一ノ瀬隊長。


 何を狙っているのですか?」


神崎がひとりごちた。





雄牛の目が怒りにたぎる。


突進した直後、雄牛はまたすぐに一ノ瀬の方に向き直った。


そのとき





―― ブチリ





何かが切れた音がした。





ギィエエエエエエエエ!!!!





雄牛の絶叫がこだまする。





何度も切り刻んだアキレス腱が、数度に渡る走り込みに耐えかね、体ごと一ノ瀬に向き直った瞬間に、ついにぶち切れたのだ。





「よし!」





一ノ瀬はその瞬間を待っていたかのように跳躍し、地面につっぷす牛の首あたりに飛び乗った。





「終わりだ」





首と鎧の境目。


唯一、肉の露出した一点へ――


刀を振り上げ。


振り下ろす。





首に刀を突き立てられた雄牛は、叫ぶこともなく、そのまま静かに地面に突っ伏した。





高岡と神崎は呆然とその光景を見ていた。




「化け物を一人で倒した……」




一ノ瀬は牛から飛び降りると、二人のところへ静かに歩み寄った。




「硬いところを斬らなければいいんだよ」




言うと二人に笑いかけた。




「……」




「そんな、正確に狙えないから、みんな苦労しているんです」


高岡は一ノ瀬の顔を見ながらため息をついた。






「妖、大量に来ます!!」


榊の声が聞こえる。




大型の妖に気を取られている間に、庭には妖たちが溢れかえっていた。




「くそっ。


 神崎、まだ戦えるか?」


高岡は木に刺さった剛鳳を抜き放つ。




「はい!」




見ると、ボロボロの警察所から、病にふせっていた隊士たちも、刀で体を支えながら出てきた。




「刀を持てるものは、ひとまとまりになって戦え!!」




奥に引っ込んでいたはずの佐倉まで、手に刀を持ち庭に飛び降りる。




「一ノ瀬隊長に続け!!!」




誰かが叫ぶ。




高岡が頭をめぐらせると、一ノ瀬はすでに、妖が溢れている場所に走り込んでいた。




刀を一閃すると、複数の妖が斬られ宙を舞う。




「援護は任せろ!!」




壁に体を預けた黒崎が、印を結びながら叫んだ。




巫女たちも、踏み潰された廊下まで姿をあらわし、祈りを捧げる。




倒れていた隊士たちも起き上がった。




「いける!」


高岡の鼓動が早まる。




「一ノ瀬隊長がいる」


高岡は警察所を見る。




「黒崎隊長の援護もある!」




隣にいる神崎の肩を強く叩いた。





「警察所を守り抜くぞ!!!!」




誰かが叫んだ。




『オォオオオオオオ!!!!』




隊士たちが叫ぶ。




「持ち堪えられる!」


高岡は、期待が確信に変わったと感じた。






しかし、黒崎は顔をしかめていた。




目線の先には、先頭で刀をふるう一ノ瀬がいる。




すでに肩で息をしている。




(一ノ瀬……)


黒崎は素早く式を呼び出した。


援護をするためだ。




(あいつがどれくらい持つか……


 それまでに、相良隊長が戻られるか……


 それが勝負だ)




黒崎は一人、冷静に戦況を分析していた。




そんな黒崎さえも気づかなかった。




盛り上がる警察隊の庭で、倒れていたはずの遮那の骸が忽然と姿を消していた。



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