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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第三章 信じるということ
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第47話 不穏な空気

警察所の角にある部屋。




高岡は喉のつかえがひどくなったと感じながらも、重田の穴埋めに職務に追われていた。




―― ゲホッゲホ




角の部屋から咳き込む音が廊下まで響き渡る。


今朝も数人、咳がひどくて寝込んでいるようだ。





(風邪をひく隊士が増えたものだ。


 しかも、なかなか治らない)




自分も滅多に風邪などひかぬタチだが、今回ばかりは誰かしらからもらったのかもしれない。




「高岡くん、熱があるんとちゃう?」


廊下ですれ違った綾小路に声をかけられた。




「え?」


考え事で頭がいっぱいになり、綾小路とすれ違ったことさえ、気づいていなかったようだ。


腕組みをしてじっと高岡を見つめる綾小路の後ろから、高階が棒つき飴を口にいれ、咳が聞こえる角の部屋に目をやっていた。




「また、嫌な予感がしてきたわ」


「ただの風邪でしょ?」


いちいち大袈裟な綾小路に、高岡が眉をひそめた。




「だったらええけど、江戸の町も注意深く見ておけばいい。


 みんな咳き込んでるよ」




「まさか」




(労咳など、やめてほしい)




「まあ、あまり無理せんことやね」


そう言うと、そっと口元に手を添えて、綾小路はその場を去った。




(俺が?労咳?)


高岡は嫌な気持ちをおさえこむように、大きく息を吐き出した。






その晩、一ノ瀬と相良は久方ぶりに月を見ながら二人で酒を飲んでいた。


相良は酒の入った徳利を傾け手酌する。




それを一ノ瀬が眠そうに見つめていた。




「ここに来て十年になるな」


ふいに相良に話しかけられ、前に倒れかけていた頭をぐいっと戻す。




「ようやく、相良さんの願った警察に近づいたのではないですか?」


一ノ瀬は目をこすりながらも愛想良く笑いかけた。




「あの頃は、隊士の命なんざ上の采配次第だったな」


「おかげさまで気丈夫に育ちました」


一ノ瀬が警察へ来た頃は、まだ十一だった。




それが、年を越せば二十二になる。




「早いものだ」




相良は優しげに一ノ瀬を見やった。




「ワシがここへ連れてきたせいで、苦労させたな」


一ノ瀬は、眠気も酔いも一瞬で覚めたように目を見開いた。


「そんな風に思っていたんですか?」




ふいっと相良は視線をはずし、あぐらをかいた自分の足元をみつめる。


「酒を飲むとしんみりした気持ちになっていけねぇな」




「本当ですね。


 今宵は、この十年で一番物事が動いた日ですよ。


 僕は、西洋の技術を、どう活かしていくのか、間近でみるのが楽しみで仕方ありません」


一ノ瀬は相良に酒を勧めた。




「僕は、相良さんと一緒にここで働けて、毎日が楽しいです」


そうにっこり笑う一ノ瀬の顔を、相良は胡散臭そうに見た。


「お前は本当によくわからん奴に育ったな」


ついでもらった酒をくいっと飲み干しながら、相良は一ノ瀬の頭をくしゃくしゃと撫でてやった。

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