第48話 剣客のこれからとは
「高岡さん知りませんか?」
清雅は第一隊の部屋をのぞく。
先輩たちが首を振り、知らぬと答えた。
「今日は一緒に見廻りの担当だったはずだけど……」
首をかしげる清雅の背後に大きな影がかぶさる。
「近衛さん」
清雅が振り返ると、そこには岩崎が立っていた。
「あれ?もうお許しが出たの?」
清雅の優しげな笑顔に岩崎は思わず照れたように頭をかいた。
「迷惑かけました」
以前までの張り詰めた空気は消え、肩の力が抜けたような気がする。
清雅は岩崎をしげしげとみつめた。
『本来のこの男の性格がやっと前に出てきたのだろう』
九曜の言葉に、なるほどと清雅は独りごちた。
「ところで、近衛さん。榊と神崎を見ませんでしたか?」
「榊さんは第四隊のエリオット隊長と一緒だよ。
銃だけでなく、今後、警察におりてくるであろう、西洋の武器を徹底的に身に付けたいらしい」
清雅は榊の貪欲さに驚いていた。
(入隊そうそう、自分の価値観とは違う新しいものを取り入れるその力、おなごゆえの柔軟さだろうか)
「神崎は?」
その言葉に、清雅は少し気まずそうな顔をする。
岩崎には聞きたくない答えを言わなければならない。
「神崎くんは……」
清雅はわざとらしく咳払いをした。
「相良隊長の部屋に呼ばれている」
「……」
岩崎は押し黙った。
その重苦しい空気に耐えかね、清雅は早々に説明を付け加える。
「神崎くんの実家が貿易商だろ?
だから、今後の西洋との取引について、いろいろと教わりたいと相良隊長が……」
「それって、これからの取引に、神崎も呼ばれる可能性があるということですか?」
するどい岩崎は、神崎の立ち位置が、警察ではなくてはならない存在になりつつあることに気づいた。
「まあ。
多分……」
(ルブランが許してくれるなら……)
岩崎の強く握る拳を見ながら、清雅は言葉をにごした。
「私は……」
岩崎は下を向くと唇をふるわせた。
「私は、どうすればいいと思いますか?」
低く、しかし、とまどうような声で岩崎は清雅に問うた。
「このままでは駄目だと、わかっています。
同期はどんどん、自分の居場所を自分でみつけている。
私も、なんとかしなくてはいけないと……」
「岩崎くん」
清雅は岩崎の肩に手を置く。
今度は、岩崎の心としっかり向き合わなくてはいけない。
(あの時、道場での手合わせで、気づいてあげられなかったから、岩崎は重田に利用された)
「まずは、焦らなくていいから」
清雅は慎重に言葉を選んだ。
「あと、今後、多分」
そこで目を細め下を見る。
「剣の腕だけでは、難しい時代が来る」
岩崎が唾を飲み込むのがわかった。
「剣以外で、己が誇れるものをみつける方がいい」
「剣、以外でですか?」
顔をあげた岩崎の目は、とまどい、今まで考えもしなかった問題をつきつけられたように、視線が彷徨っていた。
「岩崎くんは、どうなりたい?」
岩崎は、清雅が真剣に自分に向き合ってくれていることに気づいた。
(正直に言おう。この人には)
「私は、相良隊長のようになりたいです」
もう答えは出ていた。
自分でも驚いた。
(俺は、相良隊長に憧れている。
憧れているのに、全く自分を見てくれないことに、ずっと憤りを感じていたんだ)
(まるで子供だな)
岩崎は自分自信に、笑いが込み上げてきた。
「じゃあ、無理矢理でも、相良隊長の部屋におしかけたら?」
冗談で言っているのかと思い、岩崎は笑いながら清雅を見たが、清雅の顔は真剣だった。
「今なら、相良隊長は神崎くんと部屋にいる。
岩崎くん一人で行きにくいなら、私も一緒に行くから」
「近衛さん……」
なぜだかわからないが、岩崎の顔が熱くなった。
心がひとりでに燃え上がり、急に相良隊長にこの思いをぶつけたくなる。
「私!
行ってきます!!!」
大声で叫ぶと、そのまま廊下をすごい勢いで走り、相良の部屋まで突っ走っていった。
『良かったのか?』
九曜の問いかけに答えず、清雅は呆然と岩崎を見送っていた。
(正直、即行動するとは思ってもいなかった……)




