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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第四章 裏切るということ
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第58話 近衛の裏切りか

高岡は診療所を出るとそのまま警察所へと向かった。


まだ診療所にいる仲間たちは回復できておらず、警察所も病人ばかりで散々たる状態だと耳にした。




「なぜ俺だけが」




高岡は、あと数日で命を落とすかもしれないところまで病状が悪化していた。


医者からもうつ手がないと言われ、自分もこのまま苦しい思いをするなら死んでも良いとさえ思っていた。




しかし、清雅の遣いだと言う藤乃があらわれ、高岡に薬を手渡した。


それが嘘のように効いたのだ。




「あの薬、いったいどこで手に入れたのだろう」


そしてなぜ自分だけに渡されたのか……。




考えれば考えるほど、胸の奥がざわついた。






警察の入り口に立つと、いつもは開け放たれている門が閉められたままとなっている。




中へ入ると、あちこちから咳をする声が聞こえてきた。




「マジかよ。


 これ、無事な人はいるのかな」




とりあえず清雅を探し出し、薬の入手方法を聞き出さなければならない。


しかし、あちこちの部屋をのぞいたが、清雅の姿はみつけられなかった。





「近衛、お前……」


高岡は警察の現状を見るに耐えられず外へ出た。




「どこに行っちまったんだよ……」




納得がいかない。




そもそも、薬を持ってきたのが藤乃という女であったことも納得がいかない。




(あいつ、妙な気をおこしたりしていないだろうな)





その時、背後から藤堂が姿をあらわした。





「藤堂さん!


 無事だったんですね」




高岡の元気そうな顔を見て、藤堂はにわかに信じがたいとでも言いたげに口元を手で押さえた。




「高岡……お前、幽霊か?」




「久々に会ったのに、それですか?」


高岡は目を細めて藤堂を睨んだ。




「ところで、近衛が見当たらないのですが」


高岡の言葉に、藤堂の顔がにわかに曇る。




「藤堂さん!


 何か知っているんですね?」


高岡の必死な眼差しに、藤堂は視線をそらし思案するように腕を組んだ。




言うべきか迷っているのだろうか。


いや、感情を整理しているようにも見える。




「近衛はな」


口元がかすかに歪むのが見てとれた。




「あやかし連合のところへ行った」




「……」




「え?」




藤堂の顔には失望と不審の色が濃く滲み出ていた。




「なんで?」




「知らん」




藤堂の声を聞きながら、高岡は頭が真っ白になる。




(あいつ、裏切ったのか?)


(いや、そんな)




「相良隊長が言うにはな」




藤堂は話を続けた。




「五日後に、あやかし連合に乗り込み、近衛を連れ戻すそうだ」




そこで大きなため息をついた。




「今回ばかりは賛同できぬ」




目を瞑り俯いた藤堂の眉間のあたりに血管が浮き出るのを高岡は見逃さなかった。




「どれだけの仲間が苦しんでいると思う?


 そして江戸の人々も……」




「近衛は、裏切ったりはしない」


高岡は思わず口走った。


「そう、私と約束しましたから……」





「理由は知らんが、あやかし連合へ己一人で赴くなど、内通者としか思えまい!?」


藤堂が奥歯を噛み締める音が高岡にも聞こえた。




「それ以外に何がある!?」


そこで初めて藤堂が怒鳴った。




高岡は思わず唾を飲み込んだが、清雅があやかし連合の頭と兄弟であることは、まだ誰も知らないのかと、胸を撫で下ろした。




(とにかく、近衛は俺を助けてくれた)


それだけは事実だ。


(あいつを信じよう)





「ところで、攻め入るにしても、今無事な隊士はどれくらいいるのですか?」


高岡の問いに、藤堂はさらに深いため息をつく。




「病状が軽いものもあわせれば、三分の一は病にかかっておる。


 隊長副隊長でいえば、三人が動けぬ状態だ」




「誰が……倒れたのですか?」


高岡の額に汗が滲んだ。




「第五隊の柴田副隊長、


 第三隊の黒崎隊長、


 第二隊の一ノ瀬隊長だ」




そこで藤堂は「俺も時間の問題かなぁ」と空を見上げた。




「……一ノ瀬隊長も?」




高岡の顔から、わずかに血の気が引いた。


胸がドクンとなった。




(これ……本当に、警察まずいんじゃないのか……)




高岡は無意識に拳を握った。




(それだけの人数が動けぬのに、はたして敵の本拠地を叩くことができるのだろうか)




いや、相良のことだ。


何か考えがあるのだろう。




主力部隊となる、黒崎、一ノ瀬が倒れている。


それでも相良は乗り込むと言っているのだ。




(絶対、何か策があるはずだ)




そうでも思わなければ、高岡は不安に押しつぶされてしまいそうだった。




今の自分には、相良を信じる。


それしかなかった。

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