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明治維新がこなかった....(下)  作者: yuyuko50
第三章 信じるということ
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第46話 西洋の技術

城へ着くと相良たちが通された部屋は、以前、小笠原から叱責を受けた部屋より、一回り小さい所であった。




四人がそれぞれ下座へ座った頃、廊下を歩く音がした。




「一人だけだね」


一ノ瀬が、この男の癖なのか、すぐに人数を伝えてくる。




「お久しぶりです」


顔を出したのはルブランだった。




清雅は思わず頭を下げるのを忘れ、そのまま笑顔で返した。




「土下座とかはやめてください。


 私はあなたがたとは対等だと思っているので」




「じゃあ」


言うと相良はそのまま、あぐらをかいた。


そんな相良の態度に、清雅と黒崎は思わず目を剥むく。




相良の隣に座していた黒崎は、思わず相良の膝をたたくが、それを見てルブランが「大丈夫です」と笑顔で返した。




「今日、お呼び立てしたのは……」


「うなぎ屋に行きそびれたことか?」




真剣な顔で話を始めようとしたルブランの口が、一瞬ぽかんと開いたままになった。




「えっと……


 違います」




相良は笑った。




「相良隊長。


 少し、悪ふざけがすぎませんか?」


さすがに黒崎がたしなめた。




清雅は一ノ瀬を見たが、一ノ瀬はなぜか目を瞑っている。




「相良……


 呼び出したことで、気を悪くしているのなら申し訳ない。


 実は、私は幕府のお偉方から、通商の話をもちかけられた」




結論を急ぐようにルブランは早口になった。




「今日は、そのことで、あなたに話をしたいと思って、きていただいた」


ルブランはそこで息を吐いた。




「私は、あの者たちに、私たちの国の技術を伝えるつもりはない」




その言葉に清雅は思わず唾を飲み込む。


一ノ瀬が目を開けたのがわかった。




「私は、するのであれば、信頼できる者と技術やモノのやりとりをしたいと考えている」




「つまり?」




先ほどまでの態度は消え、相良の顔からは、相手の真意を見抜くような、鋭い視線が放たれていた。




「つまりは……」


ルブランは一度目を閉じ、相良の目をまっすぐに見つめる。




「あなたを通して、取引をしたいと考えている」






部屋は静まり返った。






皆、誰かの次の発言を待っているようだ。






清雅は、自分の心臓が耳元で大きな音を立てているような錯覚を覚えた。





(西洋との取引を、警察の隊長が行う?)





一ノ瀬を盗み見た。




表情は全くかえず、姿勢を正して前を見ている。




前に視線をやると、黒崎の肩が、ほんのわずかに震えているのが目に入った。





技術。




つまりは、飛行船。


蒸気機関車。


銃。




などもさることながら、娯楽、教養。


それら全て、何が利があり、何が不必要なのか。


上が取り決めていたことを、警察所の隊長が取り決める。




そういうことなのだ。





それはある意味、日本のこれからを左右する、大きな選択肢を担うということに等しいのだ。





「相良…」


ルブランは不安そうに目を細める。


「やってくれるだろうか?」




相良は答えなかった。


代わりに、ゆっくり目を閉じると「なぜ」と一言、言葉を発した。




「なぜ、お前たちは、その技術を授けようとする?金のためか?」




黒崎は息を吐き出した。




なぜ。




なぜ、即答せんのだ、我が隊長殿は。




焦りが黒崎の背から伝わってくる。





「お金のためではありません」


ルブランは少し心外そうに眉をひそめる。




「前にも申し上げたとおり、私たちの目的は世界の幸せの均衡を保つこと。


これは世界の平和を保つことにも等しいのです」




相良は閉じた目をきつく瞑る。




「ワシらが、江戸の平和に手を焼いている中、お前たちは世界規模での平和活動に尽力しているというわけか」




清雅の手に汗が滲み出てくる。




(相良隊長は何を迷っているのだろう?ルブランの気が変わらないうちに、早く決めてしまえば良いのに)





「それは…」


ルブランは身を乗り出し、相良の顔を見やる。




「あなたのせいではない」




しばし沈黙が流れた。




「私は、ここに来るまでは、技術の提供が裕福につながると信じていました」


そこで首を左右にふった。




「しかし、ここには、それ以上のもの、もっと言えば、技術発展の代償に、我々が無くした大事なものがたくさんあった」




『ほう』


九曜が初めて声を上げた。




「技術発展は人も金も大きく動きます。


その時に、本当に大事な物まで失う可能性もある。


しかし、武士の魂を持つ、あなた達なら、それを防ぐことが可能だと思っているのです」





和魂洋才。


士魂商才。





まだ無いこの言葉。





それ以上に、妖と、伝統、多くの神と感謝、人とのつながり。





それらは守る必要のあるものだとルブランは感じていた。





ルブランは目を瞑り顔を上げた。


その目に焼きついた人々と江戸の町並みを思い浮かべる。




「どうか、私たちと共に、まずはこの国から、そして、いずれは世界を変える取引を、していただけませんか?」




相良は黙ってたいた。




そして、おもむろに立ち上がると、ルブランの前に歩み寄る。




ルブランも思わず、その場に立ち上がった。




相良は右の手をルブランの目の前に差し出した。


ルブランは、その手をじっと見る。




「今度は間違いないか?」


言うと口元を緩ませた。


「ええ。


 完璧です」


ルブランは笑顔で返し、相良の右手を力強く握り、握手した。




握手をかわすルブランの顔からは、幸せとは他者を思いやる余裕をも生む、素晴らしいものであることが、伺い知れた。

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