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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第四章 裏切るということ
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第59話 柄にもなく必死に走る

綾小路は背に大きな荷物を背負い、江戸への道を急いでいた。


気の利く京都警察によって、京都から江戸へ使者が放たれており、京都まで行かずとも途中で依頼していたモノを受け取ることができたのだ。


荷物の中身は相良の読み通り、大量の薬が詰め込まれていた。


警察隊だけでなく、江戸の者たち全てを救える数だ。




「まずは、一安心。


 次は追ってきているであろう刺客との鉢合わせを、どう回避するかだな……」




寒さと数日による旅で疲弊している。


荷物もかさばる。




しかし……




「これだけは、なんとしても守り抜かねば」




(たとえ、一袋たりともムダにはできぬ)




ふいに、左右から鋭い殺気を感じた。


正確には、殺気をもつ者の存在を式が教えてくれた。





―― 茂みに身を隠す。





浪人風情の男二人が真正面の道から急ぎ足で現れた。


きょろきょろと周りを見渡しながら進んでいく。




(人数が少ない。二手にでも別れたか)


綾小路は息を殺して通り過ぎるのを待った。


警察所までは、あと一日もあれば着くだろう。


それまでは何としても守り抜く。




「そろそろ、あそこに薬だけでも隠して身軽になるか」


薬さえ無事であれば、とりあえず目的は果たしたことになる。




そう呟いた時、背後から走り寄る男の姿が見え隠れした。




(もう一人いたか!)


綾小路は腰を低くしてその場を離れる。




しかし、男がその後を追いかけてくる。


(見つかった!)




後ろも振り返らず、ひたすら茂みの奥へと走り続けた。




―― 男を振り切らねば!




(この荷を渡すわけにも、隠す前に斬られるわけにもいかない)


綾小路は、柄にもなく必死の形相で茂みを駆け降りた。





足が痛む。


肺が苦しい。


凍てつく空気で口の中がカラカラに乾く。


長旅で疲れ切った体が悲鳴を上げる。




それでも走ることだけに全ての意識を向けた。




もはや、己の命よりもこの荷を隠すことのみに全てを捧げる。





綾小路は道を外れ、茂みの奥へと駆け込んだ。




足元もろくに見えぬ。


それでも、追っ手の足音を聞き分けながら、足音が遠のく方へと必死に進んだ。




やがて――




足音が聞こえなくなった。




「……まいたか」




綾小路は荒い息を吐きながら、周囲を見渡した。




目的の隠し場所が迫ってきた。




周りを見渡し、追っ手を引き離したことを確認すると、目の前に見える神社の境内を守るように立つ、巨木の根元へと近づいた。





―― ご神木





苔むした根元の小さな空洞に薬を袋ごと押し込み、上から落ち葉や土を被せる。




「神がいるなら、この薬、お守りください」




普段、神頼みなどしない。


しかし、静かで神聖な時間が流れたように綾小路は感じた。




そこで一礼すると、急いでその場を離れた。





―― はぁはぁはぁ





我ながら無様。


このように取り乱すなど。




いつもは体を使うより、頭を使ってきた。




しかし今はそのような余裕もない。


とりあえず、あの隠し場所から少しでも遠くへ逃れること。


それのみに集中した。




左手から走る音が聞こえてくる。




(来たか!)




しかし足音は右手からも聞こえてきた。





(挟まれたか)




息を切らしながら刀を抜いた。




(分が悪い)




数でも負けている上に体力も削られている。




左手から抜刀した男が二人姿を現した。




「さっき通り過ぎた奴が戻ってきたか」




向こうもこちらにむけて、走る速度をあげてきた。




逃げ場はない。




逃げても背を斬られるのみ。




(ならば)




刀を握る手に力を込める。




「ここを突破し江戸へ戻る!」




言うが早いか――




綾小路は二人へ向かって走り込んだ。

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