第69話 高岡の奮闘
次々と入り口から入り込む妖たちを、鬼頭、高岡、ほか前衛の十人の隊士たちは、二人ひと組になり斬り捨てていく。
後衛の隊士はまだ無傷だ。
つまり、余力を残したまま遮那と司令塔であった人間二人を倒したことになる。
「いけるかもしれんぞ!」
鬼頭の声が高くなる。
「まだ、でかい妖が二体残っています」
高岡は冷静に返した。
入り口での銃声が聞こえ出した。
エリオット達、第四隊だろう。
(入口での攻撃も持ち直した!)
高岡の気分は高まり、戦う意欲が燃え上がった。
「よし!
目的は、相良隊長が戻るまで、この場を持たせることだ!
体力を温存して戦え!」
鬼頭は皆を鼓舞した。
自分も周りも無傷だ。
いける!!
このまま、警察所を守り抜く!
誰もがそう思った瞬間
―― ドドォン!!!
入り口ではない!
警察をぐるりと囲む強固な塀が突然吹き飛ばされた。
予想外の出来事に、顔を腕で庇いながら、隊士たちは土煙の舞う方向を見た。
白い煙の中から、鱗のような頭が見え隠れする。
同時に剥き出しの鋭い牙とチョロチョロと細い舌。
「蛇の化け物?」
高岡が思わず口走り後ずさった。
「二体目の巨大な妖か!」
言うなり鬼頭が一番に走り出した。
つられて高岡も後を追う。
「鬼頭隊長!
一人では危険です!」
鬼頭は走りながら水平に刀を構える。
(他の隊士たちに怪我はさせたくない)
鬼頭は焦っていた。
先ほど感じた優勢を、皆の高揚感を、ここで早々に覆されたくはない。
まだ先は長いのだ。
―― 一閃
太刀を閃かせ、蛇の化け物の首を狙う。
ズルリ ――
皮が一皮むけたのみで肉は斬れずに刃が滑った。
「くそっ」
蛇の妖は、頭を振り回す。
ドオオォンン!!
土煙が舞った。
周りの木々が薙ぎ倒され、塀もふっとんだ。
「なんだ、あの頭の威力!」
高岡は思わず足を止める。
蛇が鬼頭の背後から襲いかかる。
「くっ!」
すんでのところで転がりながら攻撃をかわした。
膝をついたままの鬼頭に、今度は蛇の尻尾が振り上げられる。
―― キィイイン
高岡がその尻尾を刀で弾き返した。
「はぁはぁはぁ」
(鬼頭隊長がやられたら、一気に劣勢になる)
高岡は鬼頭と蛇の間に立ちはだかった。
蛇の目が後方に向く。
(何だ?
今度は何を狙ってる?)
心臓の音がおさまらない ――
(俺は ――
こんな前線で戦えるような腕はないのにっ)
蛇は、まるで地面を滑るようにスルスルと体をひねり、警察の後衛が控える方角、病でふせっている隊士たちの部屋がある方へ進み始める。
「いかん!
防げ!」
後方で戦いを見ていた十人の隊士たちは、急いで刀を前に構える。
中には新人の神崎の姿も見えた。
足が震えている。
「前衛も後衛の援護に回れ!」
(蛇を所内に入れれば、多くの人間がやられる!)
鬼頭は汗を拭う。
(病の人間を殺させるわけにはいかん)
隊士に取り囲まれた蛇は、突如、頭と尻尾の両方をぐるぐるとまわし暴れ始めた。
硬い頭と太い尻尾がまるで棍棒のように振り回された。
土が捲れ上がり、重たい石が吹き飛ぶ。
「まずい!
下がれ!!」
鬼頭の言葉に、高岡はすぐにその場から飛び退く。
蛇に向かって構えていた隊士の刀が数本、尻尾に当たり吹き飛ばされた。
数人の隊士が、尻尾の直撃を体にうけ、地面や壁に叩きつけられる。
「田村!」
高岡と仲良しの第二隊の隊士も飛ばされ、地面につっぷした。
「大丈夫か?」
「腕をやられた」
駆けつけた高岡に田村は腕を抑えて答える。
見ると、腕がぶらぶらと心許ない。
「くそっ。
頭も尻尾もまるで凶器だ。
どうやって倒せって言うんだよ」
「尻尾から切り落とせ!」
鬼頭の声に焦りが混じる。
(落ち着け。
ここでまともに戦えるのは俺と鬼頭隊長だけだ)
高岡は走った。
(俺がやる!)
蛇の妖が、前方の隊士達に気を取られているうちに、高岡は蛇の後ろに回り込む。
蛇の尻尾は空高く上がったり地面に叩きつけたりを繰り返している。
(振り下ろされた瞬間を狙う)
高岡は腰を低くし、全ての神経を刀と、握る指先に集中した。
上
下
上
「今だ!!!」
尻尾が振り下ろされた瞬間、剛鳳ごうほうを下から上に薙ぎ払った。
―― ズババババ!
手に肉を斬り上げるような、生々しい感触が伝わる。
腕がちぎれそうだ!
ズバン!!!
巨大な蛇の尻尾が、宙を舞った。
「田村の仕返しだ!!」
ドサリ!
まるで生きているように、落ちた尻尾が暴れまくり、そして動かなくなった。
(やってやったぞ!!!)
ふと蛇を見ると、怒り狂った目が高岡をギロリと睨みつけた。
「やば!」
足がすくむ。
蛇の口が開かれた。
鋭い牙と細い長い舌がチロチロと見える。
瞬間、ものすごい速さで高岡めがけて飛びかかる。
蛇の目と高岡の目があった。
(食われる!)
一瞬の出来事だった。
高岡の目の前に鬼頭が走り寄る。
そのまま蛇の頭に飛び乗り、素早く眉間に刀を突き立てた。
ギェェエエエエ!
恐ろしい唸り声をあげ、蛇は高々と鬼頭ごと頭を持ち上げた。
「鬼頭隊長!!!!」
頭を振り回す蛇に刀を突き刺したまま、鬼頭もぐるぐると振り回される。
右に、左に。
「鬼頭隊長!
手を離してください!」
(吹き飛ばされる!)
高岡は蛇の近くまで走り寄る。
「離してください!
もう十分だろ!」
言葉が荒くなる。
蛇は一度、口を開け、空高く叫んだかのように見えた。
持ち上がった頭がぐらりと揺れる。
―― ヤバい!
そのまま、ものすごい速さで、ズシンと地面に崩れ落ちた。
土煙が庭中に舞い上がる。
皆、すさまじい音と煙に視界を奪われた。
蛇の頭から人影が振り飛ばされるのが見えた。
「鬼頭隊長!」
煙の隙間から、地面に横たわる姿がみえた。
高岡の頭は真っ白になった。
まさか!
そんな!
足をガクガクいわせながら、高岡は鬼頭のそばに走り寄った。




